#迷夢 #空想の街 まとめ

#空想の街 (http://www4.atwiki.jp/fancytwon )企画の[氷涼祭](http://www4.atwiki.jp/fancytwon/pages/15.html )にて展開させていただいた物語、『迷夢』のまとめです。時系列順にまとめています。 ★ネタバレなんて怖くないわ!設定だけ寄越せよ!って方は後書き諸々をオススメしておきます。(http://togetter.com/li/690007 ) ★ツイキャスにて一日目の朗読を公開中です! <new!!>(http://twitcasting.tv/chabashira_okki/movie/80079095 ) 主な登場人物: 続きを読む
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一日目

西の森の歌声

春が待ち遠しい @chabashira_okki

もやっとした要求仕様と中途半端な設計書を突き合わせ、妄想力を頼りにコーディングを進めてゆく。オリジナリティ溢れる構成図に頭を悩ませ、UMLの手法で描き替え。集中力が途切れてきたところで、ふと窓の外を見た。鴉。それも真っ白い鴉の群れが、朝靄に浮かび上がった。 #空想の街 #迷夢

2014-07-04 12:21:13
春が待ち遠しい @chabashira_okki

「あ? ……朝か?」 思わず独り言ちてしまう程度の衝撃を俺は受けていた。職場で朝を迎えるなんざ日常茶飯事だが、今回はいつもと違う。何がそう思わせるのか分からない。俺はふらりとした足取りでデスクを離れた――筈だった。そこにはデスクも、PCも、設計書も、無かった。 #迷夢 #空想の街

2014-07-04 12:26:30
春が待ち遠しい @chabashira_okki

只事ではないと本能が告げた。俺は無意識に胸ポケットへ手を遣り、デバイスのディスプレイをONにする。朝靄に掻き乱される視界の中、小さなディスプレイに映し出されたのは、デジタル時計でも電波メーターでもなく、「ようこそ」の四文字だった。 #迷夢 #空想の街

2014-07-04 19:14:29
春が待ち遠しい @chabashira_okki

きっと夢だ。直感的にそう思った。漫画のように頬を抓り、少し遅れて鈍く痛むのを摩る。白い渡り鳥たちは俺を待つかの如く、眼前の少し先で輪になり優雅に飛んでいた。疲れた頭を左右に振る。目覚めたらデスクの前だ、きっと。無理矢理に自分を納得させ、俺は足を踏み出した。 #迷夢 #空想の街

2014-07-04 19:19:53
春が待ち遠しい @chabashira_okki

朝靄と共に視界が開けてきた。渡り鳥たちを天高くへ見送り、俺は改めて己の置かれている状況を振り返る。手持ちは頼りにならないデバイスと、そこから伸びるイヤホン。尻ポケットに薄っぺらの財布。胸ポケットを漁れば、百円ライターとくしゃくしゃのアメスピが出てきた。 #迷夢 #空想の街

2014-07-04 21:18:38
春が待ち遠しい @chabashira_okki

視線を上げると、いつの間にか空は鬱蒼と茂る緑のカーテンだった。方角も、時間すらはっきりとしない。手許のディスプレイは相変わらずで、ホームボタンを連打しても無駄だった。落ち着く為にアメスピを咥え、手癖だけで火を点ける。そのとき、俺は微かに歌声を聞いた気がした。 #迷夢 #空想の街

2014-07-04 21:36:01
春が待ち遠しい @chabashira_okki

助かった。人がいるかもしれない。俺は既に身を包むこの異様さに気付いていた。夢にしては厭にリアルだ。障害対応と喧嘩会議で否が応でも鍛えさせられた度胸はあれど、非現実が現実に迫ってくる感覚に耐え得るなど不可能に近い。煙草を捨て、藁にも縋る思いで歌声のする方へ走る。#迷夢 #空想の街

2014-07-04 21:48:30
春が待ち遠しい @chabashira_okki

聴いたことのない歌だった。メロディだけが、真っ黒に塗り潰された視界に木霊している。右か、左か。声の主を探して一心不乱に走る、走る。立ち止まろうなどという考えは無かった。振り返りでもすればこの森に飲み込まれてしまう。そんな強迫観念が、俺の頭を支配していた。 #迷夢 #空想の街

2014-07-04 22:27:20
春が待ち遠しい @chabashira_okki

不意に開けた場所に出た。五感を研ぎ澄ませ、人の気配を探す。確かにここから聞こえる。心細さに声を挙げそうになりながら、一歩、一歩、耳を頼りに地を踏みしめる。そこで俺は気付いてしまった。歌声は、この木々が発していたのだ。もう、限界だった。俺は脱力し、意識を手離した。#迷夢 #空想の街

2014-07-04 23:51:09

一ツ目の巨人

春が待ち遠しい @chabashira_okki

ぽかりと浮かぶ。目の前で揺れる。その物体の名称は、懐かしさで詰まる胸に堰き止められてしまった。 「おう坊主、目ェ覚ましたかね」 軋む身体を捩り、声の主へ顔を向ける。途端、俺は叫んだ。つられて奴も叫ぶ。そこにいたのは一ツ目の巨人。俺はまだ、夢を見ているらしい。 #迷夢 #空想の街

2014-07-05 01:03:44
春が待ち遠しい @chabashira_okki

ずんぐりとした巨体を揺さぶり、派手な音を立てて部屋中をめちゃくちゃに掻き回す。ひっ、ひっ、と短い呼吸をした後で、一ツ目は漸く落ち着きを取り戻した。怖さ余っていっそ冷静になってしまった俺をちらちらと伺い、「脅かすなよォ」と呟く。お前が言うな。 #迷夢 #空想の街

2014-07-05 01:20:37
春が待ち遠しい @chabashira_okki

窓の外に揺れる風船を目で追う。地上約40m。眼下には森が広がっている。目を覚ましたばかりの俺を差し置いて、この中途半端にお人好しな巨人は部屋の片付けを始めた。巨人の部屋とはいえ、かなり狭い。御伽噺で見るような淡黄色の壁には、大小様々の時計が掛けてあった。 #迷夢 #空想の街

2014-07-05 01:44:51
春が待ち遠しい @chabashira_okki

来客用であろう、奴にしては小さなティーカップを器用にも指先で摘む。 「森ン中で寝てたもんだからよ」 紅茶を勧めながら、一ツ目は俺をこの部屋に連れてきた経緯を語った。それによれば、今夜は死者たちがこの街へ来訪するという。 「バケモンに喰われちまう」 お前が言うな。#迷夢 #空想の街

2014-07-05 01:54:36
春が待ち遠しい @chabashira_okki

アリスはこんな気分だったのだろうか。夜風以外は時計の音しかしないこの部屋で、俺は幼いころ妹と一緒に読んだ絵本を思い出していた。酩酊したような気分で、物事の善し悪しも判らず、唯々はちゃめちゃな展開に身を任せる。軈て己の無力さや望郷の念すら意識に上らなくなるのだ。#迷夢 #空想の街

2014-07-05 02:14:54
春が待ち遠しい @chabashira_okki

いいや。俺は頭を振る。帰る為に、生きる為に何をすべきか。焦りに掻き立てられた本能の赴くがまま、目の前に転がるフラグを取捨選択してゆく。ポケットに突っ込んだデバイスをこっそり見遣るが、今度は液晶が真っ暗で、電源が入る気配も無い。固定電話はこの部屋に無さそうだった。#迷夢 #空想の街

2014-07-05 02:26:59
春が待ち遠しい @chabashira_okki

どうにもここは俺のいた次元とは異なる世界のようだから、土地の人間に訊くのが最良の判断だろう。兎にも角にも話を進めるには個体を明確に定義せねばなるまい。技術屋の癖だ。 「あんた、名は」 「アーティって呼ばれてるさ。坊主は――」 俺は自分の名が、思い出せなかった。 #迷夢 #空想の街

2014-07-05 02:31:30
春が待ち遠しい @chabashira_okki

妹は。母親は。職場の名前、場所、通勤ルート、降車駅、馴染みの店、故郷、その全てが、思い出せない。自分自身を定義する単語がなにひとつ出てこないのだ。 「坊主、まさか――」 アーティの言葉は続けられる事なく、躊躇うように口を噤んでしまった。俺に一体、何があった。#迷夢 #空想の街

2014-07-05 02:43:26
春が待ち遠しい @chabashira_okki

「何故黙った。何か知っているのか」 「し、知らねえよ……兎に角、坊主、思い出せねんだな。なに、疲れてんだ、暫く休んだら良くなるさ。明日は祭でよォ、連れてってやるから、もう寝るといい」 唐突に饒舌になったアーティを問い詰めたくもあったが、疲労困憊は事実だった。 #迷夢 #空想の街

2014-07-05 02:55:40
春が待ち遠しい @chabashira_okki

納期まであと二日。それだけは明確に覚えていることに気付く。休日返上は当たり前だ。自分が社畜と呼ばれる類の人間であろうことは実感が持てた。アーティが用意してくれた、ふかふかと音のしそうな布団の中、納期に対する焦りが募る。これは神様とやらがくれた休暇なのだろうか。 #迷夢 #空想の街

2014-07-05 03:05:18

二日目

御伽噺と死装束

春が待ち遠しい @chabashira_okki

寝過ごした。日は既にかなり高くまで昇っている。完全に遅刻だ。俺は一目散に飛び起き、自分がスラックスとワイシャツ姿なのを確認し、いつもの流れで右手を伸ばし、振り回し――ジャケットが無い。視線を傾け、右手の先にある筈のコート掛けを探す。 「おはようさん、坊主」 #迷夢 #空想の街

2014-07-05 10:47:23
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