薬売りのファンタス・マゴリア(仮)

酔狂なものが好きな店主・マゴリアと、夢売りの少女・トロイメライの小旅行。(まだまだ続くよ)
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秋月ネコイ @kuro_nya_

先日のハッシュタグネタから何かできた。 [マゴリア堂の店主と夢売りの少女(創作)] evernote.com/shard/s94/sh/d…

2014-05-16 05:04:09
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ 「あなたと私のお喋りが聞きたい変わり者がいるようよ、マゴリア」夢売りの少女は肩をすくめてみせた。

2014-05-19 14:58:01
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi 「あるようでなく、ないようである私と話がしたいとは酔狂な。面白いな」マゴリアはニヤリと笑った「どれ。その酔狂な相手とやらに逢ってみようじゃないか」

2014-05-19 15:00:59
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ 返事より先に返されたのは盛大な溜め息。「王都を追われたばかりだというのに、本当に警戒心ってものがないのね。…南方の密林で蝶を集める人よ。アタシがざっと調べた範囲では王都とも関わりはないわ。風変わりではあるけれど。挨拶代わりに銀の蝶のそよ風を預かってるわ」

2014-05-19 17:47:34
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi 「酔狂なモノには好奇心が疼くものでね」銀の蝶の微風を手にしてマゴリアは笑う。「旅の風を束ねて蝶にする密林。その場所で蝶を追う者。面白い。上手くすれば新たな素材も仕入れられるだろう」銀の蝶を水絹で編んだ籠に入れる。「案内を頼めるか?トロイメライ」

2014-05-19 19:58:51
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ 「ちょっとした長旅になるわよ。あぁ、その前にアタシの買い物も済ませなくちゃ」トロイメライは躊躇いなく幾つかの品物を手に取り、マゴリアに差し出す。「そうそう、この間夢を引き取ってきたわ。朝露に溶ける前の悪夢。しかもとびっきりの。あなたなら使うかしら」

2014-05-19 20:20:40
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi 「朝露に消えんとする兵士の夢か。戦の夢。これは夜風に混ぜ込み魔族の持つ鉱石に閉じ込めてみよう。濃縮された悪夢はある意味毒にも薬にもなるからな」朝露に混ざらんとする涙を漏斗で選り分け、昨夜切り分けたばかりの夜風と共に瓶に詰め込む。「では、行くとしよう」

2014-05-19 21:36:39
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ 街を出たトロイメライは、懐から色あせた紙を取り出し、小鳥の形に折り上げた。「お行き。マゴリアと行くと伝えておくのよ」小さく息を吹きかけると、薄茶色の小鳥は羽ばたき去った。恐らくは一足先に密林へと向かうのだろう。「アタシ達も急ぎましょ。途中でパイが食べたいわ」

2014-05-19 21:43:09
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi 「トロイメライはパイが好きだな。その小柄な身体によく入るものだ」愛刀のシャムシールを手にマゴリアは笑う。「道中、皐月つぐみのパイの果実が生えていれば食べよう。それでいいだろうか」店を出て風見鶏に「留守を頼む」と言うと、走り回ってた風見鶏が敬礼した。

2014-05-20 00:10:48
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ 「当たり前じゃないの。パイより美味しい物なんてそうそうないわ。今年ももう、皐月つぐみのパイが実る時期なのね」トロイメライの顔がほころぶ。「なら西の峠を越えましょ。妖精のつむじ風も採れるし、いいでしょう?風見鶏さん、マゴリアを借りるわ。毎度悪いわね」

2014-05-20 00:32:33
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi 西の峠から密林までの距離はどうだろうか。そうマゴリアは一瞬考える。「皐月つぐみを手にとって、開けばつぐみが歌い出す」と歌うトロイメライの顔を見る限り、遠回りは確定らしい。「遠回りならば到着時間を縮めるか」魔族の旦那から貰ったバイクをマゴリアは召喚した。

2014-05-20 01:00:26
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ バイクの唸るような音に、トロイメライは目を見開く。「随分大きな声の竜ね。でも、声質はイマイチだわ。さえずりの欠片をあげても大丈夫かしら?」駄目だろう。「これはこういう仕組みの乗り物なんだ」ずっとこの音が続くから、と言いさしてニヤリと笑う。「乗ればわかるさ」

2014-05-20 01:14:10
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi 「すごーい!この竜は地上を走るのね!」走るバイク。背中にしがみ付いたトロイメライが喜びの声をあげる。久々に見た外見相応の反応にこっちも笑みが浮かぶ。「これは魔族の国の機械だ。魔力を封じた鉱石で動くものだよ」バイクは西の峠へ向かう。ダークエルフらを乗せて。

2014-05-20 12:21:13
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ 「マゴリア、停めて」突然の声にバイクは急停車する。ぎちぎちと不満げな音を上げる歯車をよそに、トロイメライはぱたぱたと道端へ走り寄った。「やっぱり。水晶のささやきが聞こえたのよ。それにほら、日向が枝にかかってる」背伸びをしても届かない彼女の代わりに手を伸ばす。

2014-05-20 13:01:21
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi そっと枝を除け、髪を結う糸の一つで枝を結んで向きを変える。指の間に小さな蝶がとまる。「春の日向の残りか。夏の日差しが来る前に飛べなかったのかい。このままでは溶けてしまうぞ」ならば丁度よいとマゴリアはランプに蝶を入れる。「日向のランプ、一つ獲得」

2014-05-20 13:44:36
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ ちらちらと気まぐれに輝くランプは、先月頃の温もりを放つ。「あら、それ取り置きをお願いできるかしら?吹雪に怯えて眠れない子供が北にいるのよ」さざめくように喋る水晶を慎重に採っていたトロイメライが振り向く。「眠れなくちゃ、夢売りは仕事ができないわ」

2014-05-20 16:38:02
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi 「もちろんだよトロイメライ。これは君への商品だ」ランプをバイクの鞄に入れてマゴリアはニヤリと笑う。「春の日向を狩りにいく手間が省けた。遠回りもいいものだな」水晶採りが終わったトロイメライがバイクに戻る。「さあ、酔狂な奴のいる密林へ行こうか」

2014-05-20 22:21:08
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ 皐月つぐみのパイの果実を山ほど食べ、細々としたものを採取し、一行が密林に着いたのは銀の月が煌々と辺りを照らす時分だった。「随分早く着いたわ、普段ならもう一日かかるもの」トロイメライは親鳥の翼のテントを手早く広げると手招きした。「手狭だけどどうぞ、マゴリア」

2014-05-21 06:39:06
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi 「魔族の機械は伊達じゃないな。足が速い」バイクをひと撫でして小さな水晶の中に納める。「ところでトロイメライ。これの何処が手狭なのか」テントの中にはベッドが二脚。テーブルにキッチン。パイ焼き釜もある。「少なくとも私の寝室より広い」

2014-05-22 08:45:52
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ 「だって、ロッキングチェアもティーテーブルもないもの。親鳥の翼は食べて寝ること以外には本当に淡白なのが玉に瑕ね」でも、と続けながら翼の端を撫でると囀りが柔らかく響く。「歌が流れるのはなかなかいいと思うわ。ね、疲れてなければ、踊りましょう?」

2014-05-22 08:55:41
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi 「私の種族流の踊りなら心得ている。それでもいいなら踊りましょう。小さなレディ」男がするようにマゴリアは一礼をしてトロイメライの手を取る。幼子の容姿であれ、長い時を生きている夢売りは経験が豊富だ。マゴリアの手足の流れを読んでステップを踏む。

2014-05-22 09:07:04
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ 「夏の森に銀の雫、秋の空に金の息吹」優雅に踊りながらトロイメライが口ずさむのは、マゴリアの種族の歌。今や歌う者はほとんどいなくなった、消えかけた歌。「興味深いな、私もかろうじて知っている程度だ」「ならこれはどうかしら?」郷愁を帯びた歌声は夜更けまで響いた。

2014-05-22 12:31:53
秋月ネコイ @kuro_nya_

@kokolo_negi ひとしきり歌い踊り、親鳥も囀りから寝息に替わる頃、マゴリアは寝床に着いた。「今回は外出時間が長いな」国を追われてから随分出不精になっていた、とマゴリアは笑う。トロイメライは隣のベッドでじっとマゴリアを見ている。まるで子供が寝るのを見守るように。

2014-05-22 12:55:31
こころさんは完済 @kokolo_negi

@kuro_nya_ 「あなたと出かけるのは20年ぶりになるかしら」柔らかい声がマゴリアの目蓋を静かに下げてゆく。眼差しに込められた暖かさを少しこそばゆく思ううちに、意識は闇へと溶けていった。 ……かすかに蜜花が薫る。トロイメライの夢の特徴だ。どうやらまた、夢を贈られたらしい。

2014-05-22 14:09:16