#完全ノープラン艦これ与太話 【ファックアップ・ザ・ヴェイル・オブ・イノセント・ホワイト】　#4

春魔解丼 @vespiking

「ハアッ！わたしもいこう……むっちゃ見たい……飛龍さんの晴れ姿……ウウッ」今まで浮かんでいた弥生が急に起き上がり、12.7cm単装高角砲がしめやかに火を吹いた。「ハアーッ、妄想でイケる」「あんたねえ……」呆れ顔ながら、夕張も乗り気でついていく。東へ！ #KZNPLN

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東部オリョール海、最深部。海域北部の最東端に位置するこのシンピテキ・エリアは、海底から湧き上がる霊的エネルギーに照らされ、妖しく美しい白の光を放っていた。周囲を岸壁に囲まれ、日の光は届かぬ。霊的存在のみが彩る光のステージだ。 #KZNPLN

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周囲の『猫』や敵艦は、既に阿賀野達によって始末されている。傷ついた羽黒も岩壁に腰掛け、飛龍の艶姿を眺める。疲労によって紅潮した顔は海底からの光に照らされ、淡く輝いていた。「美しい……ファックしたい」弥生。台無しだ。 #KZNPLN

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「ここで……これ付ければいいんだよね？」飛龍はいつになく緊張した面持ちだ。「綺麗な海……た、たまには戦いを忘れて……こういう綺麗な場所で、一息つくのも、いいよね……」不思議と胸が高鳴る。微かに震える左手薬指に、白銀の指輪をそっと、あてがう。 #KZNPLN

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ＺＡＢＯＯＯＯＯＮＮ！轟音とともに、飛龍を大きな、白く美しい水柱が包み込んだ。水柱が重力に身を任せ、ポタポタと音を立て、静かに引いていく。飛龍の足元が、ポタポタと音を立て……赤色の雫が光の海に広がった。ぼちゃり、と、弓が水面へ落ちる音が響いた。 #KZNPLN

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「ひ、りゅう……？」北上が目をぱちくりさせ、飛龍を見つめる。否。北上だけでなく、周りの全員が。飛龍自身も。飛龍の胸を、背から貫く、赤く巨大な秩序の刃を。羅針盤の、針を。 #KZNPLN

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「ハアーッ！ハアーッ！い、言っただろう……おぼえておけと。次は、こうはいかんと……ッ！」バチバチと火花が散る音がする。飛龍の背後から、雷撃でボロボロになったホログラム投影機がエントリーした。その上に、引き抜いたコード類を手綱めいて握り締める……四天王クリタ！ #KZNPLN

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「ひ、りゅう……ひりゅう……！」北上がヨロヨロと歩み寄る。状況が呑み込めない。飛龍の目は大きく見開き、天を仰いだまま動かない。背に埋め込まれた艤装部位が、致命的損傷を伝える歪んだ金属音を立てている。羅針盤針と飛龍は、浮力を失い自重で少しずつ沈んでいく。 #KZNPLN

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北上の頭の中で、ぐるぐると飛龍の顔が回る。食堂でのやり取り。誘ったのは自分だ。飛龍も乗り気だった。飛龍の笑顔がぐるぐると回り、現実の視界と重なって溶ける。呆気にとられたまま動かない表情に。ＢＬＡＭ！砲撃音。北上は側頭部に衝撃を受け横倒しになる。頭の混乱が加速する。 #KZNPLN

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北上は倒れたまま動かない。満身創痍のクリタが放った小口径砲。狙いも定まらぬ一撃は、北上に致命傷を与えるには至らない。だが、立てない。水平線で二分された視界に、飛龍の顔が映り、消えていく。誰のせい？自分のせいだ。自分は鎮守府総司令官なのだから。 #KZNPLN

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落ち着け。今自分が何をすべきか考えろ。北上は自分を激しく叱咤する。次の行動を考える度、飛龍の顔が頭に回る。自分はなんと無力なのか。飛龍。飛龍！飛龍を助けないと！喫水下へ手を伸ばす！届かない。もう届かない。 #KZNPLN

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飛龍の視界は、キラキラと光る水面を見上げていた。底からの光に照らされ、水上は相対的に暗い。沈んでいく自分。倒れたまま動かない仲間。そして、先刻倒した筈の……敵！飛龍の脳裏に憎悪の光景がフラッシュバックする！艦霊の底から沸き上がる呪詛が全身を満たす！ #KZNPLN

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今度こそ殺す！必ず殺す！閉じかけていた飛龍の瞼が再び見開いた！飛龍はもがく！死力を振り絞り、右手に握られた指輪へ……左手を伸ばす！飛龍はいまや、殺意と復讐心のみで動いていた！過去と現実がないまぜになり、膨張し増幅された、ドス黒く渦巻く復讐心のみで！ #KZNPLN

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震える左手薬指が、指輪に伸びる！指輪に……、だが、両手の震えは収まらない。体力ももはや限界だった。視界が霞んだその一瞬、震える左指は無慈悲にも、白銀の指輪を弾いた。指輪が、白く輝く海中に投げ出される。 #KZNPLN

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投げ出された指輪に左手を伸ばす。だがもはやそれは、指輪を掴むことすらままならぬ左手の、ヤバレカバレめいた最期の本能的動作であった。突き出された左手は指輪に触れ、指輪はさらに遠くへと旅立った。もう、届かない。飛龍の左手が力なく垂れる。視界が再び、闇に閉ざされていく。 #KZNPLN

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――その時である！遠く旅立ったエンゲージ・リングを、雷跡を伴った黒い影が掠めた！魚雷？否！魚雷よりも大きいそれは、意志を持ったような挙動で、丁寧に指輪を拾い上げる！影に跨る小さな人影が、誇らしげに指輪を掲げ、垂れた飛龍の左手に近付く。……甲標的！！北上の！！ #KZNPLN

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甲標的に跨った妖精が、力を失った飛龍の左手に、紳士的所作で指輪をはめる。花嫁を優しくエスコートする、礼装の花婿のように。その刹那！はめられた指輪から膨大な光が放出される！淡く美しく、そして力強い、桜色の閃光が！飛龍を包む！ #KZNPLN

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『エンゲージ』では、オリョール最深部の海底から湧き出す霊的エネルギーを指輪に集積し、艦娘を強化する。それを最深部の海面で行うのが当初の予定だ。それでも、十分すぎる強化が見込める計算になる。ならば、それがもし海底で行われれば、果たしてどうなるか！？ #KZNPLN

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海底から湧き出すエネルギーを、喫水下で直接全身に、そして指輪に浴びた飛龍の船体は、輝きに包まれ動き出した！胸から突き出した羅針盤針を右腕が掴み、叩き折る！上体を起こす勢いで、体内を侵していた羅針盤針から抜け出す！周囲の水が一瞬赤く染まり、すぐに桜色で上書きされる！ #KZNPLN

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船体の奥底から力が漲る。赤い血は桜色の光に変換され、肉体となって傷口を塞ぐ。全身を覆う光が上方へ炸裂し、海水を吹き飛ばす！海が割れ、光を纏った龍が水底を蹴り、翔ける！海面へ！夜空へ！天へと！！ #KZNPLN

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「ありがとう。北上」飛龍は呟いた。桜色の光は外気に触れて拡散し、桜吹雪めいて舞い踊る。「やっぱり北上は頼りになるなあ」北上は横倒しのまま動かない。横倒しのまま鼻をすすり、ぼろぼろと涙を海に注ぐ。「安心してよ。私が、やるから」飛龍は厳かに弓を構え、クリタへ向き直る！ #KZNPLN