【第二部-拾五】気持ちに気づいて、抱きしめて #見つめる時雨

荒潮×朝潮 満潮
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荒潮視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

お風呂から上がり、タオルを髪に挟むように当てて水分を取る。自分の髪からほんのり漂う、バニラの香り。…気に入ってくれるかしら。この前一緒にケーキ屋さんに行った時には、お店に漂う甘い香りを「いい匂いね」って言ってたし、こういうの嫌いじゃないと思うんだけれど。

2014-05-24 22:00:45
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

部屋に戻ると、先にお風呂から上がっていた朝潮は既に髪を乾かし終わり、机に向かって、恐らく今日の演習記録を読み返していた。相変わらず勉強熱心ねぇ。自由時間くらい、ゆっくりすればいいのに。私は鏡台の前に移動し、中からドライヤーを取り出す。そこまでして…私は一つ、閃いた。

2014-05-24 22:05:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私はドライヤーを置き、朝潮の背後に近づいた。すると私の気配を察したのか、それとも香りに気づいてくれたのか、朝潮がこちらを振り向いた。 「何?荒潮…って、ちょっと!?」 「朝潮ぉ、髪乾かしてぇ~」 朝潮の背中にくっついて、おねだりしてみる。

2014-05-24 22:10:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「やめなさいって!それくらい自分でやりなさいよ!」 朝潮が私を振り解こうと体を揺らす。一緒に揺れる朝潮の髪から、寮備え付けのシャンプーの香りがした。 「朝潮にやって欲しいのよ」 「私、美容師じゃないんだけど…」 わかってるわよ。朝潮にして欲しいの。私の髪に触って欲しいの。

2014-05-24 22:15:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「朝潮ぉ~」 朝潮の頭に頬ずりする。乾かしたばかりの朝潮の髪の感触が気持ち良い。 「あ!ちょっと!記録が濡れちゃうじゃない!」 そんな紙に構ってないで、私の髪に構ってよぉ…。 「もう…乾かせば大人しくしてくれるの?」 やったぁ。

2014-05-24 22:20:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

鏡台の前に座ると、表情が緩んでいる私が鏡に映っていた。まだかしら、まだかしら。 「じゃあ乾かすわよ」 「はぁい」 朝潮が手で私の髪を撫でながら、一緒にドライヤーをかけていく。まるで朝潮の指が私の頭の上でステップを踏んでいるかのよう。気持ちいい…。

2014-05-24 22:25:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

朝潮は量の多い私の髪に苦戦しながら、真剣な顔でドライヤーを当ててくれていた。朝潮はいつだって一生懸命。あれだけ私が構って構ってしたのに、適当にやったってバチは当たらないのに。そんな朝潮が、私は好き。まぁ、適当にやったら面倒くさい事になると思われてるのかもだけど。

2014-05-24 22:30:25
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「熱かったり、痛かったりしない?」 「うん、大丈夫…」 目を閉じ、恐らくもうすぐ終わってしまう朝潮の指の感触に浸る。このままいつまでも朝潮にこうして欲しいな、なんて思っちゃったり。ふふ。

2014-05-24 22:35:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…それにしても、香りには気づいてくれてないのかしら?自分でも甘い匂いを感じてるのに…。ひょっとして、好みの香りじゃなかったのかしら…。 「はい、おしまい。どうかしら?」 朝潮がドライヤーを切って、鏡に映る私に聞いてきた。…同じ鏡には、私の少し不満そうな顔も映っていた。

2014-05-24 22:40:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「どうしたのよ、荒潮。まだ足りなそう?」 …出来れば朝潮に自分から私の新しいシャンプーの香りに気づいて欲しい、そんな願望。だって私から聞いたら、意味がないもの。髪を乾かしてくれたのは嬉しいけど、ちょっと残念。…私って面倒くさい。 「…ううん、ありがと。気持ちよかったわ」

2014-05-24 22:45:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私は背後で膝立ちをしている朝潮に体重を預け、朝潮の首の辺りに頭を擦り付けた。ほら、どお?何か気づかない? 「ちょ、ちょっと荒潮…くすぐったいってば」 んもう…そうじゃなくって…。朝潮はそんなに私に興味ないの?

2014-05-24 22:50:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「荒潮、あんまり寄りかかってこないでよ、倒れちゃうじゃない」 朝潮が私の肩を後ろから押し返してくる。香りに気づいてくれるまで、こうしちゃうわよ。だから、早く。 「荒潮ってば…はぁ」 大きな溜息をつかれた。私の前髪が、朝潮の吐息で揺れる。

2014-05-24 22:55:19
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

グゥ、と小さな音が聞こえた。…これは何の音かしら?…朝潮? 「あ……」 朝潮の方を振り向くと、朝潮が顔を赤くして固まっていた。もしかして、おなかの虫だったのかしら。朝潮の。 「あら…お腹空いたの?」 「な、何でもないわよ!」

2014-05-24 23:00:59
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私がじっと朝潮の目を見つめていたら、耐えられなくなったのか、朝潮が視線を逸らせた。 「…荒潮から甘い匂いがしてくるんだもの。それに体が反応しただけよ…」 え?あ…気づいてくれてたんだ。やだ…嬉しい…。 「朝潮ぉ!」 「わっ!?荒潮!?」 私は思わず朝潮に抱きついた。

2014-05-24 23:05:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私が抱きついたせいで朝潮が後ろに倒れこむ。朝潮、押し倒しちゃった。 「ねぇ、甘いモノ、食べたくないかしら?」 「え?いえ…別に…」 「私なら、いつでも食べていいわよぉ」 「…は?」 朝潮が怪訝そうな顔をする。

2014-05-24 23:10:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「朝潮の気の済むまで食べちゃっていいからね」 「…何を言っているのよ」 あらぁ…意味、通じてないのかしら?まぁ、朝潮ってそういうのに疎そうだもんねぇ…。 「そろそろ降りて欲しいんだけど…」 朝潮が私を見上げてる。その顔は少し不機嫌そう。…残念。

2014-05-24 23:15:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私は大人しく朝潮から退いた。朝潮に嫌われては元も子もない。引き際は見極めないとね。…でも、いつになったら朝潮は振り向いてくれるのかしら…。それとも、私には本当に興味ないのかしら…?そうだったら…ヤダ…。

2014-05-24 23:20:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…もうこんな時間じゃない。寝るわよ。布団敷きましょう」 「…はぁい」 しぶしぶ腰を上げる。まぁ、香りに気づいてくれたからいいかしらね。とっても嬉しかったし。って、あら? 「…朝潮?」 「あ、いえ、何でもないわ」 朝潮を見ると、少し固まっていた。どうかしたのかしら…?

2014-05-24 23:25:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

朝潮のキチッとした布団につられて、私も綺麗に布団を敷く。そして、自分の布団を朝潮の布団に近づけていった。 「荒潮、何してるのよ…」 あ、バレちゃった。でも、もっと近づける。 「こら」 朝潮に額をこづかれた。やん。 「ほら、遊んでないで、そろそろ電気消すわよ」

2014-05-24 23:30:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「消灯には早くないかしら?」 「何言ってるのよ。明日は早朝から演習でしょ?もう寝ないと」 そういえばそうだったわねぇ…。早朝演習…朝は苦手だわ…。少し憂鬱。 「じゃあ、おやすみ…って、何私の布団に入ろうとしてるのよ」 「ダメかしら?」 「…ダメに決まってるでしょ」 ―

2014-05-24 23:35:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

―消灯してからどれくらい時間経ったのかしら。私は暗闇の中で、耳を澄ませた。…朝潮の穏やかな寝息が聞こえる。私の隣に、朝潮がいる。朝潮には内緒だけど、私はこの時間が大好きだった。…体を横に向け、暗闇の中にぼんやりと見える、朝潮の横顔を眺める。…綺麗。

2014-05-25 01:00:25
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私はゆっくりと体を起こした。そして、出来る限り音を殺しながら…朝潮に近づく。 「…朝潮」 朝潮の胸が、静かに上下する。朝潮が、生きている証。ああ…静かな夜って、何でこんなに私を感傷的にさせるのかしらね…。

2014-05-25 01:05:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私にとって朝潮は、特別な存在なの。…あの時のこと、朝潮は覚えているわよね?…私は偶然そこにいただけだったのかもしれないけど、朝潮が助けに来てくれた時は、本当に…嬉しかった…。でも、その直後に、朝潮は…。

2014-05-25 01:10:23
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