ヒア・カムズ・ザ・サン #7
ナンシーは電子マネキネコに鍵を差し込み、ロックを解除した。「ミャオーウー」マネキネコがゆっくりと沈み込み、かわりに、ナンシーの周囲に数え切れないほどの四角柱が浮上してきた。基幹システムのライブラリーだ。『これと、これと、これ……』サヌマが目ぼしい柱にマーカーを乗せて行く。 25
2014-03-30 22:40:48「ハヤイ。才能がある」ナンシーは微笑んだ。サヌマの声が返る。『ハッキングの?よしてくれ』ナンシーはマーキングされた四角柱のひとつに手を挿し入れ、内部にしまわれたガラス球を握り潰した。澄んだ破壊音は断末魔の悲鳴めいてコトダマ空間に響き渡った。『計算できません』システムが泣いた。26
2014-03-30 22:46:28『自壊を始めるぞ』サヌマの声が警告する。「ええ。システムは終わりね。そしてまだ、やる事がある」ナンシーは遥か地平、それまで電子のオーロラで隠されていた巨大なピラミッドを見る。ピラミッドには「天下」のエンブレム。ナンシーはピラミッドめがけ飛んだ。頭上には見慣れた黄金の立方体。27
2014-03-30 22:51:12『ニンジャスレイヤー=サン達は?』「離脱するわ」『あんたは大丈夫なのか?』「多分ね」『おお、飛んだ……飛んだぞ……奴ら、ロケットを飛ばしやがった』「それがこの施設の最初で最後の仕事になったわね」 28
2014-03-30 22:54:03彼女は視界にロケット航行軌道図を重ね合わせた。流れ込んでくるデータが今まさに飛翔するロケットの位置を刻む。行き先は……「月の裏側?」『俺が力になれるのはここまでだが……俺はうまくやったか?』「素晴らしかった」『この後どうする』「データを盗む」 29
2014-03-30 22:59:07背中から白い小鳩が生まれ、離脱。ロケットめがけ飛んだ。「今ならまだ強制接続が可能」小鳩は飛びながらコバンザメに変形してゆく。「管制プログラムの表面を辿り、ロケットの内部システムに寄生して、月の裏側とやらへ妖精を運んでもらうわ」一方、ナンシーはピラミッドを真っ直ぐに目指す……。30
2014-03-30 23:08:19ユリシーズは短時間の気絶から覚醒した。予めプログラムされた投薬によってニューロンをキックされたのだ。彼のニューロンは一瞬で冴え渡り、リンクされた"将来性"の全方位視界を共有する。彼は光と闇の狭間に存在している。一基。二基。ブースターを切り離す。32
2014-03-30 23:19:40「バイタル数値は平常」ユリシーズは呟いた。「静かだ。とても。そして深い色だ」誰に対する通信でもない。「さあ始めようか」予め定められたプログラムが働き、ハニワじみたオービターが重い衣を脱ぎ棄てる。アンタイ・スペースデブリ・スリケンの射出機構が彼のニンジャ自律神経と噛み合った。 33
2014-03-30 23:27:40数秒後、彼は「汚れた宇宙」の只中にいた。「イイイヤアアーッ!」オービターは球状の闇を纏う。機体に接近する宇宙ゴミの全てが、千手観音じみて放たれるすさまじい量のスリケンによって破砕し、取り払われるからだ。スリケン投擲を続けながら、ユリシーズのニンジャ動体視力は遠い影を捉える。34
2014-03-30 23:37:31それは……おお、ナムサン……放棄され、なお自律する、多国籍攻撃衛星の眼差しである。ユリシーズのニンジャ第六感は、テリトリーを侵した存在に多国籍攻撃衛星が裁きの鉄槌を下そうとする兆候を察知していた。レーザー兵器の動きを。「イヤーッ!」ユリシーズは狙いすましたスリケンを放った。35
2014-03-30 23:41:45多国籍攻撃衛星の影が傾いだ。光の線はあさっての方向へ放たれた。フクトシン博士曰くの「蛮神」は静止状態から剥がされ、地球の方向へ吸い寄せられてゆく。地上のどこかへ墜ちるだろう。「システム総じ緑な」マイコ音声が告げた。ユリシーズは月を見た。それから白い炎の塊を見た。太陽を。36
2014-03-30 23:46:54その瞬間、ユリシーズは全てを手に入れたように思った。「おお」彼は心を動かし、スペースメンポの奥で、微かに涙を流した。チカチカ……ユリシーズの網膜に「第一次接続の確立が可能な」のミンチョ文字が映しだされる。「第一次接続を確立」ユリシーズは答え、論理ボタンを押した。 37
2014-03-30 23:57:02その瞬間、月の裏側のアクセスポイントがユリシーズのオービターを発見した。ユリシーズは長く巨大な手が己を捉えた感覚をおぼえた。寒さを。それはオービターを経由し、地球……アマクダリ・セクトの基幹IPアドレスを発見した。「第一次接続が確立されましたア、アアア」マイコ音声が歪んだ。 38
2014-03-31 00:04:27「ザリザリ……ザリザリザリ」ノイズ。ユリシーズは瞬きした。彼は月の付近で静止する数個の立方体を見た。黒い立方体だった。そして黒い立方体の下、月の地0100100001001001てんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだり 39
2014-03-31 00:08:41てんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからく 40
2014-03-31 00:09:30だるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまく 41
2014-03-31 00:09:49だりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんか 42
2014-03-31 00:11:02らくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだるあまくだりてんからくだる010010010010010000100100100010000「反応消失だ!」サヌマはモニタに向かって叫んだ。「何だ?何が起きた?フッ飛んだんじゃないか?ロケットが!」43
2014-03-31 00:13:19『爆発四散した』ナンシーが答えた。『機密保持……何らかの目的を果たして……NO!』彼女の呟きは悲鳴に変わった。「大丈夫か!ナンシー=サン!」サヌマは躍起になってタイピングを速め、隣で昏睡する彼女の物理肉体とモニタを交互に見た。「アバー!」カニ型ドロイドのホドホドが煙を吹いた。44
2014-03-31 00:16:44「何が……ハッカーか?アマクダリの?」サヌマは滝のように汗を流した。「ナンシー=サン!」『010010001』「ナンシー=サン!無事か!」『ドーモ。アルゴスです』 45
2014-03-31 00:19:12KBAM!KBAM!KBAM!ファイアウォールが連鎖爆発し、飛来した破片がサヌマの頬にざっくりと切り傷を作った。「グワーッ!?」「ン……ンア……」ナンシーの身体が痙攣を始め、目、鼻、口から血が流れ出した。「アイエエエエ!」サヌマは椅子から転げ落ちた。アジト出口を振り返った。46
2014-03-31 00:23:26非常にまずい!逃げなければ!「ア……ア……」ナンシーは呻いた。「ウオオオーッ!」サヌマは髪を振り乱し、キーボードへ再び向かった。ヤバレカバレ!タイピングを再開する!「ウオオオーッ!」速く!もっと速く010010010010010011……サヌマはナンシーの手を掴んだ。 47
2014-03-31 00:25:01「エ?どこ」サヌマは状況にそぐわぬ幼い反応を、思わず口に出した。彼は緑の格子模様の崖縁に立つ己を見出したのだ。そして己が掴むナンシーの手を。彼女は崖下へ飲み込まれる寸前のところで、サヌマに助けられた。ナンシーがサヌマを見た。「引き上げられる?」「ああ!」サヌマは従った。 48
2014-03-31 00:30:12「あなた、やっぱり才能あるわ」ナンシーは笑おうとした。サヌマの力を借り、己の身体を崖上へ引き上げる。彼女の腰から下は無惨にちぎられ、消失していたが、その切断面から01ノイズが湧きだすと、彼女自身の下半身を元通りに形成した。「イヤーッ!」崖下から光り輝くニンジャが跳躍した。 49
2014-03-31 00:34:25