ニンジャスレイヤー ピストルカラテ決死拳 予告編
「……! ハァーッ! ハァーッ……」彼は使い古した医療用ベッドの上で悪夢から覚め、上半身を起こす。数年前に拾ってきたその無骨なパイプベッドは、クリーム色の塗装が所々剥がれ、錆びた鉄を晒している。微かな軋み。拍子抜けするほど穏やかなレトロテクノのレコード音が、事務所内に流れていた。
2014-03-14 22:15:27ガンドー探偵事務所には、まるでカラスの巣のように、ガラクタ同然のジャンク品が並んでいる。リキシの手形色紙。書類の上に乗ったワータヌキの置物。色褪せたカトゥーンのリーフ。古いUNIX基盤や筐体の山。二ヶ月前までは、事務所全体がそんな有様だった。今はエントロピーが減少している。
2014-03-14 22:16:12本棚の向こうに女の気配がする。オスモウTVの音も。助手のシキベ・タカコがいるのだろう。コーヒーを淹れる音と、アンコトーストを焼く香ばしい臭い。ガンドーはZBR切れの頭痛と格闘しながらベッドを下り、ワイシャツの一枚に袖を通すと、くたびれた濃紺スラックスをサスペンダーで吊った。
2014-03-14 22:16:56「ハローハロー、俺のZBRはどこだ?」新聞を開いた彼は、視神経のストを感じながら、応接室側へ歩く。傾いた黒いセル眼鏡のシキベは、露悪的に眉根を寄せ、呆れた様子で言った。「所長、折角私がコーヒー淹れて、トースト焼いてンのに、また先にZBRなんスか? 私の作ったメシ、嫌いデスか?」
2014-03-14 22:19:00「ブッダ!待てよ!ほら、見てろよ、喰うぜ!」ガンドーは一口でトーストを頬張る。「つまり、味わう気がゼロなんスよね」シキベはティーンネイジャー男子めいた日本語で言った。外見だけでなく、その発音や奥ゆかしさの欠如した言い回しからも、彼女がアッパーガイオン育ちでないことは実際明らかだ。
2014-03-14 22:20:26「オイオイ、ゼンモンドーか?俺のZBRはどこだ?」ガンドーはヤスイ社のコーヒーでトーストを押し流す「あれがなきゃ今日は閉店だ。つまり、助手の給料も払えねえ」「アー……給料」シキベは事務机に向かったまま愚鈍そうに口を開き、何か異星人に通じる言葉を探すかのようにUNIXキーを叩いた。
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2014-03-14 22:32:21「ニンジャスレイヤー」「ニンジャスレイヤーだと?」「ハヤイすぎる……化け物かニンジャスレイヤー……」「ニンジャスレイヤーだ!」「おのれニンジャスレイヤー=サン!」「ニンジャスレイヤー!」「ニンジャスレイヤー!」
2014-03-14 22:35:36青いUNIXモニタ光で満たされたザイバツ指令装甲車両内の空気は極度に張り詰めていた。腕組みして非ニンジャの奴隷オペレータ達を見守る指揮官ニンジャ、ワイルドハントは、オペレータの告げた言葉に何の反応も返さなかった。
2014-03-14 22:38:57「バイタルサインが喪失!」オペレータは僭越をおして再度繰り返した。「ダークドメイン=サンのバイタルサイン……喪失です!」「喪失」ワイルドハントは呟いた。
2014-03-14 22:39:46「ナンセンスだな」ワイルドハントは吐き捨てた。だがもはや認めるしかない……客観的状況を。ダークドメインはニンジャスレイヤーに敗れたのだ。しかしギルドとして幹部の死を悼む時間はまだ先だ。
2014-03-14 22:41:10「エイッ!」ワイルドハントは車内で唐突にカラテ・シャウトを繰り出し、キアイして、スイッチを切り替えるように認識を改めた。オペレータの一人がしめやかに失禁した。「包囲せよ。このまま封じ込め、必ず滅ぼすべし」「居合わせた第三者……目撃者の処理は」「何をくだらぬ事を。その都度殺せ」
2014-03-14 22:41:42「カカカカ!ファーファーファーファー!」エンキドゥは手を叩いて笑った(その最中も黄金キーボードは激しくテレキネシス・タイピングされ続ける)!「YCNAN!その伝説的レリック・ワード!ファーファーファーファーファー!ウチトッタリ!ウチトッタリ!」
2014-03-14 22:48:04デロリロレ・デロリロレワー・トゥーム!おどろおどろしい電子ファンファーレ音が鳴り響き、ファイヤーウォール装置が不気味な緑の光を放った。UNIXモニタに砂嵐が走り、0と1で形作られた不可解な肖像が一瞬浮かんだ。オバケ!?
2014-03-14 22:48:24だがエンキドゥは笑って頷くばかりである。「急くな、急くべからず。私が主、オヌシが従ぞ!」デロリロリ……電子ファンファーレ音はどこか不満気だったが、すぐさま、UNIXにファイヤーウォールで濾過された値千金の電子情報が流れ込んできた。
2014-03-14 22:49:58「ドーモ。ザイバツ・シャドーギルド=サン。そのほうは……確かワイルドハント=サンだったかな」幼いラオモト・チバは父親譲りの冷たい眼光をモニタ越しに投げかけた。「お世話になっております」ワイルドハントはアイサツを返した。
2014-03-14 22:53:35