(14/03/28)桜井先生SS-少年と女

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本文

桜井光 @h_sakura

「そこ、大きな段差があるから。気を付けなさいな」 女が言った。黒と白の女だった。黒い瞳、黒い髪、黒いドレス、抜けるように白い肌。口元には淡い微笑み。

2014-03-28 22:46:06
桜井光 @h_sakura

「忠告は有り難いが、子供へするように言うものではないよ」 少年が言った。利発と呼ぶには深淵に過ぎるほどの知性を瞳に湛えた少年だった。幼いながらに紳士的な気配を纏っているのは、服装が貴族の子女といった風情である故か。

2014-03-28 22:48:18
桜井光 @h_sakura

「生意気な物言いをしないの。あなたは間違いなく、幼い子供であるのだから」 「記憶は継続しているはずだがね」 「それでも。あなた、生まれてまだ間もないのだから、ほら、あんよは上手。段差に気を付けて」 からかうように女の声が僅かに弾む。 少年は、やれやれ、と肩を竦めて。

2014-03-28 22:50:24
桜井光 @h_sakura

「もう少し、優しく接して欲しいものだよ。愛しいリザ。私はこれでも大仕事をひとつ終えたばかりなんだ」 「手酷い負け方をしたように思うけれど」 「世界機械を相手にあそこまで出来たのだから上出来さ。それに、私はそもそも巨大異形戦闘(ギガンティックストーム)は得意ではないんだ」

2014-03-28 22:52:34
桜井光 @h_sakura

「ええ、そうね。そうでしょうとも。あんなにも沢山削り取られて、こんなに小さくなってしまったものね」 よしよし、と大袈裟な様子で女は少年の頭を撫でる。 少年は困ったような顔をして、 「まったくだ」 と言った。

2014-03-28 22:54:11
桜井光 @h_sakura

「暫くはこの私の万能も正しく万能たり得ないだろう。だからこそ、ウォモ・ウニヴェルサーレの所有物は若く才ある物たちに分配しなくては」 「それが理由かしら? 本当に?」 「勿論」 「パリの女碩学さまは美人ですものね。いつも、あなた、気に掛けているのだから」 女の視線の温度が下がる。

2014-03-28 22:56:43
桜井光 @h_sakura

それから、真っ白な指先が伸びて── 「何をするのかな」 少年の頬を、つねる。つねり上げて離さない。 「いふぁい」 「あら本当。こんなに簡単につまめてしまうなんて、いつ以来? あなた、やはり黄金王には弱いのだから」 「はなふぃたまふぇ」

2014-03-28 22:58:31
桜井光 @h_sakura

しばらく弄ばれるがままにされた後、少年は襟を正し、蝶タイの位置を直しながら呟く。 「ともかくも」何処か眩しげに、灰色の空を見上げながら「これで私は傍観に徹さざるを得なくなった。この先、果たして何が起こるのか、起こらざるのか……」

2014-03-28 23:01:26
桜井光 @h_sakura

「生意気を言わないの。かたちを保てているだけでも、感謝なさい」 「きみには感謝しているとも。愛しいリザ」 「それ、おやめなさいな。幼い子の述べる言葉ではなくてよ。だから、暫くそう言うのは駄目ね」 「それは困った。私は事実しか口にできない」 「いいえ、嘘つきよ。もう嘘をついて」

2014-03-28 23:03:54
桜井光 @h_sakura

女と少年のやり取りは続く。 けれども。ひとまずは、ここまで。 (了)

2014-03-28 23:05:41

設定メモ

桜井光 @h_sakura

【設定メモ】1909年4月、パリ大学の碩学マリ・キュリーは某財団の管理する万能王の遺産の一部を相続したと噂されているが、相続手続の翌日にとある少年と「初めて」出会い、「詐欺だわ」と叫んだという。

2014-03-28 19:44:46

ETC

桜井光 @h_sakura

元々傍観者だったはずでしょうあなた、っていう(突っ込み)

2014-03-28 23:10:54