肉塚斬首之介さん ( @kyounenn25 ) の怖い話

肉塚斬首之介 @kyounenn25

メールを見ると「美容師の学校は半年で辞めた。悪い男に騙された。そのせいで多額の借金がある。お父さんお母さんごめんなさい。」といった内容のメールだった。

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章雄さんの奥さんは娘の携帯に何度も電話をかけたが「電源が切れています」のアナウンスが流れるのみだった。

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「どうしたら」奥さんは泣きじゃくっている。

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その時章雄さんは何故か思い出した。子どもの頃に見たあの鬼の事を。章雄さんはサンダル履きで奥さんの「どこへ行くの！あなた！」と言う声を背中に受けながら外へ飛び出した。

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夜道を章雄さんは走った。あの鬼を見た道を走り林を抜けた。林の先に沼がある。直感でそこだと思った。沼に着いた。

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泣いている章雄さんの娘がいた。電源の切れた携帯電話を握りしめて。髪が金髪で東京での荒れた生活を物語る風貌だった。

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その後章雄さんの口添えで地元の農協で娘さんは働き始めた。借金は章雄さんが肩代わりして少しづつ返済する手はずになった。

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しかし変だった。この話を僕は章雄さんから直接聞いていた。場所は大阪。章雄さんは工事現場のガードマンの日雇いの仕事をしている。「なんで大阪に…」それが伝わったのか章雄さんは話を続けた。

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娘さんが農協で働き始めて半年後、娘さんに彼氏ができた。地元のそれなりの規模の農家の一人息子のＡさんという人でやはり田舎では三年とはいえ東京に行っていた娘さんの雰囲気に惚れ込んでの猛アタックから始まった交際だった。

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章雄さんは色んな事があってからあまりにも早過ぎる行動にいい顔はしなかったが若い2人の行動は止められず交際半年で結婚する事になった。向こうの家は父親が亡くなっており農家は手伝いの人間がいたが家の中は母親との2人暮しで若い人手が増えると歓迎されたらしい。

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とはいえ「これで娘も落ち着くか」と安堵した気持ちもなくはなかったと言う。それからまた半年ほどして向こうの母親が倒れた。農作業中に倒れて病院に運ばれたが体半分に麻痺が残った。

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娘に章雄さんは「自分の母親と思ってきちんと面倒を見なさい」と伝えた。実は娘がこっちに帰ってきてからも章雄さんと娘さんはあまり上手くいってはいなかった。その時も特に娘さんから前向きな返事はなかったそうだ。

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それからまたしばらくして章雄さんにある噂が耳に入るようになった。なんでも娘さんは倒れた旦那の母親の面倒も見ずに放ったらかしで離れに幽閉して満足に下の世話もせず食事も与えていないという話だった。

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章雄さんは相変わらず娘さんと喋る気にならなかった。「東京から帰って来た娘に対するやっかみもあるんだろう」ぐらいに思っていた。その頃から娘がしょっちゅう東京に遊びに行って一週間帰って来ないという話も耳に入ってきた。

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旦那は惚れた手前と元来女性に強く言えない性格らしかった。段々村での自分の肩身が狭くなっていくのを章雄さんは感じていた。娘が昔東京で風俗で働いていてそれに旦那がメロメロになっているという話まで耳に入ってくるようになった。

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そして向こうの母親が亡くなった。急いで駆けつけると娘がいた。知らない内に頭がまた金髪になって服装も派手になっている。近所の人間が集まっていたがそこで一波乱あった。娘は葬式をしないと言う。

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皆が「それは…」と言い出したが旦那の方も娘が「お母さんの意向なんです」と言うと「はい…まあそうなんです」と同意し「とにかく葬式はしないんでみなさん帰ってください」と娘が言い解散となった。

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結局葬式は行われず早々に焼いて墓に入れてしまった。その次の日に娘夫婦は「遅い新婚旅行」の名目でハワイに旅行に行ってしまった。また章雄さんの村での肩身が狭くなっていくのを感じた。

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そして旅行から帰ってきた。旦那1人で。娘は「用事がある」という理由で東京にいるという話をだった。しばらくして娘と旦那が離婚した事を人から聞かされた。ほとんどの財産を娘が奪い旦那は自死してしまった。もう章雄さんは村にいれなくなってしまった。

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嫁ぎ先の親戚、村中の人間から責められ章雄さんは家と持っていた土地を売り、それを渡す事になった。

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60を過ぎた章雄さん夫婦は追われるように大阪に出てきた。アパート暮しを始めた環境の変化からか奥さんは体調を崩し寝込みがちになって一年を経たずして亡くなった。

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亡くなる少し前に章雄さんは奥さんに「どう思います？」と言われた。章雄さんが「どうって？なにがじゃ？」と言うと「なんでもないです」と言われた。

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章雄さんは日雇いの仕事などをしてその後暮らしていた。奥さんの遺骨は故郷の墓には入れれずアパートに骨壺に入れて置いてあるという。

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喫茶店で話を聞いていたが周りの客が眉を顰めるほどの咳を章雄さんは頻繁にしていた。

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苦しそうなので悪いと思い「ではそろそろ、ありがとうございました。」と切り上げようとすると章雄さんは「親父の言う通りだったんじゃ」と呟いた。