君、さりしあと。

単発。他の川内さんとは一切関係ありません。
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◯(仮名) @kamerimaru

艤装を砕かれ、海原に呑まれるそのときも、彼の人は私を気遣っていた。それは今の私が、彼女の同僚であったからか。あるいはかつて、正規空母「赤城」であった頃の私を看取れなかった無念からか。いずれにせよ、私にはどうしても、実感できないことではあるのだけれど。彼女が死んだ日に私がした事は、

2014-05-08 20:16:46
◯(仮名) @kamerimaru

彼女と共に喪われた艦載機、たとえば烈風や流星改といった新鋭機を、少しでも取り戻そうとするくらいであった。この試みはまずまずうまくゆき、烈風までは補填できたものだった。僥倖であった。あとは何時も通りに食事を済ませ、眠り、翌朝からは訓練に加わった。皆は私のことを強いと云う。誤解だ。

2014-05-08 20:20:27
◯(仮名) @kamerimaru

私にとっては別段、特別なものを感じなかったので、いつも通りにしていたというだけの話だ。それ以来、南西諸島から西方、北方、南方と、私は転戦した。戦果は十分なものだった。

2014-05-08 20:24:32
里村邦彦 @SaTMRa

彼女の妹が死んだのはつい先日のことだ。笑い顔の新型に食われたのだ。強敵であり、いつ戦死者が出ても不思議ではなかった。隊は陰鬱な雰囲気だったが、私はいつもの通りだった。特別を感じなかったので。彼女もそのようだった。意外な事だった。撃って出ては戦い、夜まで戦い抜いて帰りまた出撃する。

2014-05-08 20:28:16
◯(仮名) @kamerimaru

皆は顔を顰めたり、気が触れたのだと言ったり、また、報復しようというのだと評して、私怨で戦うことを咎めた。彼女はいつも通りのようだった。相手をより倒そうとするのでもなく、死のうとするでもなく、ただただ出撃を続けた。私はほぼ確実に随伴し、笑い顔に幾度となく痛手を受けた。

2014-05-08 20:33:10
◯(仮名) @kamerimaru

私は変わらなかった。彼女も変わらなかったか? 変わっていた。彼女はただ戦っていた。ただただ、戦っていた。それだけだった。妹を悼む事すらないようだと、皆は言った。確かに、悼んではいないようだった。ただ、妹の死んだ海で戦っていた。彼女の呑まれたのとははるか遠い、しかし同じ海で。

2014-05-08 20:35:37
◯(仮名) @kamerimaru

とうとう終いには謹慎で、それでも普段通りの様子の彼女がまた海にゆくとき、私は彼女の傍らにあるだろう。幸いなことのように、どうしてか、おもえた。

2014-05-08 20:37:12