深闇のセレファイス―再会

桜井光 @h_sakura

──母に会った。

桜井光 @h_sakura

正確には、本当の母じゃない。けれども彼女は僕にとっては母であり、姉であり、《希望の砦》の一員であり、大切なひとのひとりだった。

桜井光 @h_sakura

黄金色の髪。赫い瞳。輝くばかりの蒼銀色の鎧は腕にしか纏っていなくても、そのひとは間違いなく僕の母だった。

桜井光 @h_sakura

「母さん」

桜井光 @h_sakura

僕は、そう呟こうとした。 瞬間。意識する。違う。違うんだ。ここは、僕の知るものと同じ灰色の空が広がっていてはいても、世界に突き立つ《大機関時計》の存在しない世界。だから。違う。

桜井光 @h_sakura

このひとは違うと、理性は告げているのに。

桜井光 @h_sakura

僕の瞳からは雫が流れ落ちていた。ミスター・ヴァイスハウプトによって体内の雷電核、幻想機関（マテリアル・エンジン）に組み込まれた《回路》が軋む。こころの動きを、この《回路》は導いてしまう。

桜井光 @h_sakura

本来僕には存在しないはずの感情の多くを、それは演算して紡ぎ出す。 だからこそお前は人間以上に「ひと」であるのだと父さんは言っていた。リザさんやアナさんも、そんなことを言っていたと思う。

桜井光 @h_sakura

アスルさんの言葉を思い出す。その《回路》は決してミスター・ヴァイスハウプトの狂気の発露や呪いの類ではなく、今やお前の誇り高さの一部なのだから、由来を気にすることはない。

桜井光 @h_sakura

けれど、僕は思う。 こんなものがあるから。僕はきっと弱いのだ。

桜井光 @h_sakura

僕と同じく世界を渡ったミスター・ヴァイスハウプトを探し出し、彼がこの世界で目的を遂げる前に、彼の可能性のすべてを破壊する。殺す。その目的のためにはあらゆるものを費やすべきだとわかっているのに。

桜井光 @h_sakura

僕にはできない。 目の前のひとを、母を──殺すべきだと。わかっているのに。

桜井光 @h_sakura

「あなた。泣いているの？」

桜井光 @h_sakura

母が言った。いいや、母によく似たひとが。

桜井光 @h_sakura

僕のよく知るままの優しい声で、僕のよく知るままの美しい右手で。 ヒルド・ロメ・ダルクが──

桜井光 @h_sakura

──僕（マキナ）の、頬に。触れる。 （了）

桜井光 @h_sakura

マキナ【人名】ザ・スチーム。 機械帯(マシンベルト)試作二号を所持。死亡が確認された人物と同一人物かは不明。最新の情報では、機械帯起動時には『半身が真紅、もう半身は蒼色。白の長襟巻を着用』といった姿であるという。（1/2）

桜井光 @h_sakura

月の獣、ヴンダーカンマーといった秘密結社群と敵対。《結社》はマキナの情報こそ収集しているが不自然なまでに不干渉を貫いている（1909年以降に確認された「総帥代行による活動方針の変質」のひとつ）。現在、マキナは地球及びカダスを放浪中。混沌都市シャッガイの情報を求めている？（2/2）

桜井光 @h_sakura

ディストラクター【人名】黒色の戦闘用機関人間。タイプ・モラン及び《機械卿》最終機体の先行試作機。最新の情報では、再び活動を開始したことが確認されている。マキナと一度ならず接触している模様。その意図がマキナの完全破壊にあるのか、他にあるのかは不明。（1/2）

桜井光 @h_sakura

この世界とは異なる何処からか訪れたという怪人物と接触した、と噂されるが…。（2/2）

桜井光 @h_sakura

過去作品なり《結社》内政治的あれこれといったものは、スチームパンクシリーズ作品「外」のことなので、基本的には次作なりの単独作品を浸食したりはしません。流石にそれをやってしまうと、1作ごとに把握してもらう情報が増えすぎるので…

桜井光 @h_sakura

そのぶん、作品外というか商業作品としてのラインの「外」ではぽつぽつと。『FSS』でたとえればテイルズオブジョーカー的な……いや、それも違うような……