ラバウル少佐日誌:とある艦娘の過去と未来編其ノ伍

艦これ二次創作小説です。とある艦娘の過去捏造注意です。
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檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

(前回までのあらすじ: 静岡は熱海に住む姉妹と生き別れた少女、木乃曽実(きのかつみ)。彼女が姉妹の長女である球磨川主催の姉妹会に参加していた最中、突如海より異形の者達が現れ、街を襲い始める) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 22:10:56
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

(辛くも一人、無事に逃げきった木乃であったが、逃げ遅れた級友の高梨を助けに行き、再開した直後、再び異形に襲われる。 瓦礫の下敷きとなった高梨。 そして木乃の目は、その異形の右手に握られた養父を捉えていたのだ……) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 22:16:27
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

木乃は……、 遠のいてゆく意識に、全てを委ねてしまう事を、選択した。 目の前から聞こえる少女の悲鳴も、男の「起きろ」「逃げろ」という声も……。 全て、運命へ無駄な礫を投げつけているだけだ。(1) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 22:23:58
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

彼女はその場に倒れ伏す。 そして、己を覆う影を認識し、目を閉「うおおおおオ!」 声は女のモノだった。 直後「うっ……」木乃は誰かに抱きかかえられる。 「おい!無事か!?起きろ!」 ぼやけた視界が、戻ってゆく……。 「よかった……!」(2) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 22:31:15
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

視界に入ったのは、長い黒髪の女だ。 「……嫌、だ」 木乃は、彼女から視線を外し、その腕の中から抜け出そうと、もがく。 「もう、嫌だ……もう置いてけぼりは、嫌だ……嫌だああああア!」 木乃は、力無く泣き喚くと「あ、おい!」彼女の手を振りきった。(3) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 22:41:22
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「お願いだ!」 そして、上半身だけの巨人の目の前に立ち、「オレも、殺してくれ……姉さん達と、一緒に行かせてくれ!」泣き叫んだ直後、 「ぐあァッ!」 彼女は巨人の腕によって、煩わしげに薙ぎ払われた。(4) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 22:49:04
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「あ……あっああ……」 瓦礫の中で、奇跡的に五体満足であった木乃は、起き上がる。 右目の血と痛みが止まらない。 「ひっ……」 その『理由』が瓦礫の端に転がっているのを、彼女は認識する。(5) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 22:55:02
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「ウぅッ……!」「あ……」 その時。 先程まで巨人が右手にしていたモノが落ちてきた。 「父さん……父さん!」 右目の痛みも忘れ、木乃は襤褸きれのような姿となったソレへ駆け寄ろうとする。 だが「行くぞ!」「うあっ!?」彼女は、再び黒髪の女の腕に抱かれた。(6) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 23:01:12
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「嫌だ、やめろ」「甘えるな!」 女は、木乃を一喝し黙らせると、最早虫の息となった木乃の父親へ目を向ける。 「娘さんは、私が守り抜きます」 言葉に応じるように、無残な姿の男は顔を上げ、 唯微笑んだ。 そして傍らに転がっていた娘の身体の一部を、掴み取った。(7) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 23:08:28
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「……行くぞ」 見届けた木乃は、黙し、彼女の腕の中で、自分の命の無事を祈る事しか出来なかった。 残った左半分の視界には、うつ伏せに倒れて動かない父と、海へ降りて来ていた鉄塊の群れに食い荒らされ、悲鳴を上げ続ける高梨の様子が、暫し映し出されていた。(8) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 23:14:21
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

------木曾は静かに目を開けると、布団をどかし、起き上がる。 枕元の目覚まし時計は、4時42分を示している。 目覚ましを掛けた時間より、数時間は早い。(10) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 23:31:10
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

(何だって……あんな夢を今更) 部屋を出て、彼女は廊下を歩いてゆく。 悪夢の原因は分かっている。前日の、右目に義眼を付けた実験だ。 両目での戦いに慣れられず駆逐級一匹相手に大破の醜態を晒した彼女は、 怒りに身を任せて右目から強引に義眼を引き摺り出した。(11) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 23:33:11
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

その時の痛みが、木曾自身忘れようとしていた過去の痛みと、繋がったのだろう。 木曾は見当をつけると、ぼんやりと歩くのを止めた。 シャワーでも浴びて気分を改めよう。 そう、彼女は考えたのだ。(12) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 23:41:06
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

そして、木曾は風呂場へ向かって足を進め始めた。 「うッ……!?」 だが。 彼女の右目の視力が、頭痛と共に、突如回復する。 そして……ザリザリと、ノイズ掛かった視界が、映り始める。(13) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 23:46:10
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

『カツミ……曽実、聞こえるかい』 木曾を曽実と呼ぶ声は、中年の男のものだった。 木曾は、この声の主を知っていた。「……父さん?」『そうだ、父さんだよ、曽実』 木曾は、その返事に泣き崩れる。 「父さん……生きてたなら、今まで、何処行ってたんだよ!?」(14) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 23:52:21
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

『こら、曽実』 取り乱し声を荒げた木曾を、彼は静かに窘める。 『あまり大きな声を出すんじゃない』 「そうか……まだみんな、寝てるんだった」 木曾が落ち着いたのを察し、彼女の父は続ける。 『いいかい。お前の右目の視界の元に、来るんだ。父さんはそこにいる』(15) #ラバウル少佐日誌

2014-06-19 23:59:16
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「分かったよ、父さん」 何かに取り憑かれたようにゆるゆると立ち上がると、木曾は廊下を、 大浴場とは逆の、船渠の方へと歩いてゆく。 「父さん……」 『大丈夫だ、曽実。こっちには母さんもいるよ』 「……父さん」(16) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 00:04:18
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「やはり、現れたか」 病的な調子で歩き去る木曾の姿を、二人の男女が見ていた。 「誰もその男が絶命した瞬間を見ていない。そして男は艦娘の肉体の一部を持っている可能性がある……報告有難う、感謝しているよ」 「こうなる位であれば、あの時……」 「いや、長門」(18) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 00:18:41
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

長い黒髪の女を長門と呼んだ男は、ニタニタと笑んでいた。 「これで構わない。ブレインのデータは貴重だからな」「お前!」 長門は、男を……少佐を掴み上げ、睨む。 「アイツを囮に使うのか?木曾を水底へ沈めるつもりか!」 「場合によってはな」 「何……!?」(19) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 00:25:11
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「場合によっては、だ。基本的にその最悪の事態は避けたい」 少佐は言うと、ニタニタ笑いをやめた。 「……私は分からないよ。お前を信じてもいいのか、否か」 自身を降ろし、下を向く長門の問いを、 「くだらん」 少佐は鼻で笑い、彼女へ背を向ける。(20) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 00:32:25
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「悠長な矜持をのたまう位なら、お前も出撃の準備をしておけ。それから、球磨型の連中を起こしてくれ」 「……いいだろう」 静かな彼女の了承に、少佐は頷き、続ける。 「先ずは彼女達に、出来る限り頑張ってもらいたいんだ」(続く) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 00:37:45