空想の街 黒山春樹の氷涼祭

twitterでの創作企画、空想の街に参加した時の作品です。
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九夜月 @kuyaduki1006

「こちらこそきついことを言って申し訳ない。お詫びと言ってはなんだが」影銘は紙を取りだし、今度は【守】と書くと二人に一枚ずつ手渡した。「御守りに。一度なら災いを代わりに受けてくれる」役にはたたないだろうが、気持ちだ。 @hrsrh_a #空想の街 #文字屋言の葉 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 18:18:28
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「お礼だなんて」慌てたものの、真摯な表情を見ると断った方が失礼になるかもしれない。「ありがとう」紙を握って微笑んだ彼女の横で、僕も小さく微笑んだ。「ありがとうございました」 @sui_haku #空想の街 #文字屋言の葉 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 18:32:42
九夜月 @kuyaduki1006

「じゃあ」色々と嫌な思いをさせてしまったかもしれない後ろめたさか、影銘はそっけなく呟いて頭を下げるとその場を去った。店に来たわけではないのだから優しい言葉を言えば良かったと思う。 @hrsrh_a #空想の街 #文字屋言の葉 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 19:16:29
九夜月 @kuyaduki1006

だが、何かを禁じてもそれは意味がないのだと、昔言われた事があった。今でもそれが胸に刺さっているから、禁じることはしない。もうかすれかけた記憶の中で、彼女が笑んでいた。 @hrsrh_a #空想の街 #文字屋言の葉 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 19:19:25
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

アナウンスをじっと聞く彼女の指が、とんとん、と僕の手の甲を叩く。「なに?」「なんでも」「なんだそれ」「なんでもないわよう」右手には白鴉、左手には夜空の風船と、僕の手。見上げた空は晴れている。もうすぐ、氷涼祭の終わりだ。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 15:35:10
chi-suke @ChiKomiya

籠屋は時計台に辿りついた。今日もこの広場は賑やかで、風船を持った人々があちらこちらと行きかっている。少しなら稼ぎも上がるかな、と籠屋は腰を下ろして荷を広げる。「さーて、鳥籠はいかがですかーい?」白鴉が帰る頃には、また人が集まってくる筈だ。 #空想の街 #籠屋

2014-07-06 15:15:39
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

ぶらぶら流れていた視線に、ふと何かを売る男の姿が入った。「何屋だろう?」呟いた僕の手を引きながら彼女が小さく歌う。「かーごやー」なるほど。目の前に立って、彼女は籠屋の男に笑いかけた。「こんにちは」 @ChiKomiya #空想の街 #籠屋

2014-07-06 15:37:29
chi-suke @ChiKomiya

@hrsrh_a 「お、これはこれはお揃いで、何をお探しです?」何ともこちらが面映ゆくなるようなお二人さん。「鳥籠もあるけど、装飾品なら首飾り、簪、根付……何にするかい?」ずらりとならんだ荷物を示して籠屋は笑う。 #空想の街 #籠屋

2014-07-06 16:05:33
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「あ、この籠可愛い」しゃがんで見分する彼女の隣で、少し考え込む。首飾りもあるのか…。「籠屋さん、ちょっと」手招いて、彼女に聞こえないようにひそひそと言う。「不躾とは思うんですけど…首飾りの鎖だけ、売って貰えませんか」 @ChiKomiya #空想の街 #籠屋 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 16:10:44
chi-suke @ChiKomiya

@hrsrh_a 「鎖……だけ?」確かに商っている首飾りの鎖は細い金鎖銀鎖のものもあるけれど。「んじゃ、この鳥籠をこうして鎖の端につないどいてやるから、これでどうかな」と小指の爪の先ほどの小さな鳥籠をかちりと繋ぐ。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭 #籠屋

2014-07-06 16:16:08
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

小さな鳥籠に繋いだ鎖を見せられて、ほっと肩の力を抜いた。「ありがとうございます。それ、買います」「はる、その籠買うの?」かけられた声にぎくりと動きを止める。「ん、お土産?」「なあにそれ」視線をよけながらお代を払った。 @ChiKomiya #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭 #籠屋

2014-07-06 16:26:30
chi-suke @ChiKomiya

@hrsrh_a 「はいはい、それでは」籠屋は両手をすり合わせる。「……あじゃらもくれん、てげれっつのぱあ!はい、お二人さんのいい思い出が、この籠の中に残りますよう」何かきまりの悪そうな青年に鎖を渡す。何に使うかは、聞かないでおいた。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭 #籠屋

2014-07-06 16:32:13
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「あじゃらもくれん!」「ほら、行こう」くすくす笑う彼女を引っ張って、最後に籠屋に目礼してからその場を離れる。「ありがとうー!」ひらひらっと背の後ろで彼女が籠屋へと手を振った。 @ChiKomiya #空想の街 #籠屋 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 16:40:30
chi-suke @ChiKomiya

@hrsrh_a ひらひらと手を振って二人を見送る。ふとどちらかが死者なのだろうな、と思いながらそれ以上考えるのを止めた。それを追求するのは無粋だ。籠屋は腰の煙管と煙草入れを取り出す。火を付けて吸いつけて、ぽかりと煙を吐き出した。 #空想の街 #籠屋 #黒山春樹の氷涼祭 #籠屋

2014-07-06 16:55:15
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

昼間に比べて、時計塔広場には随分人が増えていた。がやがやとざわめく人の波をベンチに座って眺める。ふう、と息を吐いた。隣の彼女は黙ったままだった。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 16:56:51
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

ぎゅっと手を握って気合いを入れる。「…よし」呟いた僕を彼女が不思議そうに見る。「どうしたの」「ちょっと目つぶって」「え?」「いいから」眉を吊り上げながらも、彼女は大人しく目を閉じた。その隙に。鞄の中から包みを取り出す。一つは先ほどの籠。もう一つは。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 16:58:43
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

時計の針が迫る。17時に重なる。一斉に人々の手から風船が解き放たれ、ぱっと目を開いた彼女は、手の中のそれに「え、」と声を上げた。鎖の先の籠と、小さな銀鈴草の鈴。「去年のお詫びと、今年のお礼」囁けば、くしゃりと顔が歪んで。「馬鹿じゃないの」 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 17:03:14
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

空に風船が次々と舞う。僕らの手からも、するりと夜空の風船が飛んだ。「ごめん」泣きそうな顔で彼女が囁いた。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 17:04:38
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「この行事が本当に正しいのか。一年に一度しか会えない私が、生きてるはるを縛ってないのか。私がいなければ、この行事がなければ、はるはまた別の人が出会ってたかもしれないって、私はそう思うの。このお祭りは間違っているのかもしれないって」 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 17:05:53
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「でもごめんね」ほろりと彼女の目から透明の滴が落ちた。僕の目からも落ちた。「好きよ。はるが呼ばなくなるまで、私は絶対この街に帰ってくる」透けた手のひらで、洋子は僕の涙をぬぐった。「ばいばい、はる」白鴉の風船がゆっくりとベンチに落ちて、洋子は消えた。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 17:07:52
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「馬鹿は、どっちだよ」落ちた風船を拾い上げて、呟く。湿っぽいのが苦手だと言った彼女の涙の水滴はまだベンチに残っていて。残された白鴉の風船、残らなかった、彼女が持っていった銀鈴のネックレス。空へ登る風船に背を向けて、僕は俯いて少し泣いた。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-06 17:19:12
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