茂木健一郎氏 @kenichiromogi 第1220回【自画像は、難しい】連続ツイート

茂木健一郎 @kenichiromogi

４月２０日を最後に、アメリカ滞在中は、連続ツイートを中断しておりましたが、今朝から再開いたします！　

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連続ツイート第１２２０回をお届けします。文章は、その場で即興で書いています。今朝は、アメリカから帰ってくる飛行機の中で見た映画から、考えたこと。

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じむ（１）ベン・スティラーは、好きな俳優さんである。『メアリーに首ったけ』で最初に見たのだったか。飛行機の中で、雑誌「ライフ」の廃刊騒動にヒントを得たコメディ映画に彼が主演しているのを見つけて、あっ、これだ！　と思って見始めた。おもしろかった。

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じむ（２）映画が終わって、エンド・クレジットを見ていて、初めて、この映画自体がベン・スティラーが企画、制作したものだと知った。おそらく、ハリウッドで俳優をやっていて、資金もたまって、自分で映画を撮りたくなったのだろう。俳優から映画製作への道は、一つの王道だ。

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じむ（３）しかし、そこではたと考えた。自画像は、難しいなと。「ライフ」をテーマにしたこの作品、とてもいい映画なのだけれども、ベン・スティラーが自分で製作していることを考えると、作品のタッチが、ほんの少しだけ、自分自身に甘いというか、格好良く撮ってしまっているような気がする。

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じむ（４）Rotten Tomatoだっけ、辛口で映画の評論をするサイトは見てないけど、ベン・スティラーのこの作品、エゴ・トリップと評されるリスクがあると思う。自分自身が主演となって映画を撮る時には、製作者としての自分は、演技者としての自分に甘くなりすぎてはいけない。

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じむ（５）表現者は多かれ少なかれナルシストだが、それを乗り越えた時に一流になる。ヒッチコックなどは絶妙なバランスで、一場面、一瞬だけカメオ出演する。ウディ・アレンは、逆に、ナルシシズム、自意識過剰自体をテーマにして芸術性を高めているから、そういうルートはあるのだと思う。

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じむ（６）「ミスター・ビーン」の映画で、カンヌ映画祭に行くやつがあった。あるナルシストの監督が、最初から最後まで自分をかっこよく撮った作品を上演して会場の失笑を買う、という場面がある。ビーンのかき乱しでむちゃくちゃになるのだが、映画人はみな自己愛の危険を知っているのだろう。

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じむ（７）東京藝術大学では、卒業制作で自画像を課す。それだけ、自分をありのままに見ることが難しいのだろう。自画像をうまく描ける画家は、一流である。ゴッホしかり、レンブラントしかり、岸田劉生しかり。自分の欠点やいやらしさを含め、メタ認知できたら本物の芸術家だろう。

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じむ（８）夏目漱石は自画像の驚くべき書き手だった。『坊ちゃん』では自分の肖像である赤シャツをあんなに嫌なやつに描いたし、『我が輩は猫である』では、自分の分身であるクシャミ先生が本当に情けない。だからこそ漱石は天才だが、自分を「草枕」的に冷徹に見るのは苦しくもあったろう。

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じむ（９）ダニング＝クルーガー効果を見ても、ある程度自分に対する評価を甘くした方が、精神の衛生上は良いようだ。自画像を厳しく描く道は、芸術家としては必須だが、危険な谷の近くを通る行為でもある。ベン・スティラーの今回の映画を見て、なんだかウディ・アレンが前より好きになった。

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以上、連続ツイート第１２２０回「自画像は、難しい」でした。