ラバウル少佐日誌:とある艦娘の過去と未来編其ノ陸

艦これ二次創作小説です。とある艦娘の過去捏造注意です。
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檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

(前回までのあらすじ: 過去の忌まわしい記憶が悪夢として蘇った木曾。 その気分の悪さを洗い流そうと、彼女は浴場へ向かおうとした) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 12:13:47
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

(その時、彼女を本当の名で呼ぶ、聞き覚えのある男の声が届く。 死んだものと思っていた養父の声に咽び泣きながら、彼女は踵を返し、海へと足を進め始める……) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 12:17:51
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「父さん!」 木曾は右目の視界に映った自分の姿を頼りに、ようやく入り江まで辿り着いた。 「……父さん」 木曾の呼び掛けに、黒い詰襟の服を着た男が、振り返る。 ……血色は悪く、頬も痩せこけてはいるが、微笑むその顔は彼女の思い描いていた、そのままであった。(1) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 12:24:51
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「ごめんね、遅くなってしまっ」 男の言は、抱きついた木曾に、止められる。 「……本当に、長い間、待たせてしまった」 彼も、ぎこちなく木曾を抱き締め返す。 「母さんとは、もう仲直りしたの?」 「ああ……大丈夫だ、母さんも待ってる」 (2) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 12:30:10
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

曽実は、埋めていた顔を上げ、父の表情を覗く。 「帰ろう、父さん」 呼び掛けに、彼は優しく微笑んだ。 「ああ、そうだね。今度こそ、一緒に帰ろう。曽実」(3) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 12:35:32
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

木曾を抱き締める父の手が、ガクガクと痙攣したように震え始める。 「父さん……?父さん!?」 「大丈夫ダよ、かつみ。母サんガ待ッテルヨ、ヲ友達ダッた、高梨さンノ家ノ、ヲ嬢さン、モ」 「い、嫌だ……」 咄嗟に腕をすり抜け、数メートル離れた木曾は、振り返る。 (5) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 12:54:30
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「ドウシタンダイ? かつみ。大丈夫ダヨ、かつみハ艦娘ダカラ、直グニ、慣レラレルヨ」 彼女の父は、狂った電圧計の針のように、両手脚と首を、ガクガクと大きく痙攣させていた。 微笑みながら。 「あ、ア、アアアアア……」 怖気付いて、木曾は水面に座り込む。(6) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 12:59:13
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「かつみ……かつみ……」 「い、嫌だ!父さん、帰ろうよ!家へ!」 「ソウダヨ、ダカラヲイデ、かつみ。父サント一緒ニ……」 木曾は、目の前の現実が受け入れられない。 唯々、深海棲艦の『ブレイン』と化した父親の姿を前に、水面を這い、逃げ回る事しか出来ない。(7) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 13:06:21
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「かつみ……」 やがて逃げ続ける木曾に、ブレインは苛立った声を上げた。 「父サンノ言ウ事ガ、聞ケナイノカ……!」 「違う……お、お前は、お前なんか父さんじゃない!」 「現実ヲ見ナサイ、かつみ。サア、来ルンダ! 此処ニイテモ、ヲ前ハ苦シムダケダ!」 (8) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 13:13:42
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

怒りを露わにしたブレインは、機械音のような雄叫びを上げる。 「ひっ……」 慄く木曾。 そしてブレインの足下、水面下から姿を現したのは、巨大な艤装に下半身を埋めた深海棲艦……。 装甲空母鬼だ。 「ドウシテモ言ウ事ガ聞ケナイノナラ、父サン、少シ怒ルゾ……!」(9) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 13:19:57
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

ブレインは、目を緑色に光り輝かせ、装甲空母鬼の艤装に飛び乗る。 すかさず彼の脚へ装甲空母鬼は腕を絡めようとしたが、 「ヤメテクレ。僕ニハ妻モ娘モイル。何度モ言ッテイル筈ダ」 ブレインはその腕を蹴り退けた。 装甲空母鬼は少し不満げな様子で、木曾へ向き直る。(10)#ラバウル少佐日誌

2014-06-20 22:24:43
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「かつみ、父サンハヲ前ヲ傷ツケタク無イ。此ノあーまーどきゃりあーヲ嗾ケタナラ、ヲ前ハクズ鉄トミンチ肉ニナッテシマウ、ダカラ……」 「だから私達が、先にお前を沈めてあげる!」「大井姉さん!?」 二人に、先ずその声が届いた。 そして、 「グ、ヲヲヲヲヲッ!」(11)#ラバウル少佐日誌

2014-06-20 22:31:03
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

北上と合わせ、全80門の酸素魚雷が装甲空母鬼を襲う。 「と、父さ」「おい、木曾っち」 木曾は、北上の声に振り向き、 「うっ」 直後、彼女に思いきり頬を平手打たれた。 「目を覚ますんだ、木曾っち。あれはもう、木曾っちの養父さんじゃない」(12) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 22:41:11
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「随分酷イ事ヲシテクレルジャナイカ、曽実ノヲ姉サン達」 間髪入れず、ブレインと装甲空母鬼が爆煙の中から姿を現す。 「えっ……どうして!?」 全くの無傷で。 「ねえ大井っち、アレ」 北上が示した、装甲空母鬼の足下。 そこには、輸送ワ級の残骸が浮いていた。(13) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 22:46:33
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「成る程、『盾』もしっかり持ってきてたワケね」 大井は舌打ちし、木曾へ目を向ける。 木曾は、またも呆然とした表情で、今度はヘッドギアの取れた輸送ワ級の顔を見ていた。 「どうしたの!?そんなモノまじまじ見て、新米艦娘じゃあるまいし!」(14) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 22:52:19
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「ち、違う姉さん……あ、あれ、アレは……」 白目を剥き左右の瞳が別々の方へ向いた輸送ワ級の頭を見て、木曾はぽろぽろと涙を零し続ける。 「あれは、母、さん、だ……」 「何ですって……!?」 「嗚呼、折角上手ク調整出来タノニ」 ブレインは煩わしげにぼやき、(15)#ラバウル少佐日誌

2014-06-20 22:58:08
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「仕方ナイネエエエえエエえエえええエエエエエ!」 再び、咆える。(16) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 23:06:55
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「うひっ!?」 ブレインの喚び声に応え、先ず三人の前に姿を現したもの。 それは、戦艦レ級だ。 だが、 「……何だこいつ」「北上さん、怖いわ……」 そのレ級は口を溶接され、赤黒い液体を目から流し続け、全身をブルブルと揺らしていた。(17) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 23:13:18
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「その顔、見覚えあるクマね」 「遅いよアネキ」 遅れて到着したのは、球磨と多摩だ。 「タマの記憶に間違いがなければ、そのレ級は木曾が昔仲良くしてた、高梨さん家の子にゃ」 「成る程、熱海生まれの深海育ちオールスターってワケか。悪趣味だねえ、木曾っちの養父さん!」(18)

2014-06-20 23:26:07
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

「……済マナイ、本当ニ済マナイト思ッテイルヨ」 ブレインは、ぽつりぽつり話し始める。 「本当ナラ此処ニ、君達ノ御家族モ連レテ来タカッタンダケド……」 「化け物になってまで帰って来られても、こちとら鉛玉喰らわせてやるしか出来ないクマ。だから、それでよかっ」(19)#ラバウル少佐日誌

2014-06-20 23:35:23
檀富良(Dan Fuller) @NGWCTG

……球磨は、水平線の彼方へ、目を、凝らした。 「自我ヲ残シタママデ、帰ッテ来ル事ハ、叶ワナカッタ」 そして遠くから迫り来る、数千隻を越える深海棲艦の大艦隊を、認識した。 「この、ド腐れ外道めェ!」(続く) #ラバウル少佐日誌

2014-06-20 23:40:45