短編小説『スパゲッティを泳ぐ』（倉沢繭樹）

倉沢 繭樹 @mayuqix

index3:短編小説『スパゲッティを泳ぐ』　（ #sspaghetti ） #twnovel

倉沢 繭樹 @mayuqix

短編小説『スパゲッティを泳ぐ』（２００３年）　チョコレートの壁を蟻は恐れる。不快な成分の臭いが、進路を妨害する。迂回路を探そうか、後退しようか、オロオロと迷っている。やって来た道を戻ろうと決め、カビの生えた箸をつたって慎重に歩いていく。流し台から、 #sspaghetti

倉沢 繭樹 @mayuqix

目が眩むような奈落に床が見える。力を込めて野菜屑を転がし、落としてみる。敷かれたマットに、かすかな音を立ててぶつかる。冷や汗がじっとりとにじむ。高所恐怖症だったことを思い出す。子どもの頃、近所の大きな川に落ちて以来、 #sspaghetti

倉沢 繭樹 @mayuqix

高い所に上れなくなった。絶対に安全だと思っていても、足がすくんで、喉がカラカラになり、めまいがするのだ。ああ、震えが出てきた。もう動けない。 #sspaghetti

倉沢 繭樹 @mayuqix

　いや、だが、何とかなるかもしれない。こぼれたワインの池があった。あの赤い池のアルコールをすすれば、この凍りついた神経が正気を取り戻すはずだ。池へ向かおうと歩を進めはじめて、再び、立ちすくんだ。ワインの池は、チョコレートの壁を越えた、 #sspaghetti

倉沢 繭樹 @mayuqix

腐ったサラミの岡のふもとに広がっているのだ。迂回路を行くか。しかし、神経がもたない予感を感じる。 #sspaghetti

倉沢 繭樹 @mayuqix

　突然、天が割れ、豪雨が降り注いでくる。私は蛇口をひねって、洪水で蟻を押し流そうとしている。排水溝へと無力に流されていく。もがくことも忘れて。スパゲッティの中を泳ぎたいな。ミートソースで溺れるんだ。　（ＥＮＤ） #sspaghetti