ヒア・カムズ・ザ・サン #5

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

心臓に電気ショックを受けたようにナンシー・リーの身体は激しく仰け反り、物理復帰した。荒い息を吐きながらデスクを手探りする。サヌマは電解水のボトルを差し出した。美女はこれを掴み取ると、喉を鳴らして中身を一息に飲み、空になったボトルを隅へ投げ捨てた。「ハァーッ……忙しいこと」 1

2014-03-21 21:56:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ここまで上々だと思うが、どうだ」サヌマは額の汗を拭い、タイピングを続ける。「もう少し早くにあのアジトと繋げられれば、こうも忙しくならなかったが」「時勢って、そういうものよ」ナンシーは言った。「それに、もっと忙しくなる」「何だこりゃ」サヌマはモニタの新たな進捗バーを見た。2

2014-03-21 22:06:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「管理者側のカウンターよ」とナンシー。進捗バーは非常な勢いでグイグイと100%を目指し満たされてゆく。「セキュリティの再設定のトリガーが引かれた。想定はしていたけど、相当早いわね」「100%になると、あれか、元の木阿弥ッて事か?」「そういう事」だがナンシーは席を離れ通路に出た。3

2014-03-21 22:17:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ここ、うっちゃるのか?」「そうはいかない」奥の闇からナンシーの声が返る。「サヌマ=サン、来て!一秒でも惜しい」「ああ、そりゃそうだ」サヌマはモニタ上で不気味に伸びる再設定進捗バーを何度か振り返りながら通路を走った。ナンシーは隔壁ゲートの前で待っていた。「手伝ってもらえる?」 4

2014-03-21 22:20:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「肉体労働、よし」サヌマは地面から生えた炭鉱めいた無骨なレバーを掴んだ。「俺に任せろ!嬢ちゃんは作業に戻れ」サヌマは力を込めた。「ヌウーッ!」バキバキと錆びたレバーが軋んだ。サヌマは更に力を込める。ナンシーが見かねて手を貸すと、二人がかりの力でレバーがようやく言う事を聞いた。5

2014-03-21 22:27:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガゴッ……カゴーン!二人が跳び下がると、ギロチンめいた勢いで隔壁が落下し、通路を塞いだ。更にその奥で、同様のギロチン・サウンドが木霊した。カゴーン……カゴーン……カゴーン。「何重だ?」「五重か、そこら」ハンカチーフで指先の錆を拭き取りながら、ナンシーが答えた。「急がないと」 6

2014-03-21 22:30:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これで少しは保つかね」「そうね。気休めにはなる」とナンシー。「ニンジャが直接やって来たら、気休めにもならないかもしれない」「……」サヌマは早足に進むナンシーの横顔を見た。「実感がこもってるのか」「貴方も今回、体験できるかも。運が悪ければね」7

2014-03-21 22:34:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

このUNIX拠点につながる通路は、隔壁を下ろした今の一つしかない。ドン詰まりだ。つまり彼らの行動は、もはやこれ以上の拠点替えを行わない事を意味していた。セキュリティ再設定。移動をしていては、間に合わぬ。ナンシーは軽く息を吸うと、再びLAN直結し、論理タイピング行為に没入した。8

2014-03-21 22:39:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーが確保したUNIX拠点を踏み台にする事で充分な回線太さを確保したナンシーは、バックドア……設計者であるサヌマが導いた侵入路だ……を用いて、カナリーヴィル中枢システムに到達。一部アクセス権限を奪い取った。管制塔周辺の防衛システムを停止するにはもうひと頑張り要る。9

2014-03-21 22:47:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もぬけの殻となったレジスタンス・アジトではUNIXデッキがそのままになっていた。電子振興センターから帰還したニンジャスレイヤーに対し、ナンシー達はこのデッキとIRCセッションを確立することで、至急の追加ブリーフィングを行う事に成功した。デッキには不穏な通信ログが残されていた。10

2014-03-21 22:55:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

レジスタンスに対する合流指示はあからさまなトラップである。だが、百戦錬磨の戦士ならばいざ知らず、市民にすぎない彼らにそこまでの用心深さを要求することは酷であったかもしれない。ニンジャスレイヤーはすぐさまアジトを飛び出し、合流地点に向かった。レッドハッグも。そして、ハマも。 11

2014-03-21 22:59:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アジトを出ようとするレッドハッグに対し、ハマは自ら同行を申し出たのだ。「あの子大丈夫か」サヌマはタイピングしながら言った。没入を開始したナンシーの応答は弱い。「……わからない。だけど……やるからには、あの子もリスクを冒さなければ……この村はあの子の村……傍観するのは……違う」12

2014-03-21 23:05:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

リスクを取るのはナンシーとサヌマも同様だ。ニンジャであるレッドハッグがアジトから駆り出され、もはやカラテの護りは無くなった。そして、レジスタンス、村人達……彼らもまた戦わねばならない。村人が同時多発的に行動を開始し、システムの目を逸らさねば、ナンシーらのハッキングは通らない。13

2014-03-21 23:12:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

早く。もっと早く。祈るようにタイピングしながら、サヌマは思う。このイクサは総力戦だ。「俺もその一画か」「チチチ」UNIXデッキの陰から小型カニ型マスドロイドが現れ、激しくテンキーをタイプし始める。今回のミッションにあたって、ジミチとハデを分解して組み上げた携行可能な小型機だ。14

2014-03-21 23:20:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前、ファイアウォールまわりの修理は終わったのか」「チチチ」カニはLEDを点滅させた。「よし、じゃあ頼む」「チチチチ」「その子には名前あるの……」朦朧としながらナンシーが問うた。「ある」サヌマは頷いた。「ホドホドだ」ナンシーは微かに笑った。「頑張りましょ、ホドホド=サン」15

2014-03-21 23:26:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「再設定まで!あと何分だ!」ヘファイストスが吠えた。「とにかく順調です」カスタムヤクザオペレータが答えた。彼らはフクトシン博士のもとで使われていた人員であり、緊急動員された形である。モニタ上の進捗バーは順調な速度で伸び続けている。ヘファイストスの咄嗟の機転が功を奏したのだ。17

2014-03-21 23:32:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガゴンプシュー……エレベータが開き、新たに一人、息を弾ませながら管制室にエントリーした。ロングカットだ。「どういう事だ!何が起きている」「今しがた伝えたとおりだ」ヘファイストスはロングカットを睨んだ。そしてモニタの一つを指さした。村の区画図。その一部が赤く染まった。「見ろ」 18

2014-03-21 23:37:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「暴動だと?」「レジスタンスだ。貴様が仕留め損なった連中が」「バカな」ロングカットは眉根を寄せた。「たかが村人。ヤクザ兵をそう易々と打ち破れるはずも無し。例のニンジャスレイヤーは貴様のゴーレムが相手をしていよう」「もう一人ニンジャが居るのだ!カメラ記録を見ろ」 19

2014-03-21 23:41:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

区画図に奴隷居住施設正門の監視カメラ映像が映し出された。クローンヤクザ達が女のニンジャを包囲している。それらが一斉に襲いかかる。女のニンジャがカタナを抜いて身を沈め、ジグザグに走ると、ヤクザ達は一人また一人とバイオ血液を噴き上げ死んでゆく。克明な犯罪記録映像だ! 20

2014-03-21 23:43:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

折り重なって倒れるクローンヤクザを踏み越え、四方八方から武装レジスタンスが集まってくる。銃のない者はクローンヤクザの死体からライフルを回収してゆく。ヤクザが死ぬほどに、レジスタンスが武力を増している。ロングカットは絶句する。「待て……これではこの居住区は……」「そうだ!」 21

2014-03-21 23:50:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヘファイストスは叫んだ。「被害はあれひとつに留める!ニンジャが一人増えたから何だ?とにかく戦力を集結し、思い上がった屑を制圧!」「既に指示している!」ロングカットは叫び返した。「どこだユリシーズ=サンは!」その時である。「カミンガロングサイドな」合成音声がアラートを発した。22

2014-03-21 23:55:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そしてモニタには、管制塔の側面図と、屋上部にドッキングしたUFOめいた機体のワイヤフレームが映しだされた。「なにか大変なことになっているんですかね」階段を上がってきたフクトシン博士が頭を掻いた。「そろそろ人員、戻してもらう事できますか」「ダマラッシェー!」「アイエエエ!」 23

2014-03-22 00:03:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヘファイストスが反射的に一喝すると、フクトシン博士は悲鳴を上げて後ずさった。だが失禁はしない!「よせ、ヘファイストス=サン」ロングカットはヘファイストスの手首を掴んだ。「あれでもVIPだ」「そんな事はわかっている」ヘファイストスは激昂していた。「教育が必要だ!恐れの教育が!」24

2014-03-22 00:04:56
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