古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #26

更新二十六回目のまとめです。 サブ島沖海域に出撃していた艦隊の帰投。 そしてオリョールでの第六戦隊の戦いの顛末を聞いた神通は。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

大破した艦娘が三隻も。鳳翔さんが誰が大破したのか聞き返しているのに耳をそばだてていると、誰かが私の横を風のように走り抜けた。 「雷ちゃん!?待ってほしいのです!」 執務室を飛び出した雷ちゃんを追って、第六駆逐隊の面々も走り出す。執務室に残された私たちも、つられてそれを追いかける。

2014-06-18 21:53:17
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息を切らしながら母港の埠頭にたどり着いてみると、ちょうど黒煙を上げながら六隻編成の艦隊が帰港してくるところだった。雷ちゃんが、傍目にも落ち着かない様子でそれを見守っている。夜の闇に目が慣れてくると、艦娘の判別がついてきた。旗艦は川内だ。大破して艤装から煙を吹いている。

2014-06-18 21:58:55
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それに続くのは由良、夕立、時雨、若葉、初霜の水雷戦隊。大破しているのは若葉と夕立だ。 「若葉!初霜!」 埠頭に設けられた階段を登ってくる艦娘たちに雷ちゃんが走り寄る。 「二人とも大丈夫!?こんなにやられて……!」 「艦隊が帰投した。雷、初霜を入渠されてやってくれ。小破している」

2014-06-18 22:06:55
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ボロボロの制服と艤装をまとった若葉が普段と変わらない口調で雷ちゃんに応える。雷ちゃんが怒鳴りあげる。 「バカ!大破してるのよ!?初霜よりあなたの方が重傷じゃない!」 「うん、悪くない」 「悪くないじゃないわよ!」 まるで噛みあわない二人の会話を前に、初霜ちゃんがおろおろしている。

2014-06-18 22:12:01
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真っ赤な顔で若葉を気遣う雷ちゃんの気持ちは、若葉にはまったく届いていないようだった。なんだか微笑ましい気持ちでそれを眺めていると、川内がちょいちょいと雷ちゃんの肩をつついた。 「てーとく。報告させてくんない?」 「……あっ、そうだったわね。皆、お疲れ様。被害は大破三隻ね?」

2014-06-18 22:19:45
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「そ。あとは初霜と時雨が小破ね。夜戦だったらこんな被害は出さなかったんだけどね」 川内がこきこきと首の骨を鳴らしながら報告する。そもそも川内たちはどこに出撃していたんだろう。 「どういうこと?あの海域は全域夜に覆われていたんじゃ」 「主力艦隊がいたところだけ夜が切れてたのよ」

2014-06-18 22:24:24
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「姉様、どうぞ」 「お、サンキュ」 いつのまにか埠頭に来ていた神通さんから川内がタオルを受け取って海水に濡れた髪や服を拭う。他の艦娘たちには那珂がタオルを配る。神通さんの手にはサブ島沖海域の海図が握られていた。そうか、川内たちは珊瑚諸島沖の次の海域に強行偵察に行っていたのだ。

2014-06-18 22:30:03
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川内が頭を拭きながら神通さんが広げた海図を指さし、偵察の結果を報告する。 「敵の主力艦隊はここ。他はほぼ夜に覆われてたのに、ここだけ昼だったのよ。まったくやんなるよ。夜戦だったら南方棲戦姫だろうとフラッグシップ戦艦だろうと物の数じゃないんだけどさ」 心底不服そうに川内が言う。

2014-06-18 22:36:19
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「夜に覆われている」というのは、どの時間帯だろうと真っ暗闇に覆われていている海域のことを指す。以前、E海域と呼ばれる深海棲艦の戦力が集中している場所に出撃した時も、昼間に出撃したのにその海域に入った途端周囲が真っ暗闇になり、夜戦しか出来なかったことがあった。

2014-06-18 22:44:17
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演習で接する他の鎮守府との情報交換を通じて、サブ島沖海域にも同様の夜で覆われた海域があることはわかっていた。そのため、夜戦にかけては右に出る艦娘のいない川内が偵察艦隊の旗艦として抜擢されたのだろう。けれど、主力艦隊のいる海域だけ夜ではなかったのは大きな誤算だったに違いない。

2014-06-18 22:48:59
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「他は大体前情報通りね。敵主力艦隊の旗艦は南方海域前面と同じ補給艦。こいつらをある程度の数沈めれば深海棲艦どもは撤退すると思う。全く、戦姫まで護衛に付けて後生大事に何を運んでるやら」 川内の報告を神通さんが海図に書きこんでいく。得意の夜戦でなかったにも関わらず川内の報告は正確だ。

2014-06-18 22:56:21
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「あ、あと途中の海域で邪魔しに出てきたフラッグシップ戦艦のル級とタ級だけど、カットインじゃなくて連撃撃ってきたよ。情報が古かったみたいだね」 川内の報告を聞いて、雷ちゃんが青ざめる。何故なら偵察艦隊には由良がいたからだ。過去、第六駆逐隊の伝えた誤情報が原因で沈んだ由良が。

2014-06-18 23:01:28
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「由良――」 大丈夫だった?と震える声で雷ちゃんが由良に問いかけようとすると大破しているのに何故か自慢げな顔をした夕立が二人の間に割り込んできた。 「ゆらなら大丈夫!夕立がちゃんとゆら守って、ゆら狙った戦艦も夕立が沈めたっぽい!」 その言葉通り由良の制服や艤装には傷一つ無かった。

2014-06-18 23:08:42
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「そうよね、ゆら?ほめてほめて!」 「はいはい。守ってくれてありがと」 「えへへっ!」 由良に頭を撫でられて夕立が心地よさげに目を細める。その代わり夕立の艤装は見るも無残なことになっていたけれど、由良と一緒に出撃できたのが心底嬉しいのだろう。夕立は元気一杯だった。

2014-06-18 23:14:25
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由良の無事な様子を見て、雷ちゃんたちも胸を撫で下ろしている。由良は胸にひっついた夕立を抱きかかえながら、そんな雷ちゃんの頭も愛おしむように撫でていた。 「由良は夕立に『一緒に出撃するっぽい!』って半ば無理やり連れてこられてたからね。ま、とろい戦艦の連撃なんて大して怖くもないし」

2014-06-18 23:23:03
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川内は事もなげに言うけれど、仮にも戦艦の火力だ。そうそう油断できるものではない。雷ちゃんも同じことを考えていたらしく、その表情は晴れなかった。もしかしたら、敵戦艦の誤情報も、私たちがオリョールで負けたことも指揮を執る自分の責任だと思っているのかもしれない。

2014-06-18 23:32:49
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そんなに何もかも背負い込まなくていいのに、と言ってあげようと思った時、若葉がずいっと雷ちゃんに近づいた。心なしか、雷ちゃんの顔が赤くなった。 「雷は自分の指揮が失敗だと思っているのか?」 「え……う、うん。たぶん……」 しどろもどろになりながら答える雷ちゃんに若葉がうむと頷いた。

2014-06-18 23:37:37
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「確かに結果を見れば失敗かもしれんな。なにしろ大破が三隻だ」 「ちょっと、若葉姉さん!」 初霜ちゃんが慌てて若葉を押さえようとするけれど、それには構わず若葉が続ける。 「だが、失敗は誰だってする。大破した今の私のように。だが、大切なのはそこからどうするかではないのか?」

2014-06-18 23:43:16
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駆逐艦のなりには不釣り合いなほど胸を張って堂々と言い放った若葉に、思わずその場の全員があっけにとられた。 「ご、ごめんなさい!姉が失礼なことを!」 初霜ちゃんが見ていて可哀想なくらい恐縮しながらぺこぺこと頭を下げるけれど、当の若葉はまったく気にした風もないのがなんだか可笑しい。

2014-06-18 23:47:59
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「入渠しましょう、若葉姉さん!提督、ドックお借りしますね!」 「ああ、初霜を修復してもらわないとな」 「若葉姉さんが先です!」 初霜ちゃんが若葉の背中をぐいぐいと押しながら修復ドックへ向かう。その背中を、雷ちゃんがぽーっと見つめていた。その表情は、今はなんだか嬉しそうに見えた。

2014-06-18 23:53:49
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ちょっと悪戯心が出て、私は雷ちゃんにすすすと近寄って囁いた。 「ね、今度若葉に秘書艦やってもらえば?一日中二人っきりでいられるわよ?」 慌てるかと思ったけれど、雷ちゃんは意外にきっぱり答えた。 「だめよ、そんなの。初霜に悪いじゃない。それに、そういうズルいことはしたくないの」

2014-06-18 23:59:43
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その口調から、さすが私たちを指揮してこれまで戦い抜いてきただけあって、雷ちゃんなりに色々と考えているらしかったことを覚る。若葉たちの背中を見送る雷ちゃんの真剣な表情を見て、私はからかうようなことを言ってしまったことをひそかに恥じた。 「ちょっと、私たちも入渠していいよね?」

2014-06-19 00:05:10
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川内の声に、私と雷ちゃんがはっとなる。 「ええ、もちろん。ご苦労様。高速修復材を使っていいわ」 「アイ、アイ」 川内が由良と夕立、時雨を伴って歩き出す。さっきまではしゃいでいた夕立は、疲れが出たのか夕立にもたれかかるように眠りこけていた。その夕立を由良が背負い、時雨が頭を撫でる。

2014-06-19 00:12:27
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歩き出した川内が、何かを見とがめて立ち止まる。その視線の先には私の後を追ってきた青葉と加古がいた。静かだと思ったら、案の定加古はその場に胡坐をかいて居眠りをしている。川内がそれを指さして私に尋ねる。 「加古なんで中破してんの?」 「あ、任務のためにオリョール海に出撃して……」

2014-06-19 00:17:00