孔雀荘へようこそ

十浦　圭 @ueto_rika

「今年も駄目だった…」「え？」きょとんとした悟を、青の目が見降ろした。「もうずっとだ、何度繰り返しても彼女は帰ってこない、この街に」「え、え、シズクさん誰か待ってるんですか！？」驚いて悟は言った。風船は室内に上げていたのだろうか、気が付かなかった。　#空想の街　#孔雀荘へようこそ

十浦　圭 @ueto_rika

「ああ、君が思うよりずっと昔から、待ってるんだ」茫洋とした瞳が逸れ、遠くを見た。「ずっと昔って、」「もう割った風船は１００を超えた」「ひゃく！？」ぎょっとして悟は叫ぶ。人間の姿のまま、しれっと言い放った彼はやはり人間ではないのだろうか。　#空想の街　#孔雀荘へようこそ

十浦　圭 @ueto_rika

「シズクさん、妖怪なんですか？」おそるおそる聞いた悟にシズクは微かに笑んだ。「人間だった」「だった？」「ああ、俺は、」人魚の肉を食べたんだ。雨音に紛れて低い声が囁いた。　#空想の街　#孔雀荘へようこそ

十浦　圭 @ueto_rika

ぞわりと皮膚が総毛立つのを悟は感じた。雨のせいか離れの庭はじわじわと暗くなってきていて、見上げる男の顔はよく見えなかった。不老、ずっと待っている、でも来ない。会話の断片がくるくると悟の脳内を回る。じり、と右足が自然に後ずさった。　#空想の街　#孔雀荘へようこそ

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「シズクさんが待ってるのって」「ああ、俺が、食べた、彼女を、でももうきっと無理なんだろうな、俺は彼女をあいしていたのに。ずっとずっと一緒にいたかったのに。俺は病気で、彼女は泣いて、それで、彼女が俺を騙して、俺は、もうずっと」　#空想の街　#孔雀荘へようこそ

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ぷつり、と声が途絶えて、後にはさあああと涙雨の音が残っていた。悟は無性に悲しくて、でも何も言えなかった。「悪魔を食べたものは、悪魔になるんだぜ」ぽつりとシズクが言った。　#空想の街　#孔雀荘へようこそ

十浦　圭 @ueto_rika

風邪をひくよ、と言われて悟は室内へ戻った。怒った顔をした六尾姉は、悟の顔を見てすぐに部屋に戻してくれた。ぼふんと布団に突っ伏して悟はうー、と唸った。ふと思いついて窓から覗くと、離れの人影はまだ立ち尽くしていた。　#空想の街　#孔雀荘へようこそ

十浦　圭 @ueto_rika

妖怪の悟には不老の怖さが分からない。さよならはすごく悲しいけど、それは相手が人間だからしょうがないことだ。氷涼祭に会えるのはラッキーだと思うし、会えなければ仕方がないと思う。でも、彼は違うんだろう。心を読めない八尾比丘尼の、元人間の彼は。　#空想の街　#孔雀荘へようこそ

空想の街公式アカウント @humptyhumtpy

街は夢の中へ、夢はあなたの中へ、あなたは街の中へ。時計塔の街での３日間、本当にありがとうございました。