自作選

keith_mildが今まで書いたtwitter小説のうち、個人的に気に入っている作品をピックアップしてみました。 眠い中で選んだので、割と偏った作風だと思いますが、書いている時も概ね頭が働いていない状態ばかりなのでたぶん問題はないと思います。
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@keith_mild

道を往く。空気を切り裂き、砂塵をまとい遠くまで。賑やかな音を立てて走るそれは、赤信号の交差点に突っ込み、呆気なく鉄の塊にぐしゃりと潰された。#twnovel

2010-07-07 20:11:20
@keith_mild

ふと己の手を見やれば、それは知らぬ内に皺を増やしていた。学生の時分よりいくらか節くれだち、薄く指に毛が生えている。若さの欠片もない両手を見て、だが私は嬉しく思っていた。それは遠い記憶の中。私の頭を不器用に撫でていた、あの父の手に似ているからだ。#twnovel

2010-07-19 11:31:16
@keith_mild

家の裏手にある小川の前に彼女はいた。「月が綺麗ですね」雲に隠れて月は見えない。けれど、私はいつものように話しかけた。「そうですね」それもいつもの返答。せせらぎに身を任せ、しばしの無言。「――蛍が」彼女が呟いた。視線を辿れば見えぬ月の代わりに、蛍が身を焦がしていた。#twnovel

2010-07-29 20:57:40
@keith_mild

常闇の森の奥にいつもの雨が降る。午後四時、日の届かぬこの地に夜を告げる貴重な雨だ。多くの雨粒は大木によって遮られ、その身を濡らすのみ。それでもいくつかの雨粒はそのまま大地へ落ち、ぴちゃんと弾ける。それは森の生きる物たちの息吹によって生命の賛歌となり、森を巡るのだ。#twnovel

2010-08-16 12:02:40
@keith_mild

公園で幽霊が見えると喚いている少女がいた。誰も彼女に関心を抱いていないようだ。それでも彼女は相変わらず同じ事を声高に主張している。私からすればそれは興味深くも滑稽な話だった。幽霊が見えるということの何が特別なのだろう。彼女自身がその幽霊と呼ばれる存在だというのに。#twnovel

2010-08-17 21:28:21
@keith_mild

鼠が一心不乱に走り抜ける。世界の三分の一を覆う驢馬の背中を。鼠の尻尾は揺らめく太陽のコロナに火を点されて、人々を導くトーチとなっている。でも、僕は知っているんだ。その鼠を操っている道化師は人類に絶望しており、彼はレミングスのように黒い海へ落とそうと企んでいる事を。#twnovel

2010-08-23 22:40:19
@keith_mild

夜空の星が砕けて金平糖になるように、僕が砕けたら何になるのだろう。甘かったらいいけれど、もし辛かったりしたら嫌だな。食べたらチクチクと口の中を刺してしまうような、そんなガラスの破片みたいなモノにもなりたくない。できればふわふわの、甘いわたあめのようになりたいんだ。#twnovel

2010-08-24 16:06:36
@keith_mild

黄金色に輝く石を砕いて、中から古代に生きた虫を取り出そう。現在を知らぬ彼らは戸惑い、畏れるだろう。その様を見て、我々は知らなければならない。生み出してきた歴史の塵芥は誰も分からないほど堆く積もり、彼らが生命を育んでいた大地はもう見えなくなってしまったという事実を。#twnovel

2010-08-24 18:59:06
@keith_mild

母の涙を拭うのに、どのくらいの力がいいのか分からなかった。万感の思いを込めた一滴を、撫でるようにしては拭いきれるか不安だった。だから僕は逡巡の後、ハンカチを取り出し、そっと手渡した。母は僕の思いを見透かしたように泣き笑いの顔のまま、小さく「ありがとう」と呟いた。#twnovel

2010-08-24 20:12:43
@keith_mild

就寝時に口の中へ異物が入る確率はそう低くはないらしい。埃だけでなく、ダニ、ゴキ――おっと、そんな嫌そうな顔をしなくても。知らぬうちに侵入者というものはやってくるという話なのさ。……さて、話を戻そうか。今の話を踏まえて、この星は既に宇宙人に侵略されていると思うかい?#twnovel

2010-08-27 12:03:46
@keith_mild

突然、妻が半狂乱になり「人の形をした化物がいる」と叫びだした。その有様は只事ではなく、真に迫るものを持っていた。だが、本当に「人の形をした化物」は存在するのだろうか。そもそも、ここ最近人を見た記憶がない。いま、此処にいるのは不気味に蠢く、不定形の肉塊だけなのに。#twnovel

2010-08-31 11:55:28
@keith_mild

この世の果てにある駅へと向かう列車が私の住む町にもやって来た。皆、こぞって切符を片手に列車へ乗り込んでいく。しかし、妙なものだ。この世の果てがどこだか分からぬのに乗るのだから。案外、普通にくるりと星を巡り、またこの町へ戻ってくるのかもしれないのに。#twnovel

2010-09-01 12:10:28
@keith_mild

まんまるお月さまにはちみつとバターをたっぷりつけてね、それをフォークでぷっすりさしたら、お口をあけてぱっくりたべるんだ。そうしたらきっとママはにっこりわらって「あら、たいようみたいにわらうのね」っていってくれるんだよ。#twnovel

2010-09-02 12:04:50
@keith_mild

眼前を電車が走り抜ける。轢かれぬと分かっていても、なお恐怖を煽る速さだ。私は動かない。轟々と電車が通り過ぎる様を見つめている。ああ、恐ろしい。こんなに恐ろしいものはない。いや、だからこそ。次に来る電車が私の全てを消してくれるだろうと、そう思ったのだ。#twnovel

2010-09-07 20:32:26
@keith_mild

屍人になっても貴女を護ってみせます、と言った騎士がいた。彼は確かにその覚悟があったのだけれども。今、逆の立場になった騎士の心は崩れようとしていた。騎士の前には醜悪な風体となった護るべき人。騎士に護られるべく、屍人になっても現世に留まる事を選んだ一人の女がいた。#twnovel

2010-09-10 22:41:37
@keith_mild

単色の万華鏡には人の残骸が入っている。カラカラと音が鳴るのは骨の欠片。見えるのはソイツの悪意。ウンザリするくらい真っ暗な景色は華というよりはそれにたかる虫みたいなもんだ。臓物の暖かさが残る万華鏡、今ここにあるんだが、ちょいと覗いてみるかい? #twnovel

2010-09-10 22:53:13
@keith_mild

氷砂糖を頬張り歩いていると、いつの間にか蜃気楼の街に彷徨い込んだようだった。思わぬ太陽の悪戯に苦笑い。ふむと少し考えて、軒先の下に入り目を瞑った。もごもごと口の中で夏を溶かせば、瞬く間に街は九月の趣を取り戻す。上を見上げれば、太陽はそろりと雲に隠れようとしていた。#twnovel

2010-09-12 13:17:28
@keith_mild

吸血鬼は処女や童貞の血を好むわ。だからといって、初潮や精通の来ていないような餓鬼の血を啜るような変態はいない。あくまで第二次性徴を迎えた後の、青い春を満喫しているような子の血がいいわ。だから吸血鬼はトマトジュースが好きなのよ。ほら、どっちも青臭いでしょう? #twnovel

2010-09-13 17:35:10
@keith_mild

英雄は呆気ない最期を迎えた。その栄誉を妬んだ者が飲ませた毒が彼の命を奪ったのだ。人々は涙を流した。悔しいと叫び、口惜しいと泣いた。国中が悲しんだのだが、実は英雄の死を悲しんだわけではない。毒に負けるような英雄を持て囃していた、己等の見識のなさを嘆いたのであった。#twnovel

2010-09-15 15:10:48
@keith_mild

空っぽの心を放っていたら、いつの間にか空へと落ちていた。青い空に雲がかかっている様子は、まるで過ぎ去ってしまった夏の大海原を思い起こす。ぽすんと雲を突き抜けて、どんどんと深みへと潜ってゆく。太陽が近いはずなのに、何故か辺りは暗くなってきた。ああ、息ができない――。#twnovel

2010-09-16 22:34:26
@keith_mild

星を巡る旅へ出掛けよう。君の知る星を一つ一つ回って、太古の記憶をなぞるんだ。写真なんて撮らなくてもいいし、お土産もいらない。彼等の刻んだ時の、ほんの少しを頭の中に詰めて、たくさんの思い出にするんだ。いつか地球へ戻ってきた時に、とびっきり楽しいお話ができるようにね。#twnovel

2010-09-21 12:38:04
@keith_mild

蠅の羽音は正確に時を刻む。振り子はそれを真似てコチコチと騒がしくしているだけだ。終末、浜に打ち上げられた大量の死骸に纏わり付いて、蠅は盛んに羽を震わせる。腐り落ちる肉の音に負けぬように。酷使された肉体が自壊し、別の蠅が纏わり付くその時まで。蠅は正確に時を刻むのだ。#twnovel

2010-09-24 15:06:36
@keith_mild

千切れた文字とて、丁寧に繋げてゆけばいつかは一葉と成り得る。拙い言葉の羅列でさえ、葉脈の如き紋様なのだ。ましてや思いを練り込ませれば、言葉を青々と生い茂らせることも出来るだろう。たった一枚の便箋が、大木となり得る。枯れることのない、常緑の言葉が此処にある。#twnovel

2010-10-01 04:02:38
@keith_mild

ホッチキスで瞼を綴じられた。鋭い痛みが覚醒を促すけれども、できることといえば血の涙を流すだけ。そのうち眼球が腐り果て、きっと心も後を追うのだろう。さて、無体な仕打ちをした者は優しさで行ったのだろうか。耳に残った母のような声色だけがそれを知っているような気がした。#twnovel

2010-10-03 10:01:35
@keith_mild

ねっとりとした粘り気のある雨が午後四時に降る。日中、太陽に熱せられたアスファルトが雨を溶かし、コールタールと混ざり合って歪な形になってゆく。余りにも歩き難いものだから、僕は道端のベンチに座って誰かが均してくれるのを待つ。傘も指さずに、じっと。縮こまるように座って。#twnovel

2010-10-03 10:11:38