自作選

keith_mildが今まで書いたtwitter小説のうち、個人的に気に入っている作品をピックアップしてみました。 眠い中で選んだので、割と偏った作風だと思いますが、書いている時も概ね頭が働いていない状態ばかりなのでたぶん問題はないと思います。
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@keith_mild

空を知らぬ子供が地下室で歌を唄う。調子外れのメロディが六面を叩き、賑やかに跳ね回った。でも。朝の爽やかさを歌ったのに、それは蛍光灯の明るさでしかなく、夜の静けさを歌えば光源のない暗闇と同じだった。空を知らぬ子供の歌は、空を知る大人の心を無自覚に責め続けている。#twnovel

2010-10-03 22:06:24
@keith_mild

#twnovel 夏の盛りに百葉箱へ隠した蝉の抜け殻は、いつの間にか消えてしまっていた。破られた殻が飛んでいくわけがないので、このうらぶれた裏庭にある百葉箱を開けた奇矯な人間がいるということになる。閉じた世界を裂いた誰かがいるのだ。それが蝉ではない事だけは分かっているのだけれど。

2010-10-11 15:23:05
@keith_mild

#twnovel 貴方は何を見たのだ。苦悶の表情で目を見開き、眦から血を流し、顎は外れ、声は涸れ果てて。それでも尚、何かを伝えようと爪の剥がれた指で宙を示す。その先にあるのは何なのだ。例えばこの世の理を知らぬ、透明な胎児のようなものが躍っているのか。まさか、まさかとは思うが――。

2010-10-12 19:25:13
@keith_mild

#twnovel 逃げ惑う水の裾。分かりやすい終了の合図。高らかに鳴り響くサイレンが砂を灼いた。不審者気取りの紳士は思慮深さを隠さず人々に微笑む。夕暮れを迎える準備はまだ。走る犬も今日の宿を見つけようとしていた。だからこそ、泣いている赤子だけは地下室に連れていかねばならないのだ。

2010-10-12 20:04:04
@keith_mild

#twnovel 家畜の見る夢を知る事は許されない。神が機械的に我々を管理するように、人もまた家畜の心を知ってはならない。それが苦しみであり、種の交わりの限界なのだ。だが、それでも私達が彼等の夢を知りたいと思う事こそが人の美しさであり、浅ましさでもある。世界はそうして続いている。

2010-10-15 06:18:06
@keith_mild

#twnovel 絞首台は二人で乗るには狭すぎて、君と僕が共に死ぬならもう一台、用意しなければならなかった。でも、そんな気力はとっくに尽きていたから、僕は静かに君の首を手折ることにした。心臓にこびりついた人間らしさを拭い、そっと首に手を掛けた。君の髪を撫でる時のように、優しく。

2010-10-19 04:53:11
@keith_mild

#twnovel おやすみのたった一言で一日は区切られてしまう。ママの囁くような声の色は濃紺で、それから眠ってしまうまではお月様だって邪魔できない。ぽん、ぽんと少しずれたテンポでお腹を叩くママの手の暖かさを毛布代わりに、今日の終わりを幸せの中で迎える。おはようまでの短い終わりを。

2010-10-21 05:25:17
@keith_mild

#twnovel 井戸に鍵を落としてしまった。探そうにも光の届かぬ場所。更に濁った水が溜まっていて到底見つかりそうにない。誰かを投げ落としたところで鍵を見つける保証はなく、有効な術はないようだった。恨めしげに井戸の中を覗いても水は回るだけ。奇跡は起こらず、深淵は私を映している。

2010-10-25 05:50:37