140文字ショートショート

やんわり @yanwalee

【道路標識】 「3マス戻る」は初めて見た。

やんわり @yanwalee

【ステーキ】 あの店でステーキを食うって？勘弁してくれ！以前俺があそこでディナーを取ったら、三つも嫌なことがあったんだ！まず酒の質が悪くて悪酔いしちまったことが一つ。二つ目に、あそこのステーキは酷かった。靴底みたいな味がしたよ。そんで三つ目、家に帰ったら靴底がステーキになってた！

やんわり @yanwalee

【山口県】 道を歩いていると、車に轢かれたらしい小さな蟹が、ぺちゃんこになっているのを見つけた。 海に面した町ならではの光景なのだろう、更に歩くとそんな蟹が道路のそこら中に転がっていた。 もちろん、魂になった蟹達が西の空で雨雲を細かく切り分けていたことなど、誰も知る由もない。

やんわり @yanwalee

【ブロッコリー】 「ああ神様。私は自分の色を忘れてしまいました」 「おやおやそれはかわいそうに」 「このままでは私は消えてしまいます。家族に二度と会えなくなってしまいます。どうか、私の持っていた色を教えてください」 「白」 こうして、カリフラワーができた。

やんわり @yanwalee

【蓮】 小学生の頃、十月のプールに一人で訪れたことがある。 プールからは水が抜けておらず、水底には大小様々な人の影が沈んでいた。 飛び込み台に座った釣り人が、「夏になったらまたおいで」と言った。「綺麗な花が咲くから」 いわし雲の魚影が、ゆったりと水面を揺らす。 夏はまだ、遠い。

やんわり @yanwalee

【種】 「2316、2317、2318……」 「何をしているの？」 「種を蒔いてるんだ」 「なんの種？」 「わからない。芽が出るかも、そもそも種かどうかも」 「ふうん」 「ひとつ食べてみる？黄銅の味がして美味しいよ」 「ありがとう」 2319。

やんわり @yanwalee

【バレンタインデー】 1880年代にオランダで流行した感染症「毒心病」に対し、特効薬として効果のあったチョコレートを看護婦たちが配り歩いたという逸話から生まれた行事の一つ。何故か当時の感染者は男性だけであり、チョコレートを受け取れなかった男性は苦悶の表情で死んでいったという。

やんわり @yanwalee

【ポスター】 彼女の部屋に見慣れないポスターが貼られていた。「壁にちょっと大きめの傷が付いちゃってね。隠すのにちょうど良かったの」との事だった。なるほど、人一倍不器用な彼女のことだ。その光景も容易に想像がつく。僕は、彼女の手首に貼られた小さなポスターを見ないようにしながら笑った。

やんわり @yanwalee

【ジンクス】 「目の前を黒猫が横切ると悪いことがある」というジンクスから、黒猫が横切ろうとすると慌てて駆け出す人がいる。一方、黒猫には「目の前を人間が横切ると悪いことがある」というジンクスがあるため、目の前を人間が横切ろうとすると慌てて駆け出し、人間の前を横切ろうとするらしい。

やんわり @yanwalee

【初心者】 日本は随分と初心者に優しくなった。今や出ていない入門書はなく、これを読めば大抵のことはわかる。「結婚するならこんな人を」なんて特集を雑誌やテレビでやるほどだ。狂っている。自分の人生なんだぞ。皆もっと自分で考えなければいけない。真理の入門書にもそう書いてある。

やんわり @yanwalee

【キス】 「ねぇ知ってる？キスにはモルヒネの10倍の鎮痛作用があるんだって」 彼女はそれだけ言うと俺の口を塞いだ。 脇腹に走る激痛。思わず出口を求めて身体中から水分が流れ出す。涙、汗、血液……。 結局彼女は、俺の意識がなくなる際まで口を塞ぎ続けていた。 これも愛なのかもしれない。