彷徨う三日月：叢雲と古鷹

彷徨う三日月 @DD_crescent

今日は、大規模作戦を終えてようやく時間ができたという司令……いえ、提督と初めてお会いしました。わかってはいましたが、旧型駆逐艦である私は戦力としてはあまり期待されてはいないようでした……。

彷徨う三日月 @DD_crescent

提督から「とりあえず近海の警らや資源輸送をやってもらうことになる。由良か龍田から声がかかるだろう。それまでは基地内の雑用をして他の艦の顔を覚えろ。」と指示されました。

彷徨う三日月 @DD_crescent

「一先ず叢雲に案内させるからわからんことがあれば今のうちに確認しておけ。ここでは叢雲が一番古株だから大抵のことは把握しているはずだ」……ということで、午後からは叢雲に基地を案内してもらうことになりそうです。

彷徨う三日月 @DD_crescent

「あんたが三日月ね。私が叢雲よ」 銀色の長髪を前髪だけ眉の上できれいに切り揃えたその艦娘は、眉間に少ししわを寄せて私を睨みながらぶっきらぼうに名乗りました。

彷徨う三日月 @DD_crescent

三日月です。どうぞ宜しくお願い致します、と軽く頭を下げる私。でも叢雲は 「じゃ、案内するわ。ついてきなさい」 とだけ言うと背を向けてさっさと歩き出してしまいました。 ……提督もそうでしたが、私はあまり歓迎されてないのでしょうか……

彷徨う三日月 @DD_crescent

基地内をあちこち案内している間中、叢雲はずっと不機嫌そうな顔で、でも説明だけは淀みなく丁寧にしてくれました…… もしかして、新しい艦娘が着任する度にこれをさせられていて辟易してる、とか……？

彷徨う三日月 @DD_crescent

「あとは……あそこね。基地の端にある、灯台。今は故障してて修理中なんだけど、一応案内するわ。修理担当の艦娘が作業してるはずよ」 そう言って連れて行かれたのは、岬にあるような巨大なものではありませんが、やはりそれなりに背の高い灯台でした。

彷徨う三日月 @DD_crescent

「古鷹、夕張、二人ともいる？」 「いますよ。あ、その娘があたらしく着任した駆逐の娘？」 「あー、叢雲か。新人ちゃんの案内？　お疲れさま」 油まみれで灯台の修理に励んでいたのは古鷹と夕張のお二人でした。 出撃がない艦娘の仕事は多岐に渡るようです……ちょっと不安になってきました。

彷徨う三日月 @DD_crescent

「これで一通り回ったわね。それじゃ、戻るわよ」 二人に挨拶をして灯台を後にする叢雲と私に、古鷹の声が追いかけてきました。 「あ、叢雲、待って！　あなたに渡すものがあったの！」 「え、な、何？」

彷徨う三日月 @DD_crescent

なんとなく、私は外したほうがいいような雰囲気を感じて…… 先に戻りますね、と叢雲に告げ、私は二人を残して灯台を後にしました。 ちょっと離れてからちらりと振り返ると、古鷹から何か受け取った叢雲が顔を赤くして何か言っているのが目に入りました。

彷徨う三日月 @DD_crescent

古鷹はにこにこしていて……二人の間には親密な空気があるように感じられます……叢雲、あんな顔もするんですね。 あ、叢雲と目があってしまいました。 顔が真っ赤です……あれは怒っているというよりは、照れている、んですよね？

彷徨う三日月 @DD_crescent

あ、走ってきます。 古鷹に二言三言告げた叢雲がちょっとこわい顔でこちらに走ってきます。 「三日月、あ、あんた何か変なこと想像してないでしょうね!?」 え、いえ、別に何も……というか変なことってなんですか。

彷徨う三日月 @DD_crescent

「何って……想像してないならいいのよ！　まったくもう、古鷹ったら、こんなところで……」 叢雲の掌には小さな包みが大事そうに収められています。 中身まではわかりませんが、白地に空色の花模様のハンカチーフで包まれた、小さな包み。

彷徨う三日月 @DD_crescent

「……あんたは憶測でおかしな噂とか流すような子じゃないと思うけど、こそこそ隠すのは私の流儀じゃあないから言っておくわよ」 あ、はい。

彷徨う三日月 @DD_crescent

「しゅ、竣工日おめでとう、だって。まったく、そんなの艦の頃の話じゃないのよ……わ、笑うな！」 顔を真っ赤にして告げる叢雲の姿に、私はきっと微笑んでいたのでしょう。 どうやら、叢雲はちょっととっつきにくいだけで、悪い娘ではないようです。

彷徨う三日月 @DD_crescent

さて、もう就寝しなくては……消灯時刻はとっくに過ぎてますし。 明日はきっと私にも任務が下される……といいんですけど。 では、おやすみなさい……