花古リプライ小説リレー

第一回テーマ:『結婚式』
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苗木 @astronex

@aaa_ringo_aaa 「俺さ、昨日結婚式見かけたんだよ」。きっかけは、山崎が発した言葉だった。普段通りの昼休み、普段通りの五人。山崎の発言に、耳を傾ける。「チャペルウェディングっつーの?教会でさ、神に永遠の愛を誓うやつ。すげえ綺麗で、幸せそうだなって柄にもなく思ったわ」

2014-03-31 14:23:22
林檎 @aaa_ringo_aaa

@4_woooods 「最近の人って教会多いらしいね〜やっぱ綺麗だから?」と原が訊くと、瀬戸が寝ぼけ眼で答えた。「でも、俺は昔みたいに信頼する先輩に仲人頼んで家で上げる密やかな結婚もいいと思うよ」「でも折角なら祝福されたくない?」花宮は、それをじっと聞いていた。

2014-03-31 14:30:28
苗木 @astronex

@aaa_ringo_aaa 「ねえ、古橋はどっちがいい?」原が無邪気な声で問う。古橋の唇が、ゆっくりと開いた。「どちらでも良い。……正直、興味がない」「もうちょっとロマン持とうよ〜つまんないの。ねぇ、は」「ただ、」珍しく、古橋が原の言葉を遮る。四対の視線が、古橋に集まった。

2014-03-31 14:46:22
林檎 @aaa_ringo_aaa

@4_woooods 「ただ、きらきらしたところで祝ってもらえるほど、美しい恋だとは思えないだけかもな」それがあまりにも悲痛な声だったから、俺たちは彼が泣いているのかとすら思った。だけど古橋は酷く穏やかな表情で、原はつい噛んでいたガムを落としそうになった。「そっか」なんて言って。

2014-03-31 14:54:15
苗木 @astronex

@aaa_ringo_aaa その後も、普段通りの昼休みは続いていく。原と山崎がじゃれ合って、瀬戸が茶々を入れて、古橋が時折返事をする。いつも通りの昼下がり。誰も気づいていなかった。花宮が、一言も喋っていないことを。古橋が、指が真っ白になるまで制服の裾を握りしめていたことを。

2014-03-31 15:05:40
林檎 @aaa_ringo_aaa

@4_wooood 古橋。殆ど吐息のように声をかけられて、古橋は、っは、と。そこでやっと息が止まっていたことに気がついた。指が、腕が、喉が震えている。花宮が、そっと古橋の指に触れた。「血が出る」ただそれだけ、簡潔に。古橋が息を吐いたら、何も祝福しない、鐘が鳴った。昼休みが終わる。

2014-03-31 15:13:10
苗木 @astronex

@aaa_ringo_aaa 普段通りの放課後、普段通りの部活。シャワールームで汗を流し、入学した時より少し丈が短くなった制服に着替える。「部誌終わらせちまうから、お前ら先に帰ってろ」一人先に戻っていた花宮が声をかける。はーい、なんて気の抜けた返事をしながら原達は扉へと向かった。

2014-03-31 15:20:04
林檎 @aaa_ringo_aaa

@4_woooods 「なあ、なんか今日古橋変じゃなかったか?」自分より背の低い下駄箱を見つめて、山崎がこぼした。瀬戸は応えず、原はガムを割った。パチン。「そういえば、古橋は花宮を待ってるんだね」原の言葉で三人が体育館を見やると、夕陽がちょうど笑みかけていた。「何喋ってるのかな」

2014-03-31 15:25:21
苗木 @astronex

@aaa_ringo_aaa 三人の視線は壁に遮られ、二人には届かない。静寂の中、花宮がペンを走らせる音だけが微かに響く。古橋は何も喋らないし、花宮も口を開かない。パタン、と音を立てて部誌が閉じられる。「帰るぞ」二人きりになって、初めて発せられた言葉に、古橋は黙って頷いた。

2014-03-31 15:34:03
林檎 @aaa_ringo_aaa

@4_woooods 古橋が鞄を手に取って立ち上がった。しかし花宮は立ち上がっただけで、帰る、と言ったのに動く気配はない。「花宮?」「もう少しだから、待ってろ」古橋は怪訝に思いつつ頷いた。カチ、カチ、時計の音が響く。キーンコーン、カーンコーン……最終下校の鐘が鳴った。「康次郎、」

2014-03-31 15:40:33
苗木 @astronex

@aaa_ringo_aaa 「その健やかなるときも、病めるときも、 喜びのときも、悲しみのときも、 富めるときも、 貧しいときも、お前を愛し、お前を敬い、 お前を慰め、お前を助け、この命ある限り、真心を尽くすことを、誓う」花宮の口から出てきた言葉は、結婚式の、試しの文句。

2014-03-31 15:48:40
林檎 @aaa_ringo_aaa

@4_woooods 古橋が唖然としていると、ついてこい、と花宮に手を引かれて体育館に出る。「俺たちには試してくれる神父も、祝ってくれる神もいない。ガキだから証だけの指輪も贈れない。ただ、あるだろう、俺たちの、俺たちだけのリング」そう言って花宮はニヤリと笑い、ボールを放った。

2014-03-31 15:52:32
苗木 @astronex

@aaa_ringo_aaa お手本通りの、ティアドロップ。ボールは輪に擦りもせずにネットを揺らす。ボールが、古橋の足元に転がった。ボールを拾い、宝物のように窓から差し込む夕日に翳す。軽く口づけて、古橋はボールを高く放った。弧を描き、ボールはリングへと吸い込まれていく。「俺も、」

2014-03-31 16:09:55
林檎 @aaa_ringo_aaa

@4_woooods「おれもちかうよ」涙声で、舌足らずに、古橋は笑った。普段からにこやかな方ではない彼が泣きながら笑うと、本当に笑っているのか不安なほどで。それでも花宮は満足気に、幸せそうに、彼を抱きしめるのだった。「それでは、」誓いのキスを。夕日に避けられた闇の中で、二人きり。

2014-03-31 16:14:16
苗木 @astronex

@aaa_ringo_aaa たった二人の結婚式。見届ける人間も、祝福する神もいない、二人だけの誓い。触れ合った互いの体温だけが彼らを繋ぐ“Ring”となる。「…手を繋いでも、いいだろうか」体育館から出る間だけ、と乞う古橋に、花宮は微笑んだ。「いいぜ、光は俺達を見ていない」【完】

2014-03-31 16:26:36