レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド #4
「先見の明を持つ方が大勢いらっしゃるようだ。次のトピックに行こう。タイトルは……墓が多すぎる」ノシトが立ち上がって手を叩く。その音はシシオドシめいて、場の雰囲気を一瞬でコントロールする。「ネオサイタマには無駄が多い。慰霊碑や公営ハカバを全部合わせると、ドーム球場何個分か?」 25
2014-03-31 17:19:22「これは難しいぞ」「ヒントをくれ!」暗黒投資家たちが和やかに答えをタイプする。「なるほど。これは皆さんには難しかったようだ。……何しろ、皆さん、そんなものに無縁だから。正解は、こう」ノシトが数字を指し示して笑う。投資家たちも笑い、驚く。「これほどの土地が!」「経済損失だ!」 26
2014-03-31 17:24:36「そう。これだけの土地と、それを維持管理するための税金が、毎年ドブに捨てられている……。馬鹿馬鹿しい旧世代の道徳に、経済が首を締められる……」ノシトはスクリーン前を歩きながら考え込むポーズを取る。そして、正面を向く。「解決しましょう。全て潰し、電子化します」静まり返る場内。 27
2014-03-31 17:30:31「おや、どうしました?皆さん、オバケが怖いとでも?」ノシトが問う。投資の伸びが悪い。ゴダルギが立ち上がった。「若造が……。暗黒投資家であろうと、超えてはならぬ一線がある。奥ゆかしき日本伝統をコケにすれば、ヤクザクランも黙ってはおるまい」彼はノシトを嘲笑うように肉声で言った。 28
2014-03-31 17:35:16「どうやら、現実から目を背けたがるトシヨリがいらっしゃる。すでにデータが実証しているのに……」ノシトが言った。モニタには、以前彼の主導で撤去されたマルノウチ抗争慰霊碑と、上昇する株価、街頭インタビュー映像が映し出された。「暗いのが消えてスカッとした!」「我々の税金だから!」 29
2014-03-31 17:41:35「皆さん、撤去前は半信半疑だった。投資から手を引いた残念な方もいた。だが現実は違った」それはNSTV社の狡猾な世論操作の賜物でもある。「市民も皆、心の底で思っていたのだ。イノベーションの潮流を阻害する、オヒガンやオショガツといった、悪しき因習を誰か打ち破ってくれないか、と」 30
2014-03-31 21:49:29「このように、死者へのセンチメントなど、何も生まない、むしろ経済損失であることが実証されました。しかし、これからは違う」一瞬、ノシトの瞳が、青く妖しく輝く。ナムサン!それは彼のジツの一端か!?ゴダルギは一瞬怖気を震う。他の暗黒投資家たちは雰囲気に呑まれ、投資額を増してゆく。 31
2014-03-31 21:58:30「これからはカネを生み出すシステムに変わる。そして皆さんは、この電子ハカバ・プロジェクトを管理する会社の株券を、公開前に買える!」ノシトがデジ・ネンブツ社の未公開ロゴを映す!大きな拍手!「そういった話ではない!節度を守れ!カネがカルマで穢れるぞ!」ゴダルギは怒りを露にする。 32
2014-03-31 22:02:58ゴダルギには勝算があった。彼はブディズム界と深いコネを持つからだ。彼は自らのメンツを守るためなら、どれほど損失を出してでも、この思い上がった若造の鼻柱を折ると決めていた。だがノシトは笑った。「カルマは、タダオ大僧正が全て肩代わりしてくれます」その名が出ると、場はざわめいた。 33
2014-03-31 22:07:56「デジ・ネンブツ社の特別顧問は、カスミガセキ教区の大僧正、あの偉大なるタダオ=サンが勤める事になっています。なお彼との間には実際強いコネクションもある」モニタには、プライベートで大僧正とゴルフに興ずるノシトが映っていた。「何だと……聞いておらんぞ……」ゴダルギは言葉を失う。 34
2014-03-31 22:12:02「スゴイ!」「勝ったも同然だ!」暗黒投資家が活気を取り戻しIRCを再開する。彼らは重鎮たるゴダルギに睨まれぬよう、様子を窺っていたが、もはやその必要は無い。力の差は歴然だ。「どうぞ、出口はあちらです」ノシトが言う。「ロクな死に方をせんぞ!」ゴダルギが下駄を鳴らして退室する。 35
2014-03-31 22:24:19「ハー、残念だ。あの老人は以前、ネコソギ社とビジネス関係があったのだろう。実際ヤクザのようなものだ。だが我々はヤクザも、アサシンも、オバケも、恐れはしない」一堂拍手!「カラカミ・ファンドが信じるのは、新たな市場とマネーの力だ」ここで彼はアマクダリネットのIRC着信に気付く。 36
2014-03-31 22:35:59「では、次のプレゼンまでしばしのお別れ、私が居ない間にどんどん投資を!」ノシトはボーディングルームの中央に置かれた赤いLED時計を見た。1007010105。「10分後に戻りますよ。あのバーを越えていることを願って。さあタイムイズマネーだ!ノアの方舟に乗り遅れないように!」 37
2014-03-31 22:48:19「では、次のプレゼンまでしばしのお別れ、私が居ない間にどんどん投資を!」ノシトはボーディングルームの中央に置かれた赤いLED時計を見た。1007010105。「10分後に戻りますよ。あのバーを越えていることを願って。さあタイムイズマネーだ!ノアの方舟に乗り遅れないように!」 37
2014-04-01 21:48:50盛大な拍手。「サンクス」マジェスティは後ろ向きのまま、両手で“お静かに”のジェスチャーを取り、居室へ向かった。赤スーツの秘書たちがオジギし、自動フスマが開く。先程のラジカルな経済行為が与えたインパクトを自己採点し、及第点を出しながら、彼は最高級プレジデントチェアに腰掛けた。 38
2014-04-01 21:57:32「大変お世話になっております。弊社の第三制作部長がとんだ失態を…!」モニタにはNSTV社副社長の顔。「90秒で述べろ」凍り付くように冷たいマジェスティの声。「アッハイ」副社長がドゲザした。「「爪、シツレイします」」マジェスティの爪を繊細にヤスリがけするのは二人の美人秘書だ。 39
2014-04-01 22:06:41マジェスティは多忙だ。常時、数十のビジネスが同時進行している。NSTVも重要な駒ではあるが、いま彼らに対し90秒以上の時間を投資する価値は無い。「エー、部長が個人的拷問などを悠長に楽しんでいたため、例のレディオ指導者が、脱走しまして、エー……」副社長は責任転嫁を忘れない。 40
2014-04-01 22:14:04「脱走?ありえん。ニンジャが絡んでいるな。映像を出せ」爪を整え終えたマジェスティはアズキマメ相場を片手間で操作しながら、アンニュイげに頭を傾け、こめかみに指を当てる。「ニンジャスレイヤーではない。低脅威度。このケチな反政府団体の私兵か。死に掛けた所にソウルが憑依。成る程」 41
2014-04-01 22:24:29「アッハイ!わ、我々としては連中の逆恨みが他の重役に及ぶ事を懸念しており、早急に処理して頂きたく!」副社長がドゲザする。「……例の周波数の件は、思った通り。奴ら自身は何も知らんな。さて……」マジェスティは小さく独りごちる。彼は映像の中のタニグチの反応からそれを察していた。 42
2014-04-01 22:37:09マジェスティはLED時計を見た。投資の時間だ。リソースは限られている。10月9日という静かなる革命の時、最大限の利益を得るには……彼は思案した。「……些細な芽も摘むべきだな。我々で処理する。お前には追加の護衛ニンジャをつける。安心して眠れ。緊急放送の件を滞り無く遂行させろ」 43
2014-04-01 22:49:03「た、大変お世話になっております!」「さあ急ぎたまえ!タイムイズマネー!君はいい仕事をしているぞ!この一連のプロジェクトが成功したら、君は、社長だ!」マジェスティは快活に笑い、モニタを両手で指差す。「チョージョーです!」副社長は重圧から解放されたように笑い、回線を切断した。 44
2014-04-01 22:56:29