マグロ・サンダーボルト #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やや人相が違うようですが」クローンヤクザの一人がしゃがみこみ、目を閉じて昏睡するジェイクらしき男のサングラスを外して見せた。「……ああ?」ハシバは気怠そうに凄んでから、クローンヤクザの横にしゃがみこんだ。「……いいか?サイバネ野郎はな、人相なんざ自由に変えれンだぞ……?」 23

2014-05-16 16:14:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それに、大して人相も違わねえだろ……ふざけやがって……」未だ電脳ドラッグが残留するハシバの目には、周囲にいる連中が全員ローポリゴンに見えていた。「……見ろ、口の周りに盛大にトロ粉末だ。頭を殴られて気絶直前に……吸引しようとしたな、クソめ。こんな意地汚えのは、ジェイクだろ」 24

2014-05-16 16:22:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「「「そうでしょうか」」」」部下が問う。ハシバは煙草を吹かし、幻覚を消し飛ばすと、立ち上がって睨みつけた。「ザッケンナコラー!……てめえらクローンに、人相なんざ判別できンのか、偉そうに…。こいつはジェイクだ。俺の内なるソンケイがそう告げてンだよ。てめえらには解んねえだろ」 25

2014-05-16 16:30:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「「「ドーモスミマセン」」」」クローンヤクザたちは恐れ入ってオジギした。「とっととあのクソ装置を装着しろ」ハシバの中では、科学技術の進歩を恐れるハイテック・メガロマニア精神と、グレーターヤクザ特有の反骨精神が複雑にせめぎあう。2匹のサイバーイルカはそれを暗示しているのだ。 26

2014-05-16 16:33:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「装着します」大型ケースを運んできたクローンヤクザが、ジェイクらしき男の上半身を起こし、野球のキャッチャープロテクターめいた形状の装置を取り付けた。続いて、そこから伸びる合金製の強化ベルトが、背中でXの字にホールドされた。男はまだグッタリと昏睡していた。 27

2014-05-16 16:41:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「一発ZBRも注射しとけ……」ハシバは短くなった煙草を捨てると、クローンヤクザたちに後処理を任せ、一足先に車に戻って行った。また2匹のイルカたちに会うために。「……くだらねえ仕事だったぜ……」 28

2014-05-16 16:47:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

10分後。サムライヘルム・オブ・デス・ヤクザクランの事務所がある、ヤクザビル最上階にて。 29

2014-05-16 16:50:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ラッキー・マザーファッキン・ジェイクも遂に年貢の納め時だ!」半身をサイバネ化した組長イシイ・ウェイダは椅子に座り、大型モニタのひとつを見ながら愉快そうに高級葉巻を吹かした。そこには、残忍なる処刑装置を装着され廃ビルにひとり放置された、哀れなジェイクの昏睡姿が映っている。 30

2014-05-16 16:56:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その隣の大型モニタには、旧世紀の悪名高きバイオレント映画「タケシコップ・ヘルデッカー」の拷問シーンが映し出されている。イシイ・ウェイダは古い映画をこよなく愛好しており、野蛮で印象的な処刑方法を見つけては、それを敵対するクランの兵隊や裏切者への見せしめとして使う。残酷な男だ。 31

2014-05-16 17:01:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ねえウェイダ=サン」横に座る若い美女が、ぼんやりと呟いた。イシイ・ウェイダの幼妻、イシイ・メリッサである。夫には気づかれていないが、彼女は新型電脳麻薬「イルカチャン」の愛好者でもある。「わたし、ジェイクの野郎がブザマに死ぬ所を見たいわ。それも、最高に笑える死に方がいいの」 32

2014-05-16 17:09:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おう、メル=サン、見せてやろうじゃないか。憂鬱も吹っ飛ぶくらい笑えるやつをな。何個か用意しておいた中から、とびきりのを選んだ」イシイ・ウェイダは笑った。2年前に半身をサイバネ化した影響で、彼は葉巻の味をもう感じない。死の恐怖を克服した代わりに、彼は何か大切なものを失った。 33

2014-05-16 17:15:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ボス、何か様子がおかしいです」室内のイミテーション竹林に潜んでいた男が、不意に姿を現して言った。体格のいい黒人だ。そして最も重要なのは、彼がニンジャ装束を着ている事だ。彼はウェイダの最側近であり、滅多な事ではこのヤクザビルから出ない。「……何がだ、ウィンドブラスト=サン」 34

2014-05-16 17:23:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ウィンドブラストと呼ばれたニンジャ装束の男は、丁寧にオジギしてから片膝をつき、モニタを指し示した。「奴はジェイクではありません」「……何だと?」ウェイダは驚き、再び画面を見た。すると信じられない事が起こっていた。ジェイクであるはずの男の体が、ニンジャ装束に包まれていたのだ! 35

2014-05-16 17:29:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どういう事だ……!ニンジャ装束だと……?」ウェイダは手元のIRC機器を操作し、監視カメラ映像を逆回しした。どう見ても、この男は寝返りを打った時に、一瞬でニンジャ装束を生成したとしか思えなかった。そして、口元を覆う禍々しき「忍」「殺」のメンポを。 36

2014-05-16 17:34:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ボス、こいつはニンジャです…」ウィンドブラストが言った。額には深い皺の谷ができ、脂汗が滲む。剣呑なアトモスフィアが室内を包んだ。メルには事態が把握できずニコニコとしていた。「…それも、ただのニンジャではない。ニンジャスレイヤーです。このメンポは特徴的で、すぐに解ります」 37

2014-05-16 17:38:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャスレイヤーだと……?」ウェイダは怪訝な顔で葉巻を吹かし、その印象的な名前を反芻した。「ニンジャスレイヤー……。ネオサイタマの死神か!実在したのか!」ウェイダは今にも心臓発作を起こしそうな顔を作った。だがサイバネ化された彼の心臓は、ただ冷静に拍動し続けていた。 38

2014-05-16 17:42:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……う……」ニンジャスレイヤーの呻き声が、ノイズ混じりで伝わる!おお……ナムサン!恐るべきカラテの怪物が、仮死状態の眠りから目覚めようとしているのだ!「……ボス、私も実在を疑っていましたが、奴は今でもアマクダリ脅威リストのトップに位置します」側近の声はわずかに震えていた。 39

2014-05-16 17:47:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「セクトに報告しますか」「バカ!こんなふざけた装置の事を報告できるか!」「ではハシバ=サンに殺させに」「殺せると思うか?」「もう無理でしょう、覚醒します」「失敗したらうちのクランが死神にバレるだろうが!」何たる極限状況!一瞬でも舵取りを誤れば、クラン崩壊の危機的状況である! 40

2014-05-16 17:57:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ではどのように」ウィンドブラストが立て膝姿勢で命令を待つ。脂汗が床に滴る。彼はいかなる命令も受ける覚悟だ。彼は最も忠実な副官だ。「……おい、てめえも頭撃たれりゃ死ぬよな」ウェイダの声には力が戻っていた。忘れていたオーガニック脳内興奮物質が、彼のニューロンを澄み渡らせる!  41

2014-05-16 18:02:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイ、死にます」側近は答えた。あの威厳に満ちたオヤブンの声が戻って来た。彼はそう感じていた。「……サイバネ野郎を殺せる爆弾なら、ニンジャも死ぬだろ」「ハイ、死ぬでしょう」「……いいか、あの死神を爆死させるぞ!始末できたらアマクダリに報告だ!」そしてマグロは泳ぎ始めたのだ! 42

2014-05-16 18:08:41