ア・ニンジャ・アンド・ア・ドッグ #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ア・ニンジャ・アンド・ア・ドッグ】#3

2014-03-14 14:49:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:謎のイエティ目撃事件を追い、報道特派員を装いジモト市へ向かったフジキド・ケンジとナンシー・リー。ニンジャの関与を疑う彼の前に、ニンジャ犬ストライダーが現れ、マンモンキーの情報を残して去る。だがニンジャ犬の言葉はナンシーには理解できず、フジキドとの間に溝を生むのだった)

2014-03-14 14:49:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(調査の結果、マンモンキーの誕生は、ヨロシサン製薬の非道動物実験とニンジャソウル憑依現象が引き起こした悪夢である事が判明。強力なカラテとインターネットで人類征服を目論んでいたマンモンキーは、研究所を放棄して逃走を試みるも、宿敵であるニンジャ犬ストライダーによって屠られるのだった)

2014-03-14 14:54:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

雷雨は過ぎ去った。マウント・ジモトの麓に広がる灰色の街を覆うのは、ウシミツ・アワーの静けさ。 1 

2014-03-14 14:58:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヒュンヒュンヒュン……汚染された空を、暗黒メガコーポ群の黒塗り輸送ヘリが飛び、産廃コンテナをマウント・ジモトに投棄し、飛び去ってゆく。変わらぬ日常。変わらぬ不安感。そしていつ襲い来るとも知れぬUMA。眠れぬ夜を過す住民たちは、冷たいフートンに包まりIRC電脳空間へと逃避する。 2

2014-03-14 15:04:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アオオオーッ!」突如、狼めいた遠吠えが街に響いた。それは、陰鬱な汚染大気を震わせ、市民らの心臓をアドレナリンで激しく拍動せしめた。それは、テンプル・オブ・ハンドレッド・モンキーズから聞こえた。あちこちでタングステン灯がともり、サイレン音が鳴り、市民は街の中心の寺へ向かった。 3

2014-03-14 15:12:26
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「イエティですか?」「狼」「いいえ犬です」「盲導犬だそうです」「なら安心だ!」「マッポは何をしているんでしょうか」「死体があるそうです」寺の周囲にオショガツの如く群がる市民らは、伝言ゲームめいて断片的な情報を囁き合った。(((タロウイチ!?)))ミノコと両親も境内へと走った。 4

2014-03-14 15:18:48
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寺の前には、既にマッポのパトカーとレンジャーモービルが何台か停められ、ロープが張られていた。それは突発的アクシデントでIRCと現実の境目があやふやになり、レミングスめいた連鎖行動を取る野次馬市民たちを、完全にキープアウトしていた。境内には、マッポと数名の自警団市民。そして犬。 5

2014-03-14 15:27:00
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「……こりゃあ、イツム=サンの死体だ。この靴も、間違いねえよ」車椅子に乗るビデオ屋店主は、強面のチーフレンジャーマッポに対して、そう証言していた。顔面を蒼白させ、口元を押さえながら。不名誉なムラハチを受けていた他の自警団員らも、シートの下の首無し遺体を確認し、同様に証言した。 6

2014-03-14 15:32:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「しかし、エー、彼が死んだのは数ヶ月前のはず……検死官でなくとも、エー、これはおかしいと解ります」レンジャーの補佐に入った地元のマッポが、ハンドヘルドUNIXでICデータ照合を行いながら言った。「ハン?」レンジャーが眉根を顰める。「実は山で生きていた、としか」マッポが答える。 7

2014-03-14 15:37:47
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「待てよ。イツム爺さんはな、イエティに銃を奪われて、頭を撃たれたんだぜ」自警団員がマッポに反論する。「エー、君は……その間に崖から落ちたと証言しているじゃないか。実際には良く見ていない」「……解ったよ。じゃあこっちだ。こっちは反論しようがねえだろう、正真正銘の……イエティだ」 8

2014-03-14 15:45:28
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その場にいた全員が、マンモンキーの生首と、荒々しく切断された毛むくじゃらの左腕を見た。その体毛は針金のように硬く、また左腕には壊れたハンドヘルドUNIXが巻かれていた。盲導犬がくわえていたこの不気味な死骸は、どう見ても人間のものではなく、またモンキーのものでもなかった。 9

2014-03-14 15:51:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何とも面妖な事件だな」片目をサイバネアイ化したレンジャーは、黒いハットの下でワサビ・シガーを吹かしながら、盲導犬、首無遺体、そして住民がイエティと呼ぶ謎の怪物を交互に見た。「発見当初、遺体は灯籠に背を預け、横に盲導犬が寄り添っていた。合ってるな?」「ハイ」マッポが答えた。 10

2014-03-14 15:57:56
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傷だらけの盲導犬タロウイチは、この喧噪の中、恐ろしいほど静かに状況を見守り続けていた。すでにニンジャソウルの昂りは鎮まり、首輪を覆い隠していたマフラーめいた襤褸布は消え去っている。犬歯を剥き出しにしていた憤怒の形相もおさまり、タロウイチの表情はいまや完全にシバ犬種のそれだ。 11

2014-03-14 16:04:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「で、この盲導犬は?」「イツム=サンとこの犬さ」「盲目の爺さんが自警団で銃をブッ放してたのか?」「いや、あの事件の後で……市の中学に通ってる、孫のミノコ=サンが……」こうした人間たちのやり取りを見守るタロウイチの目の奥にはしかし、未だ、激情的なニンジャソウルの輝きがあった。 12

2014-03-14 16:12:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

謎めいた状況を前に困惑するレンジャーとマッポに対し、自警団員は苛立ちを募らせる。ついに、堪え切れず車椅子の男が叫んだ。「なら俺がまとめてやる。イツム爺さんは生きてたんだろ?そしてこの賢い盲導犬に助太刀されて、イエティを狩り殺した。……何のため?名誉のためだ!クソッタレめ!」 13

2014-03-14 16:23:47
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続いて自警団員らは、抑圧されていた感情をぶちまけた。街のためにイエティと戦ったのに、ムラハチにされた理不尽に対して。「やめたまえ、手荒な事はしたくない」「エー、君たちを拘束する可能性もある」マッポが彼らを取り囲み、騒然とする境内!「タロウイチ!タロウイチ!」そこへ少女の声。 14

2014-03-14 16:32:39
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「エー、ここは入れません」封鎖マッポがミノコ一家の前に立ち塞がる。サイバーサングラスをかけた野次馬市民たちは、無言で成り行きを見守る。「イツム=サンとこの孫娘じゃないか!」「入れてやってくれ!関係者だ!」自警団員らが訴える。チーフレンジャーマッポは、静かに首を縦に振った。 15

2014-03-14 16:36:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼の瞳から危険なソウルの輝きが失せた。盲導犬は舌を出してハッハッと息をする。彼を呼ぶ声が聞こえたからだ。「タロウイチ!」ミノコの声が近づいてくる。「アオン!アオン!」盲導犬はミノコを支えるように歩み寄った。「タロウイチ……!」ミノコは彼の感触を確かめ、涙を流して抱きしめた。 16

2014-03-14 16:42:51
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ミノコと共に境内にやって来る間に、両親は、卑屈なほどに何度も何度も、市民や自警団員、そしてマッポに頭を下げた。だがその必要はなかったのだ。名誉は取り戻されようとしていた。老練なチーフレンジャーマッポは、少女にショックを与えぬよう、両親だけをシートの横に呼び、事情聴取を行った。17

2014-03-14 16:47:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ!ハァーッ!通してくれ!わしを……わしを……!」人ごみを掻き分け、息を切らしながら、サイバーサングラスの老人が現れた。余程慌てていたのか、足元は裸足のままだ。彼は境内の光景を目にし、打ち震えた。「おお……おお……。今の今まで忘れておった……。伝説の通りじゃ……!」 18

2014-03-14 16:54:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この非科学的な老人は、市の長老であった。彼はIRCで事態を聞き、着の身着のままで寺に駆けつけたのだ。「古き伝承の再現じゃ……!ストライダーが現れたのじゃ……!」老人の目を覆っていたサイバーサングラスが外れ、地に落ちた。その表情はくしゃくしゃに歪み、両目から涙がこぼれていた。 19

2014-03-14 16:58:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

果たしてストライダーとは!?ようやく境内に辿り着いたナンシーモリタ両特派員は、野次馬の波を掻き分けカメラを回した!老人は語った!寺の天井絵も風化し、口伝として残されるのみであったが「かつてストライダーという名の犬が、邪悪なキングモンキーを退治した」という伝説が存在したのだ! 20

2014-03-14 17:03:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わしらは愚かじゃった。勇敢に戦った者たちに……。すまなんだ……すまなんだ!」老人はがくりと膝をつき、ブッダ像の前で彼らに詫びた。市民も連鎖的に、謝罪の言葉と、歓声をあげた。「ストライダー!ヤッター!」誰かがそう叫び、バンザイした。「ストライダー!ヤッター!」誰かが続いた。 21

2014-03-14 17:08:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ストライダー!ヤッター!」「ストライダー!ヤッター!」「ストライダー!ヤッター!」UMAの恐怖から解放された事を知り、市民たちは連鎖的に感動し、バンザイした。そしてその時、イツム家の名誉とミノコの光もまた、取り戻されたのだ。 22

2014-03-14 17:12:42