ア・ニンジャ・アンド・ア・ドッグ #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ミノコは、ムラハチによる心身性ショックの呪いから解放され、目を開いた。そして自らの傍らに寄り添うタロウイチの姿を、彼女は初めて肉眼で直に見たのだ。それは予想よりも遥かに厳めしく、傷だらけだったが、彼女は恐れることなく目を合わせ、感謝の言葉とともに、もう一度彼を抱きしめた。 23

2014-03-14 17:16:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ストライダー!ヤッター!」「街のトーテムとして寺で讃えよう!」「イエティもプラスティネーションして安置しよう!」「観光客誘致だ!」「ストライダー!ヤ……誰だい、あんた?」市民は、境内を撮影する二人の余所者を見咎めた。「報道特派員です」ナンシーはぼろぼろの腕章を指差した。 24

2014-03-14 17:20:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こちらはカメラマンのモリタ特派員」「その後ろにいるのは?」「イエティを騙った連続強盗殺人事件の容疑者です」ナンシーが縄を引っ張る。そこにはLAN端子拘束具で無力化され項垂れるパラディンがいた。「何を言ってる?」「イエティは巨大モンキーだぞ?」周囲の市民が怪訝な目を向ける。 25

2014-03-14 17:28:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「聞いて!もちろんこの男は真犯人じゃない」ナンシーが諭す。「そして、この事件は超常現象でもないの。イエティはヘンゲヨーカイ(訳注:日本の幻獣)じゃないの。人類の行き過ぎた科学技術と自然破壊によって生み出されたバイオ生物よ。あの山頂には暗黒メガコーポの秘密研究所があって……」 26

2014-03-14 17:33:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヒュンヒュンヒュン……市街の上空を、暗黒メガコーポ群の産廃投棄ヘリが正確な時間運行で飛ぶ。「何を言ってますか?」「本当に報道特派員か怪しいですね」「マッポに突き出しましょうか」雲行きが怪しい。「聞いて!あなた方が目を背け続ける限り、必ずや、第2、第3のマンモンキーが……!」 27

2014-03-14 17:38:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らのやり取りを余所に、境内では未だ、自警団員とタロウイチを讃えるバンザイコールが続いていた。報道特派員の周囲にいた市民が、マッポを呼びに向かった。「ナンシー=サン」モリタ特派員がカメラ撮影をおさめ、彼女の肩を叩いた。「……ここは一端、退くとしよう」 28

2014-03-14 17:43:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……マッポー級大気汚染に包まれた鈍い朝焼けの中、灰色のルート255を、一台の車が走り抜ける。運転席にはナンシー・リー。助手席にはイチロー・モリタ。過酷な探索を終えた二人の偽報道特派員は、イエティ事件の一部始終を撮影したTVカメラとともに、ネオサイタマへと戻るのだ。 30

2014-03-14 17:57:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人の表情は硬い。それは過酷な取材と戦闘による疲労からではない。市民をUMAニンジャの恐怖から解放したという達成感はあるが、ヨロシサン製薬の陰謀を証明する決定打……すなわち生きたマンモンキーの撮影は、遂にかなわなかったからだ。 31

2014-03-14 18:03:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どれほど科学技術が進歩しても、結局のところ人は、自分に見える物だけで、自分に理解できる物だけで世界を信じようとする。そして、都合の悪い真実は、誰の目にも見えないのかもしれない……」ナンシーはこのレポート映像の最後に、そのような厳しい警鐘を付け加えた。 32

2014-03-14 18:07:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

多くの謎は残されたまま、永遠に解き明かされることはないだろう。マンモンキーのIRC通信ログは、ハンドヘルドUNIXの爆発で失われた。また、施設に置き去りにされた研究員は、檻から出た原住ケロイドモンキーの大群に襲われ、モリタ特派員が駆けつけた時には無惨な死体へと変わっていた。 33

2014-03-14 18:12:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タロウイチもまた、崇められる事を嫌ったか、あるいは自らの役目が終わった事を悟ったか、あの後すぐに寺の屋根へ跳躍し、遠吠えを残し去って行った。ミノコはもう泣かなかった。彼が特別な犬であることを知っていたし、別れを覚悟していたからだ。引っ越しを取りやめたかどうかは解らない。 34 

2014-03-14 18:20:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タロウイチに憑依したニンジャソウルの正体は、かつてこの地方でキングモンキーを退治し、テンプルで奉られる事となったニンジャドッグだったのか?それとも偶然の一致か?……答えはストライダー自身にも解るまい。しかし何よりも不可解なのは、マンモンキーに憑依したニンジャソウルの正体だ。 35

2014-03-14 18:24:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マンモンキーに憑依したのは、古のニンジャモンキーのソウルだったのか?あるいは、人間並の知能を得て、IRCと言語を用いて意思疎通が可能となったマンモンキーに対し、あたかも人間に対して憑依するのと同様に、通常のニンジャソウルが憑依したのか?ヨロシサンはその秘密を掴んでいたのか? 36

2014-03-14 18:29:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……真相は闇の中だ。もしその真実を解明する者がいたとしたら、ニンジャとモータルの魂の差異すら、科学的に解明し模倣できるかもしれない。何故ニンジャは、その魂をキンカク・テンプルに蓄えることができたのか?常人はどうなのか?アニマルは?ニンジャソウルとは……そもそも何なのか? 37

2014-03-14 18:32:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

電脳IRC網と抑圧的監視により市民の自我が希薄化し、人とAIの境目が不確かになりゆくマッポーの世において、人類とモンキーの境目、およびその魂の定義すらも不確かになってゆくのだろうか。あるいは、いずれ暗黒メガコーポが、魂すらプログラムし支配する恐怖の時代が訪れるのであろうか。 38

2014-03-14 18:37:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「偉そうなレポートだけど、私だってそう」ナンシーは謝罪した。「目の前の真実から目を逸らそうとしたわ……犬との会話よ。私もどこかで、既存の科学の枠に囚われていたのかも。でも、あなたの言葉を信じて良かったわ。そしてストライダー=サンの事も」二人の間の溝は、再び埋められたのだ。 39

2014-03-14 18:47:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼方にネオサイタマの暗雲。それは遠からぬ暗黒の時代を象徴するかのようだ。その中で道を切り開くのは狂気じみた力なのかもしれない。だが信念無き狂気は、暗黒メガコーポの悲劇を生み出すだろう。このような時代で自我を保つためには、信頼できる戦友が不可欠だ。その何と得難く頼もしい事か。 40

2014-03-14 18:56:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

上空を、黒塗り輸送ヘリが反対方向に飛び去る。それらはまるでネオサイタマという名の巨大なシステムを構成するごく小さなパーツ群めいて、整然と、止む事なく、正確に、定期的に、飛来し、静止し、投棄し、飛び去った。飛来し、静止し、投棄し、飛び去り、飛来し、静止し、投棄し、飛び去った。 41

2014-03-14 18:57:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

飛来し、静止し、投棄し、飛び去った。飛来し、静止し、投棄し、飛び去った。飛来し、静止し、投棄し、飛び去った。陽が昇り、沈み、陽が昇り、沈み、陽が昇り、沈み、陽が昇り、沈み、陽が昇り、沈み、陽が昇り、沈み、陽が昇り、沈み、陽が昇り、沈み、陽が昇り、沈み、陽が昇り、沈んだ。 42

2014-03-14 18:59:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「キキキキーッ!」山腹では、ケロイドモンキーたちが、投棄された産廃の奪い合いを繰り広げていた。「キキキーッ!」ボス格モンキーが産廃山の上で勝ち誇り、遺棄されたばかりのジャンク・ハンドヘルドUNIXを腕に巻いて掲げた。そしてマンモンキーを真似るように、興奮気味にキーを叩いた。 43

2014-03-14 19:02:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ア・ニンジャ・アンド・ア・ドッグ】終わり

2014-03-14 19:02:57