山村の限界集落で大量殺戮を行った人間の心理5

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アドリア海 @keizi80

3日後、殺戮者はぼろぼろになった車を転がして久しぶりに町へ出かけた。 町といっても殺戮者が暮らす限界集落に一番近い市域3万人程度の 人口集積地にしかすぎなかったので、 山村94

2014-03-27 15:30:55
アドリア海 @keizi80

人から見ればむしろ田舎の部類に入るのだが 仮にも広い車道の両脇に商店街が形成され、チェーン店の看板が視線の先に重なり合い犇くその場所は、 殺戮者にとっては確かに街であるに相違なかった。 山村95

2014-03-27 15:31:55
アドリア海 @keizi80

そこを訪れたときだけ殺戮者は、 自分があくまで現代人であるという事実を確認することができた。 殺戮者はまずスーパーに立ち寄ると、 生きていくのに最低限必要となる食料や日用品を買い込んだ。 山村96

2014-03-27 15:32:39
アドリア海 @keizi80

彼がこの町に下りてくるのは月に1回程度と限られた機会であったため、 買い損ねに注意を払わなくてはならなかった。 彼が滅多に下界を訪れない理由としては、 ただでさえ老朽化の激しい愛車のこれ以上の損耗を避けたいことや 山村97

2014-03-27 15:33:58
アドリア海 @keizi80

馬鹿にならないガソリン代の消費を抑えたいという気持ちなどもあったが、 なにより大きかったのはかつて勤務していた職場の同僚と顔をあわせてしまうのでは という恐れである。 山村98

2014-03-27 15:34:55
アドリア海 @keizi80

殺戮者にも若かりしころはわずかながらの労働経験があり、 そのときは金属部品を扱うこの町の工場の末端作業員として汗を流していた。 しかしながらもって生まれた発達障害が災いし、彼は仕事仲間や上司から散々蔑視された挙句、 山村99

2014-03-27 15:36:53
アドリア海 @keizi80

「お前はどこへいっても働けないのだから とっとと野たれ死ね」 との罵倒とともに追い出されたという苦い経験を持つ。 山村100

2014-03-27 15:37:33
アドリア海 @keizi80

それから何年もたち、新たな職にありつくこともできず、 なるほど彼らが言った通り、もはや顔を上げたところで餓死か自殺 以外の道が見当たらぬ、 山村101

2014-03-27 15:38:25
アドリア海 @keizi80

生きながらにして屍と化した惨めな中年の姿を かつての迫害者たちの目にさらす事を、だから殺戮者は異様なまでに恐れていた。 山村102

2014-03-27 15:39:01
アドリア海 @keizi80

彼はサーチライトのような視線をスーパー構内のありとあらゆるスペースに伸ばしつつ、 追われる脱獄者のように怯えながら前に進んだ。 山村103

2014-03-27 15:40:27
アドリア海 @keizi80

監視カメラに捕らえられた自分の姿は、さぞかし挙動不審に映っていることだろうと殺戮者は 悲しく思った。無論盗みをしたことは一度もないから、咎められた経験はないが、 恐らく店側からは中々尻尾を覗かせない万引き犯程度にはマークされているに違いない。 山村104

2014-03-27 15:41:36
アドリア海 @keizi80

俺は盗みはしないぞ。 殺戮者はどこにあるとも知れぬカメラめがけて、涙のにじんだ視線をさまよわせた。 盗みはしないぞ。どんなに落ちぶれようと俺は犯罪だけはしないのだ。 山村105

2014-03-27 15:42:44
アドリア海 @keizi80

俺のようなものが法まで犯してしまったら、それこそもうおしまいではないか。 かごに取るものを取り終えた殺戮者はレジに向かうと、 おつりを貰うのももどかしく、渡された買い物袋を鷲づかみにして 逃げるように店を出た 山村106

2014-03-27 15:44:33
アドリア海 @keizi80

「アリガトウゴザイマシタ~」 レジ員の辞令が殺戮者の背を追い立てた。 あの店員は笑っている。 殺戮者は後方を振り返るまでもなくその確信を得た。 山村107

2014-03-27 15:45:26