椎名幸福編 -現世編-

斜芭萌葱さんの「葬儀屋」から 椎名さんをお借りして書かせて頂いた 「椎名幸福編」の現世バージョン
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蟹@創作垢 @7vbbbll7

報せを受けて下宿先から慌てて実家に帰った。 今か今かと待ち受けていただけに、思いの外心は落ち着いていた。 ――あの日が運命の分かれ道だったことは間違いない。 今思い出しても、大切なものを護ろうとする男の強さを思い知らされる。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:18:00
蟹@創作垢 @7vbbbll7

あの日。 俺が実家に帰省し、椋次の挑発に乗ってランニングに出かけたあの日。 目に見えて体力の落ちていた俺は、言い訳をして自動販売機の前にいた。 椋次の彼女のストーカーと化した元彼に、少し先に行っていた椋次と間違えられて刺された。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:23:43
蟹@創作垢 @7vbbbll7

俺は状況をすぐに理解出来なかった。 腹に深く食い込んだナイフを見て、男の顔を見て、そしてふっと意識を失った。 あとは椋次から聞いた話だ。 あいつは危機を察してランニングコースや家周辺の交番へ直通の番号を事前に登録していたらしい。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:26:51
蟹@創作垢 @7vbbbll7

そして俺がいつまでも追って来ないから心配になって自動販売機の前まで戻って来た。 そこには血を流して倒れている自分の兄。 足音に気付いてストーカーは逃げて行ったのか誰もいなかった。 そしてすぐに近場の交番と救急に通報したという。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:29:37
蟹@創作垢 @7vbbbll7

しばらく入院生活を余儀なくされた俺だが、なんとか日常生活に戻ることが出来た。 入院中に何度か椋次は彼女も連れて来て二人で何度も詫びていた。 ストーカーは傷害で逮捕されたらしい。 でも刑期はそこまで長くないため、その後が心配だ。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:32:15
蟹@創作垢 @7vbbbll7

それがもう何年前だろうか。 下宿先に戻ってから来た最初の報せはストーカーの自殺だった。 その後に来たのは吉報。 タキシード姿の椋次とウエディングドレスを来た恵というその彼女に「早く彼女を作れよ」と言われたのもずいぶん前だ。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:34:45
蟹@創作垢 @7vbbbll7

――そして、今回の帰省はあの時の冷静さが嘘のように慌てふためいている椋次からの電話だった。 「も、もうすぐだって!」 そんな言葉だけで切れてしまった電話。 自分が間に合うとは思えなかったが、俺は土産を持ってすぐに駅へと走った。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:36:43
蟹@創作垢 @7vbbbll7

病院に着くともう「その声」が聞こえていた。 走って来たせいで上がっている息をなんとか落ち着け、「相原」と書かれている病室のドアを開けた。 「おせえよ椎名」 椋次は泣いていた。 母はその顔を見て笑っている。 「もう、情けないわね」 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:39:31
蟹@創作垢 @7vbbbll7

ベッドに横たわっているのは椋次の妻となった恵さん。そして――。 「抱いてあげて下さい、椎名くん」 相原家に新しく加わった、家族の一員だった。 「よかった、よかった!」 「情けねえな、椋次」 「仕事なんか手につかなかったんだよ」 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:42:16
蟹@創作垢 @7vbbbll7

よく見れば椋次はスーツ姿だった。 予定日が分かっているなら事前に休みを取っておけばいいものを、そこまで頭が回らないほど慌てていたのだろう。 恵さんから慎重に受け取った小さな命は、抱いてみればずっしりと重く、幸せに満ち満ちていた。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:45:54
蟹@創作垢 @7vbbbll7

「よかったな、お前に似なくて」 「うるせえよ」 こんな会話もいつか来ると夢見ていたものだった。 母は嬉しそうに微笑んでいる。 そういえば父はどこに行ったのか。 「次は椎名ね」 「無理だよ、兄貴には彼女がいない」 「うるせえな」 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:49:04
蟹@創作垢 @7vbbbll7

ふと、スーツ姿の椋次を見て変な感覚に囚われる。 無機質な空間で書類を手にしている椋次。 「自分の傍らに刀がない」という妙な不安感。 そしてちらつく、見も知らぬのに見知ったかのようないくつかの顔。 ここではないどこかの景色。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:52:22
蟹@創作垢 @7vbbbll7

「どうした、椎名」 「――いや、デレっとした顔をしてるなあと思ってな」 「いいだろ、父親になったんだから!」 その変な感覚はすぐに振り払った。 どうせ今朝見た夢のかけらだろう。 椋次が新しく築いた「家庭」は笑顔に溢れている。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:55:31
蟹@創作垢 @7vbbbll7

「そうだ、土産を持って来たんだった」 ほらよ、と渡すのと父親が入って来たのは同時だった。 どうやら親戚中に電話をしまくっていたらしい。 「次は椎名の番だぞ」 「なんだよ、揃いも揃って!」 俺の番、が来る日はまだまだ遠そうだ。 「椎名幸福編 -現世編-」 #twnovel

2014-05-02 11:59:07
蟹@創作垢 @7vbbbll7

二つの「椎名幸福編」には一応根幹となるテーマがあるのです。 いちおう、ね。いちおう。 にやにやしながらその辺読み取って下さい、ぜひ(笑

2014-05-02 12:04:46