ごんを撃ち殺したときの兵十

俺の独り言シリーズ
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だんご @dangoinette

ごんぎつねってさ、国語の授業でよく、最期のごんの気持ちを考えてみましょう、とかやるけど、どっちかというとごんより撃ったほうのきもちのが複雑だと思うんだよな

2014-02-25 09:58:43
だんご @dangoinette

死に際の母に鰻を食べさせたい…ごんによって奪われた希望は、絶望から復讐心へと変わり果てていた。 鰻を食べようと食べまいと母は死んでいただろうに、悲しみを、不甲斐なさを兵十はごんへの怒りに変換することで生きながらえていた。

2014-02-25 10:10:44
だんご @dangoinette

一方で誰かが置いて行く栗などの山の幸。これに心癒され、仄かな希望を見出していたのも事実であった。 怒りをかかえながらも、それを押し殺し、栗を置いていく誰かに思いを馳せながら、兵十は日々を過ごしていたのであった。

2014-02-25 10:13:42
だんご @dangoinette

ある日のこと、兵十はみつけてしまった。憎き仇、あの、ごんぎつねだ。 母は死んだというのにのうのうと生きて、呑気に我が家の近くにまでやって来た。 今度は一体自分から何を奪おうというのか! 穏やかになってきていた復讐心にかっ、と、火が、炎が燃え盛った。

2014-02-25 10:16:27
だんご @dangoinette

銃を手に取り、狙いをすます。 殺してやる、殺してやる! 怒りで震え出す手を歯を食いしばって抑えながら、構えた。 発砲音。 けぃん! と、甲高い狐の悲鳴。 やった! 今度は歓喜に打ち震え、兵十はがくつく脚を走らせる。

2014-02-25 10:20:31
だんご @dangoinette

柔らかな毛並みが、どす黒い血で汚れていくのを、男は見下ろしていた。 そして、狐の周囲に散らばり、零れ落ちる栗を、見た。見てしまった。 「ごん」 発した言葉は乾いていた。ひりつく喉から言葉を絞り出す。 「お前だったのか、いつも栗をくれたのは」

2014-02-25 10:23:41
だんご @dangoinette

頭の中が真っ白になった。 仇を撃ち殺した歓喜は、消えていた。湧いてきたのは母の死後唯一の拠り所としていたものを喪った絶望と、怒りだった。

2014-02-25 10:26:33
だんご @dangoinette

どちらにせよ母は死んでいた、勝手に仇と思っていたのは自分ではないかという己と、 何処か満足げにすら見えたその狐への怒りであった。 「こんなもので!!」 栗を踏みつけようと脚をあげた。 「こんなもので…!!」 こんなもので、許しを請うていたつもりなのか、こんなもので。

2014-02-25 10:30:00
だんご @dangoinette

男の目から涙が零れ落ちる。栗の棘を濡らす。 行き場なく、脚を静かに降ろし、立ち尽くす。 銃口の煙を、秋の風が運んで行った。 〜ごんぎつね 完〜

2014-02-25 10:33:37