とある物書きの改稿（もしくは邂逅） ～作業環境メソッドの明文化～　#ラノベ

暇奈椿＠幼い女神はかく語りき2巻 発売中 @tubaki85

者を書き始めて14年、プロになってからは一年以上が過ぎたわけだけど、未だに自分のスタイルが安定しない。　 　――いや作風がどうとかいう話ではなくて、純粋に小説を書くという作業工程におけるメソッドの話。極論、メモ帳で書いちゃう先生もいるので要らぬこだわりと言えばそれまでですが……。

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最初の十何年つまり、執筆に費やしてきた時間のほとんどを、僕は一太郎で書いていました。印刷イメージ、書式は文庫の文字数行数に合わせ、つまり実際に印刷された状態をPC画面上に写して、一行一行、具合を確認しながら書いていたのである。 ――言うまでもなく、非効率を地で行くアホの所行だ。

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そこで僕は「プロット」というものをきちんと作ることを思いついた。登場人物、その信条、人格、彼らが持っている能力、暮らしている世界、起こる事件の背景とその影響。僕はパソコンから飛び出し、心を解き放ち、ノートにガシガシと書き殴り続けた。 ――そして設定厨になった(´・ω・｀)

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大量の設定に比して話はさっぱり進まない――その事実に気がつくのに僕が要した時間はわずか一年だった。……わずかなんだ。いいね？ さて設定厨から卒業した僕は大事なのは人間関係だと悟った。人間の葛藤、すなわちドラマ！　これぞモノガタリの本懐！　そしてこれを書くにはプロットが必要だった。

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「プロットの重要性」を再確認した僕は、しかし「設定厨」にならぬよう慎重にプロットを作り始めた。この時点での僕は自信があった。文章力自体はそこそこ見れたものが書けると自負していて、書棚で置いてあるアレコレのラノベを見ても自分の方がちゃんとした文章が書ける――と傲慢にも確信していた。

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話は多少ぶっ飛んでるくらいでもいい――でもここで文章をテキトーにせずにきちんと丁寧に細かく、たとえば文芸のようにあっさりとねちっこく描写していけば、それは僕の武器になるんじゃないかと、そんな風に――今にして思えば失笑モノのクッソ恥ずかしい勘違いをしまくっていた。

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ここで――そう、確か３本ほど。ネタは面白いと言われたのに最後まで書ききることに失敗した。しかもその内の一つ、ほぼ似通ったネタの作品が、出版された。 ――アカン(；´Д｀)　そう思い始めた。このままでは一生完成させられない――そう思った僕は、まず自分の文章を見つめ直すことにした。

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当時の文章は……まあ綺麗ににまとまってはいたが、言い回しが難しく、大学レベルの漢字を多用していた。そして必然性がなければ行を区切らなかった。つまり小難しい文が詰まって読みにくかったのである。 あと複雑な漢字にカタカナでルビをする中二病も発症していた（これは今でも発症している

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よく言って某SF文庫――そんな文章で萌えキャラ伝奇バトルを書こうとしていたのである。笑いのない注釈混じりの硬く重たい文章で、カワイイ女の子キャラが明るくギャグ混じりに男の子をｷｭﾝｷｭﾝさせながら締めるところは締めてスピーディーに決着する話を書こうとしていた。 ――馬鹿だった。

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そこに至ってようやく僕は、「小説に求められる文章力とライトノベルに求められる文章力は違う」という事実を認識した。――ぶっちゃけかなりショックだった。十年近くやってた物書き修行の大部分が無意味――と言っては言い過ぎだがメインウェポンではなくサブウェポンで……しかも重しになっている。

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ここ数年の物書き修行はその矯正に費やしたと言ってもよい。より平易な言葉でわかりやすく。画面が詰まらないよう行間を多用するメソッドを構築する。キャラの行動を意識し――「AのところにBがやってくる」と言った僅かなシーンにも妥協せずにコミカルなワンシーンを突っ込み――そして削る。

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往時に比べればだいぶマシになったと思うのだが、相方に言わせると「まだ説明過多」らしいので、未だ修行の余地アリである。 ああ、そして無論、この”文章力”とは道具の話であって――何をどう捌くかはまた違う問題点があるのだ。

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あれは……クロプラの一巻の原稿を書いていた頃か。渡されたのは相方の書きかけの原稿で、しかもマリーは「好きに買いてくれ」とのコトだったので、プロット上ではそこ数行の指定があるばかり。会議シーン怒鳴りこみシーンなどは存在すらなく……それらをゆっくり練って書いている時間はなかった。

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序盤はまだ指定の密度も高く、前後の展開から推測できた。会議シーン怒鳴りこみシーンもどうにかノリで書ききることができた。――が、問題は４章である。残っているのはすでに似ても似つかないキャラになったナオトとマリーが時計塔で出会うところ――辻褄を合わせるにはプロットを変えるしかなかった

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――ぶっちゃけすでに最初の締め切りラインを超えていた。ここから丁寧にプロットを練り直す暇はなかった。すぐにも台詞を書きださなければならない――焦った脳みそで僕はその判断に従った。ざっくりしたストーリーラインだけを組み、残りは台詞と最小限の地で回した――いわゆる、「下書き」である。

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これは僕の中で静かな革命だった。もしくは界王拳三倍だった。いつもだったら完成させる一週間はかかるだろうシーンが次から次へと、一日足らずで生産されていったのだ。 一気に書きだされた乱文を、僕は１シーンずつ楽々と整えていき――そして原稿が完成した。

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原稿が終わった後も、僕も感動に打ち震えていた。久々の完結作だから――ではない。最後に開眼したこのワザ「下書き」――これさえあれば他の積んだまま腐らせているネタの数々も作品にできる。たまったネタをゴリゴリガリガリと書き上げることができる――そんな確信と希望を抱いていたからだ。

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そして僕は感動の冷めないまま、相方に言った「ちょっと聞いてくれ、４章で書き方変えたんだけどこれめちゃスゲーんよ！」 僕の言葉に、彼は言った。 榎「………………なあ、それ、下書きって――今までやってなかったのか？」 「……アッハイ(´・ω・｀)」

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榎「あんさ、お前も絵とか3D書くやん」 アッハイ。 榎「じゃあ当然、アタリ取るよな？　3Dでもラフい設計図書くよな？」 アッハイ。 榎「うんうん……でなんで小説で下書き書こうとしなかったの応用力ないのそんな理由で締め切りぶっちぎったの？」 ――スミマセンでしたッ！(´・ω・｀)

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冷静に指摘されるとその通りだが、当時の僕はマジで気付かなかった。あるいは気づいていたかもしれないが、やり方がわかっていなかった。――そして一番悲しいのはこの「下書き」が締め切りに追い詰められた精神が繰り出した隠れ必殺技で、僕のパッシブスキルとして習得したわけではなかったことだ。

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この時の勘違い、ゲージ必殺技とパッシブスキルとの勘違いが、つまりクロプラ２巻の原稿遅れにつながったわけで――その節にお待たせした読者様方にはマジ申し訳ございません。 まあそういうわけで、ここ半年はこの「下書き」を平時の精神でいかにスムーズに行うかの試行錯誤に費やしてました。

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で、ノートに書いたり、場所変えたり――でもイマイチ乗らない。そもそも文章を乱雑にしたまま次の文章を書くという行為が気に障る。１０何年間やってきた書き方の弊害がここに出ているわけです。それでも試行錯誤してると、適当に行数開けながら横書きしている分にはあまり気にならなくなりました。

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というわけでツール探しです。他の作家さんのアンケート観ながらTerePad、秀丸、紙Copitとテキストエディタやらアウトラインプロセッサやらを試しつつ、まあ悪くはない……とビミョーな感じでした。どれも本当のところしっくりこない。そうして迷った末に僕が最終的にたどり着いたのは――

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一太郎でした。最初に戻ってきたわけです。オォ……僕はもうキミを離さない――――！ としょーもないボケはさておいて、マジな話、ドラフト編集＞アウトラインを選んで、あれこれカスタマイズすると……ほぼ理想的な画面に！ pic.twitter.com/AALrMX8WgZ

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字数行数制限のない雑なエディタ、でもルビ打ち機能健在、辞書連携機能あり、右下の小窓で縦書バージョンのプレビューも可能！　右上はなんかよくわからないけど！ というわけでこの画面ならラフに雑にガリガリゴリゴリ書けるように。