海の大戦:エピローグ

終結。そして、次への――。
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【強奪】壊尽 @sinka_umi

上を見た。柔らかな光が日差しのように差し込んでいるのが見えた。けれど、どれだけ手を伸ばそうと届きはしない。眸を細める、嗚呼、と息を吐く。 「……これが、死?」 此処が、死した者たちが集まるところ? ——なんだ、昔の橙と大差ないじゃないか。 自らを嘲笑うように、笑って、躰を丸める。

2014-03-19 17:18:15
【強奪】壊尽 @sinka_umi

記憶の始まりは、橙の空。揺れ、沈む太陽に向かって、大小二つの影が仲良さ気に消えていくのを、ずっと見ていた。それは、母親と子であったり、兄と弟であったり。 どれにしても、壊尽には記憶のない、存在で。——手を伸ばしたところで届きはしない。 わかっている。わかっていた。

2014-03-19 17:18:27
【強奪】壊尽 @sinka_umi

不意に、誰かに呼ばれたような気がして、目を瞬く。応えることは、できなかった。ただ、目を伏せ、思い描くのは、海賊たち。愛しい、人たち。 『壊尽』となってから、ようやく手にすることの出来た、温もり。触れられなくても、心は温かで、たまらなく、幸せだった。 ぶるり、と躰が震える。

2014-03-19 17:19:15
【強奪】壊尽 @sinka_umi

さむい。零した声は、響かず沈む。 誰もいない。誰も、いない。さびしい、さむい。周囲に広がる青はどこか、夜のようで。丸めた躰を抱いていた腕に力を込めた。 さむい。瞼に最後に見た、『無学』と『偽計』の姿が浮かぶ。彼らは、何処にいるのだろう。浮かんだ疑問を解く術を、『壊尽』は知らない。

2014-03-19 17:19:53
【強奪】壊尽 @sinka_umi

ただ、思う。 彼女らを、海賊たちを。 触れたかった。抱きつき、抱きつかれ、撫で、撫でられ、他人の温もりを覚えた心同様、躰も、他人の温もりを感じたかった。 ——《呪い》さえ、なければ。 そう、思うのは甘えなのだろうか。わからない。何も、わからない。分からないながらも、思い続ける。

2014-03-19 17:20:17
【強奪】壊尽 @sinka_umi

「『偽計』、君の料理はどんな味がしたんだろうね。食べたかった、ね。それから、食べてほしかったね、俺の、料理も」 思いは届かぬ言葉になって。 「『無学』、君は、眩しかった。それ以上に愛しかったよ。君が俺を嫌っていても、俺は君が愛しかった」 泡へ変じながら、空へ昇っていく。

2014-03-19 17:20:30
【強奪】壊尽 @sinka_umi

「海賊たち、俺に居場所をくれた、君たちが、何よりも、愛しかった、愛しい」 ずっと会っていなかった、他の加護たちも、彼らの団員たちも。 ——俺にはもう、海賊たちを思うことしか、出来ない。 ——『壊尽』で在れない。『壊し尽くせ』なければ、俺に意味などない。 泡に包まれる。砂が舞う。

2014-03-19 17:20:48
【強奪】壊尽 @sinka_umi

それに伴い、意識が薄らぐ。何かを言おうとして、その口を閉じた。 砂が舞う、泡が揺れる。目尻を何かが伝う。それが何か、『壊尽』にはわからない。ただ、それを止めようとはせず、目を開け、上を見上げ——。 「“ ”」 微笑む。そうして、彼は。

2014-03-19 17:20:56
【強奪】壊尽 @sinka_umi

——その意識諸共、海に、溶けた。

2014-03-19 17:21:00

エピローグタイトル:共に。

シーン主導PC:殉教、贖罪
シーン登場PC:殉教、贖罪

人間《ディアドラ》 @actSkbz

ゆらゆらと、波間を漂うように。 ゆらゆらと、意識がたゆたう。 曖昧とした其れは時折、形を整え、また崩れ。 「――、フォルトゥナ、」 謳うように。薄黒が揺らぎ、唇が幽かに動く。

2014-03-20 20:22:14
人間《ディアドラ》 @actSkbz

それは“殉教”でありながら、“殉教”では無く。――声の温かみが、広がる。 探している、少女を。見つけた少女を。一緒だと約束した少女を。

2014-03-20 20:22:31
【慈愛】贖罪 @hakuzia_umi

くわん。響くように遠い水面が揺れた。 ぐんにゃりと曲がる意識は遠い声に揺すぶられるように、其処に在った。 “贖罪”だった少女は自らの緑眼を揺らぎに任せて開く。思い出す機会を自ら捨てていた名が、茫洋とした意識を誘った。 「―――」

2014-03-20 20:23:42
【慈愛】贖罪 @hakuzia_umi

フォルトゥナ、と呼ぶのは。 フォルトゥナ、と呼んでくれるのは。 一緒だとそう何度も言ってくれた―― 「――マレ」 小さな唇は音を作った。

2014-03-20 20:23:55
人間《ディアドラ》 @actSkbz

――形が、はっきりと。深海の眸は開かれ、緑を探すように彷徨う。 「……フォルトゥナ、」 何時かの時のように、手を差し伸べる。 捨てた名を知る少女に、大切に思う少女に、唯一誓いを立てた少女に向け、薄い唇が綻んだ。 「此処だ。私は、此処に、在る。」

2014-03-20 20:24:13
【慈愛】贖罪 @hakuzia_umi

緑眼は薄黒を、深海の色を捉えて見つめた。 伸ばされた手。柔らかな口元。それらが記憶に重なり、表情をくしゃりと歪める。それは罪悪への謝罪か、嬉しさかは解らない。その手を取ることに罪悪を感じ、しかし、その罪悪の底にある意識は体を無意識に動かした。

2014-03-20 20:25:15
【慈愛】贖罪 @hakuzia_umi

迷うように、しかしそれはまっすぐに。 小さな指先をそっと触れさせ、ゆっくりと掌へと滑り、重ね合わせる。 大きさの違う、二つの手。 此処に、という言葉を肌で感じ、 「はい…わかり、ます。わかります、マレ…」 貴方が在ることが、と。

2014-03-20 20:25:32
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「そうか」 重なった手。緩やかに指を絡める。“殉教”であった時はついぞ見せる事の無かった、柔らかい眼差し。――緑の少女は、久しく見たであろうその表情。 緑の眸と目を合わせる。屈み、ほつれた髪を整えてやりながら、眦を下げる。

2014-03-20 20:25:43
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「……守れなくて、済まない」 傷が無いのを見てから、細く息を吐き出し、空いた片手で目元を覆う。少女にはまだ、未来があっただろうに。 「フォルトゥナ、君にはもっと、――生きていて、欲しかったんだ」 吐露する。心中を。“殉教”であった時は、口にする事の無かった願い。

2014-03-20 20:25:50
【慈愛】贖罪 @hakuzia_umi

緑眼は挙動を一つ一つ追った。表情も視線も一つ一つ辿り、記憶を呼び、重ねる。柔らかな表情に、安堵を見せながら、触れられた髪の僅かな感触。ぎゅっと握るように手に力を入れ、首を横に振る。守らなくても、よかった。居られれば、それで。 「わたしは、……」

2014-03-20 20:27:05
【慈愛】贖罪 @hakuzia_umi

生きていて欲しい、その言葉に喉が詰まったような感覚を覚え、しかし何も言わない。 家族が死んだ。自分も死ぬはずだった。なのに生きてしまった。生きて、家族が朽ちていくのをただ眺めていた。そんな自分が、不幸者が、やはり嫌だった。

2014-03-20 20:28:03
【慈愛】贖罪 @hakuzia_umi

再び、くわんと巡った思考の波紋をかき消すように、目元を覆う彼を見る。願う言葉を拒絶する事はなく、ただ、その頬に触れるように手を伸ばし、 「……貴方にも、生きていて欲しかったです」 優しい人。大切な人。 緑眼は水気を増して、揺らぐ。

2014-03-20 20:28:11
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「どうか、泣かないで、フォルトゥナ。  ――私は、君を守ると決めていたし、君と共に在る事も誓っていた」 頬を撫ぜる。己の頬に触れる温もりに目を細めながら、深海を瞬かせる。 「私はもう、“私”であれていないかもしれないが」 目を眇める。こつり、と額を合わせて。

2014-03-20 20:28:34
人間《ディアドラ》 @actSkbz

「君が今、此処に在る事。私と、――“マレ”と共にいてくれる事、良かった、と。」 そう思っているよ、と。言葉は愛おしげに告げられる。薄い唇が言葉を連ねる。 「――君が、一人で昏いところにいってしまっていなくて、良かった」 ほろ、と。眦からひとすじ、雫がこぼれた。

2014-03-20 20:28:36