- kisaragi_DD
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彼が勇気を振り絞って行動しても、私がその意図を知らなければ空回る。彼はそれでも何とかしてみせたかったのでしょうね。私の手を握る彼の手は力強かった。それは今でも覚えているわ。 ……そうね。確かに、彼の言う通りになっているわね。気付かなかったわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 02:39:49その日の夜、彼から電話が来たわ。相変わらず緊張した声で、私を近くのモールで過ごさないか、という電話。 ……そうね。デートの誘いだったわ。当時の私はそれがデートなど知らなかった。何か買い物に付き合って欲しいのだと思っていたわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 02:43:00私には恋人の定義がわからなかった。今でも、そうね。男女が付き合ったりデートする事の理由が分からない。 電話を終えた後、私はこの人間の真似事をいつ辞めるかを考えたわ。一ヶ月か二ヶ月か。そして私は彼と付き合うのは夏休みの間のみと定めた。 #変態不知火さん
2014-02-17 02:46:24当日、休日には必ず家に居た私が出掛けるのを見た里親はとても驚いていたわ。無趣味の私が理由もなく出掛ける筈がなかったから。彼の名前を出すと、何故か里親の二人はほっとした表情を浮かべていたわ。 ……恐らく、私がただの兵器ではなく人間らしい部分もあると思ったのね。 #変態不知火さん
2014-02-17 02:48:36私はただ、付き合って欲しいと言われた男性にモールへ行こうと誘われただけなのだけれど。 でも、里親にそれを言うのはやめたわ。その方が、あの二人にとっては良いと判断したから。 #変態不知火さん
2014-02-17 02:50:37そして出掛けようと靴を履いた時に止められたわ。彼とデートへ行くのに何故制服で行くのか、と。 ……えぇ。私は学校の制服以外に服を持っていなかったの。休日も制服。……そうね。普通の人からはとても奇妙に見えたでしょうね。 里親の二人は、その時まで何も言わなかった。 #変態不知火さん
2014-02-17 02:53:35里親の二人にとっての私は、養子ではなくクローンに住居を提供しているだけに過ぎないという結論を出していたの。 私は何も求めないから。他の艦娘なら娘のように可愛がられていたようだけれど。赤城さんや長門さん、飛龍はそう言っていたわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 02:55:53それから、私は里親に服を借りた。母親代わりのあの人は、それまで見た事がない笑顔を浮かべていたわね。……そう、楽しそうだった。おばさんくさいけれど、加代子なら似合うわ、と。 初めて、名前で呼ばれたのもその時だったわね。 それまではねぇ、やなぁ、で呼ばれていたわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 02:59:21そして彼との待ち合わせ場所に着いて、モールを歩いたわ。私の左手を取って、並んで。 何も会話がなくて、買い物すらしなかったから、私は尋ねた。 「買い物に付き合って欲しいのではないの?」「え? あ、ああ……そうですね。何か、適当なお店に入りましょうか」 #変態不知火さん
2014-02-17 03:01:49買い物の為に呼び出したのに、適当な店に入る、という時点で私は彼の行動に疑問を持っていたわ。何か目的があるから私を連れてきたのではないのか、と。 …………えぇ、そう。彼はウィンドウショッピングがしたかったのね。 当時、私はその意図を掴めていなかった。 #変態不知火さん
2014-02-17 03:03:14ウィンドウショッピングをして、私が興味を引く物があるかどうか知りたかったのね。制服以外に服を持っていなかった私が、モールの店を見ても、興味を引かれるものなんて一つもなかった。 その後彼は私に似合う服を見繕うようになった。あれでもないこれでもないと悩んでいたわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 03:06:05けれど、私は服を買いに来たのではない。 そもそも必要ないと思っていたから。 だから疑問を口にしたわ。「私には買い物の目的がないのだけれど」「……」 彼は固まったわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 03:07:29「その……加代子先輩に似合う服がないかなって……思ったんですけど」「私は服を買うつもりはないわ」「……あ、あぁ……そう……です、か……すみません」「……どうして、謝るのかしら」「……何で、でしょうね……あはは……はは……」 ……そうね。失言だったわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 03:10:19私は彼の意図が全くわからなかった。買い物の目的がないのに私をモールへ連れ出して、そして何故か私に似合う服を探し出す。 それが男女の一般的なデートだという事など知らなかったから。 ……結局何も買う事もなく、お昼を過ぎたあたりで解散したわ。 彼は落ち込んでいたわね。 #変態不知火さん
2014-02-17 03:12:43家に帰った後、私に母親からどう過ごしたのかを聞かれた。 ……そして、怒られたわ。 彼が落ち込むのも無理ない、と。どうすればよかったのかを質問すると、母親は頭を押さえたわ。 彼の事を可哀想と言っていたわね。それから、彼の誘いには応じてあげなさいと言われたわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 03:15:57何故かを口にしても、それが彼の為だからと答えただけ。 理解は出来なかったけれど、私とは違ってれっきとした彼と同じ人間の言う事だったから、それが正しいのだと判断したわ。 その夜、彼から電話が来た。 #変態不知火さん
2014-02-17 03:18:46「あの、加代子先輩。俺、頑張りますから。雑誌とか読んで勉強、します」「何の勉強?」「その、デートとか、そういう……」「男女の付き合いを、という事?」「そうです」「そう」「……俺、頑張りますから」「そう」「また、誘いますね」「わかったわ」「それじゃ、また」「えぇ」 #変態不知火さん
2014-02-17 03:20:53夏休みの間、彼はよく私に電話したわ。そう、ぐらいしか答えないのに。私も夏休みの間は何もする事がないから毎回出ていたわ。私に割く時間があるなんて、余程する事がないと思っていたわ。 けれどそれを指摘してしまうとまた落ち込ませてしまうと学んだから、言わなかった。 #変態不知火さん
2014-02-17 22:22:58色々な所へ行ったわ。「ここも、雑誌に載っていたの?」「あ、はい。……ありきたりすぎますか?」「来る機会もなかったから、新鮮よ」「それはよかった」 彼と手を繋いで、あれは何と聞けば彼が答えて。 将来戦闘には役に立たない知識が増えていったわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 22:28:18一度聞いた事があるわ。私は貴方が想像していた女? と。彼は少し俯き気味に答えたわ。「最初は物静かな人だと思っていました。けど、それは違って、何も求めないし何もしない。それに、一度も先輩の笑った顔を見たことがありません。……でも、それでも」 #変態不知火さん
2014-02-17 22:33:48真っ直ぐに私を見て、はっきりと伝えた。 「先輩の事を見限る事なんてしたくない。空回りもするかもしれないけど」 私の左手を強く握る彼は、とても真剣だった。 「……先輩に楽しいと思ってもらいたいんです。俺と付き合って、いい思い出が作れたと、言われるようになるまで」 #変態不知火さん
2014-02-17 22:37:50……真剣な彼の熱意は、私にはわからなかった。 私に使う時間があるのなら、他の人と過ごす方が良いと思ったわ。どうせ私は二年もすれば、艦娘として、加賀として戦争をするのだから。 でも、何故かしら。いつまで経っても彼に私は艦娘だと伝える事が出来なかった。 #変態不知火さん
2014-02-17 22:42:52…………そうね。もう彼を落胆させるのが忍びないと思っていたのかも知れないわ。 私と付き合っても将来を共にする事は出来ないし、二度と会う事もないと知るのは、きっと彼にとって辛すぎると思った。 それなら、せめて。 私が高校生で居られる日まで共に居ようと、決めたわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 22:46:05……そうね。夏休みまでの関係で居ようと決めていた筈なのに。気が付かない内に私は彼に変化させられていたのかもしれないわ。 当時の私は、それに気付いていなかった。……もしかしたら、私は嬉しかったのかもしれないわ。 ……人間によく似た紛い物だけれど。 #変態不知火さん
2014-02-17 22:48:29そうよ。阿賀野さんも不知火さんも同じ紛い物。人間に似ているだけ。 けれど、感情はオリジナルの物ではなく、私達の物。……クローンでも環境が違えば性格も趣向も変わるのと同じ。クローンでも、何もかもが全て同じの個体など居ないわ。 #変態不知火さん
2014-02-17 22:52:37