黒色中国さんの #上海逍遥

黒色中国 @bci_

『噫、寿司』と看板にある。「噫」（yi1）は「強く感動したり，驚いたりしたときに発する語」であるから、日本語に直訳すれば、「おっと！寿司」「びっくり寿司」みたいな感じかな。寿司屋の看板でコカコーラって日本では絶対無さそうｗ #上海逍遥 pic.twitter.com/ywQyHnNWzS

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小吃の店を冷やかしている内に時間が過ぎた。まだ少し時間が早いけど、そろそろ酒を飲みに行くことにしよう。昔、留学中に紹興料理にハマって以来、紹興酒を飲むのが大好きである。上海に行くと、必ず一度は、この店を訪れることにしている　#上海逍遥 pic.twitter.com/9as1mNoHLL

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店名の「孔乙己」とは魯迅の小説の主人公だ。私は、この作品の解釈を巡って留学中に教師と一悶着あったので⇒　blackchina.info/archives/5557　何かと思い出ぶかい。そんな昔のことを思い出しながら、店に入った…　#上海逍遥 pic.twitter.com/9jkMdoxzgp

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今回はちょっと奮発して、２０年物の紹興酒を注文した。開店してすぐなので、まだ料理の支度もできないという。酒は冷やで持って来てもらって、簡単な料理を注文しておいた。元々冷酒のアテである。簡単なツマミで充分だ。　#上海逍遥 pic.twitter.com/0loTZQuobh

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店員と少し話しをしながら時間をつぶしつつ、酒をひと口ふた口すする内に、料理が運ばれてきた。　#上海逍遥 pic.twitter.com/PPz5AYdmXi

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こちらは「茴香豆」（ホイシァンドウ）という。小説『孔乙己』の日本語訳では「ういきょうまめ」と書いてある。そら豆を紹興酒と醤油で似て、八角で香りをつけたものだ。　#上海逍遥 pic.twitter.com/zpEKfPAG3D

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こちらは「外婆家醉鱼」（ワイポージアズイユイ）という。「外婆」とは母方の祖母のことで、日本語に訳せば「おばあちゃん家の魚の酒漬け」になるのかな。名前の由来はよくわからないが、美味しい料理である。　#上海逍遥 pic.twitter.com/P0ASKBJoFK

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肉の部分は、まるでハムか燻製肉みたいな味がする。身がしっかりしていて、味わいが深い。あまり魚っぽくない味だ。皮の部分はプルプルしていて、薄めの豚皮みたくコラーゲンな感じ。１つの魚で２つの味わいを楽しめる。紹興酒のアテに良い　#上海逍遥 pic.twitter.com/0WoROcrOTr

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酒とツマミを楽しみつつ、店員を呼んで、外婆家醉鱼に使われているのは、一体何の魚なのかと聞いてみる。「チンユイです」と答えるが、字がわからないので紙とペンを渡すと、「青魚」と書いた。日本では「アオウオ」と呼ばれるコイの仲間だ　#上海逍遥 pic.twitter.com/0oYAQBDG5e

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アオウオは日本でも生息しており、これを釣るのを趣味にしている人もいる⇒　aouo.com　それにしても、こんなに美味い魚とは知らなかった。外婆家醉鱼は、この店に来るたびに食べていたが、今まで何の魚なのかは、聞いたことがなかったのである。　#上海逍遥

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昔、この店はもっとヒッソリした感じで、今のような華やかさはなかった。それでもなぜか日本人の客は多く、時には中国人よりも日本人の客の方が多かったりした。しかし、２００５年４月に上海で、数万人規模の、反日デモが起こった…　#上海逍遥 pic.twitter.com/w0ct3W3EAh

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私はその反日デモの最中に上海にいた。街には剣呑な空気が漂っていても、私は構うことなく、この日と同じように市場を歩き、文廟の周りをうろついて、孔乙己酒家に来たのだが、客一人いなくて、店主だけが寂しそうに椅子に座って俯いていた　#上海逍遥 pic.twitter.com/vFus3h7Fon

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店主は私の顔を一瞥して、「おお、来たか」と小さな声を出したが、椅子に座って俯いたままだ。反日デモの直後で、日本人の客が来なくなり、随分と落ち込んでいるらしい。いつもは客が多く忙しいので、あまり店主と話したことはなかったけれど、この時だけは、店の中で２人きりで長話をした　#上海逍遥

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あの時、店主と長話したのは「これから日本と中国はどうなるのか」ということである。「もうずっと日本と中国は仲の悪いままだろうか」と私が聞くと、「そんなわけないだろう、いつかきっと良くなるよ…良くしなくっちゃ」店主は私への返答というより、自分に言い聞かせるようにつぶやいた　#上海逍遥

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この店は日本人客が多いので、日中関係が悪化しては商売が成り立たないのである。店主に「あなた自身は、日本をどう思っているのか？」と聞くと、店主は黙り込んだ。彼にとっては答えにくい、意地悪すぎる質問だったか…と後悔したが、彼の返答を待ちつつ、酒を飲みながら店の天井を眺めた　#上海逍遥

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私自身、質問をしたことを忘れて、酒の酔いに浸っていた時に、店主がボソッと「日本人は…好きだよ」と言った。「どうして？」私もしつこい。「…この店で長いこと、日本人の客を見てきているから…だから、日本人は好きだよ。また、日本人が店に来てくれるようになって欲しいよ」。　#上海逍遥

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日本人の客が、この店にやってきて、中国人の客も店にいて、日本語も中国語も飛び交って、みんなが楽しく酒を飲んでいるのが、この店の原風景なのである。この店を訪れる客は、そういう店の雰囲気を愛しているのであり、何よりも店主がそれを愛してやまないのだ。単に金儲けの問題ではない　#上海逍遥

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私はあまり気休めを言うのが好きではない人間だが、ちょうどその頃の香港では（当時私は香港に住んでいて上海には旅行中だった）「明天会更好」（明日はもっと良くなる）というスローガンが流行っていた。だから、店主への意地悪な質問の謝罪の意を込めて、別れ際に「明天会更好」と告げた　#上海逍遥

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それを聞いて店主は、嬉しそうに笑みを浮かべて、私を見送ってくれた…あれから９年の月日が経って、商売は上手くいき、店は改装を重ねて立派になったが、日中関係は悪くなる一方で、改善の糸口すらも見当たらない。上海に在住する日本人は前年比で１０％減少している。　#上海逍遥

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今回、店を訪れた際、日本人客は私以外にも見られたが、あれから９年後の感想を、店主に聞いてみたかった。それが今回の来店の目的でもあったが、店主を呼んでみると、知らない人が出てきた。この店は兄弟で経営しており、今回出てきた店主は、兄か弟かわからないが、もう一人の方だった。　#上海逍遥

黒色中国 @bci_

酒を飲み終え外に出た。街を歩いていると、日本料理屋の大きな看板があった。あのデモから９年が過ぎ、上海では日本料理が浸透し、子供は日本のプラモやアニメが好きだが、日中関係は悪化し、日本人は減り続け…なんだろう…スッキリしない　#上海逍遥 pic.twitter.com/Q7vgeFGcol

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酔いも気分も中途半端でスッキリしないので、友人たちと飲み直そうと思い、張鼎鶏で白斬鶏を買って、ビールと紹興酒を山盛り家に持ち帰って、大酒を飲んだ。友人たちは、「何かあったのか」と怪訝な顔をしながらも、一緒に付き合ってくれた　#上海逍遥 pic.twitter.com/bt5fDWRITW

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今もまだ私の気分はスッキリしないのだが、日中関係がスッキリしないのは今に始まったことではない。今、オチらしきものを最後に加えるのだとすれば、「スッキリ」するのをただじっと待つのではなく、日本と中国に関わっている他の人々と一緒に考えて行動するほかなかろう…ということだ　#上海逍遥

黒色中国 @bci_

日中関係というのは、天気みたいなものではなく、それに関わっている人々の努力しだいで、いくらでも変わるはずなのだ。私としてはとりあえず、今後旅を続けて、中国人の言葉を聞き、日本にそれを伝えることで、皆さんと一緒に「スッキリ」するための方法を考えようと思っている　#上海逍遥

黒色中国 @bci_

そのための第一歩として、今回は上海を歩いてみたのだが、結果としてはモヤモヤとした気分になったものの、第一歩として上海を選んだのは間違いではなかったと確信する。そして、あの店主には再会せねばなるまい。また日を改めて、あの店を訪れようと思っている。　#上海逍遥