空想の街 黒山春樹の氷涼祭

twitterでの創作企画、空想の街に参加した時の作品です。
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7月4日

ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「氷涼祭、か」昼前のアナウンスを思い出しながら、クローゼットを開ける。用意していた橙のマントをばさり、と引っ張り出した。「やっぱり派手だなあ」見るたびに苦笑してしまうけど。それでも、彼女を迎えるのならこのマントでなくちゃ。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-04 14:37:07
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「久しぶり」「おう」軽く手を振った僕に、彼は鷹揚に答えた。「相変わらず偉そうだなあ」「頼みごとする立場の癖に、そんな口きいていいのか」「ごめんごめん」軽く言えば、大学時代からちっとも変わらない彼、高坂隼人は肩をすくめてみせた。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-04 18:53:17
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「で、場所はどこって言ったっけ」「森の入り口だ」待ち合わせの時計塔広場から、西区へ向かって二人でのんびりと歩く。「頼んでおいてなんだけど、君が素直に応じてくれるとは思わなかった」分かりにくいようで分かりやすい友人は、素直でいて捻くれている。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-04 18:56:30
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「春樹が泣きついてくるなんて珍しいからな」恩を売っておいて損はない、なんて嘯く彼に小さく笑う。「泣きついてはないけど、お礼は言っとく。どうしても彼女に渡したかったからさ」 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-04 18:58:01
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

夕方の空がすっかり暗くなる頃に、僕らは森の入り口へと辿り着いた。暗闇はなんだか寒くて、少し肩が震える。隣で歩く隼人は涼しい顔をしていて、少し悔しくなる。「あそこだ」長い指がある一角を指した。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-04 18:59:58
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

森の中、うっそうと茂る草の中に、銀色に輝く小さな鈴のような花が、一輪、二輪。「これが…」「そう。ご所望の銀鈴草だぜ」 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-04 19:01:19
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

しゃがんでそっと摘み取ると、小さな花がふるふると震えた。「きれいだ」「おう」膝についた土を払って立ち上がる。「一輪でいいのか?」怪訝そうな隼人に頷いて、僕らは再び来た道を引き返し始めた。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-04 19:03:09
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

銀鈴草。その小さな花は茎から分離して、一晩、夏の夜風と月光にさらすことで、花びらと花芯がまるで金属のようになり、鈴のように鳴るのだそうだ。何気なく手に取った図鑑の写真を見た時に、咄嗟に彼女の顔が浮かんだ時点で、僕はもう逃げられなかったのだろう。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-04 19:05:21
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

去年の氷涼祭、臆病風に吹かれた僕は彼女を、大事な人を迎えることが出来なかった。今年はちゃんと会って、去年のことを謝って。そうして、何か小さなものをお詫びとして贈ったら彼女は喜ぶだろうか。変わった物が好きだった彼女は、この鈴の花を見て笑うだろうか。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-04 19:06:59

7月5日

ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「いい天気だなあ」紺のかすりの浴衣に、夕日色のマント。すれ違う人がちらっと僕を見るのを、気づかなかったふりをして。僕はゆっくりと駅へ向かった。ゆっくりしているのは足取りだけで、本当は緊張していること、彼女に会ったらばれてしまうだろうか。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-05 10:27:45
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

恐らく、彼女が帰って来るならここなのだろうと思っていた。大きくも小さくもない駅。木製のそれはどこかあたたかい気がして。ガタンゴトン、と音をたてて電車が滑り込んでくる。わらわらと出てくる人の波に、一際鮮やかなオレンジの浴衣。「…おかえり」「ただいま」 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-05 10:44:51
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「この街は変わらないわね」目を細めて言うセリフに覚えがあって、僕は思わず噴き出した。「なによ」「それ、前のフェスティバルの時も言ってただろ」「…悪い?」「別に」くすくす笑う僕の肩を洋子が叩く。「いたっ」 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-05 10:54:11
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「どこに行こうか」「私の知らない、素敵なところ」「無茶言うなあ」苦笑して、下げていた鞄からあるものを取り出す。「なあに、それ」手渡すと、彼女は怪訝そうな顔をした。「タウン誌。街のお勧めとかが載ってるんだよ」「素敵!」 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭 #青鳥書林

2014-07-05 10:59:04
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「そうね、まず風船かな」僕が持つ藍色の風船を見て彼女は両手を大きく揺らした。「中央区行く?」「うーん、それもいいけど」きょろ、と辺りを見回して、ふと彼女が足を止める。「あれとか」大きなリヤカーの張り紙を指差した。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭 #街商 @rullino_s

2014-07-05 11:12:46
すなお@創作 @rullino_s

タイヤをごろごろ鳴らしながら歩く。街の人々の装いは一段と華やかだ。その中でふっと、鮮やかに目を惹く二人組が視界の端に入った。オレンジの浴衣と、オレンジのマント。立ち止まって「何かお探しで?」とこちらを見る二人に声を掛けた。 @hrsrh_a #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭 #街商

2014-07-05 11:20:45
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

こちらを向いた店主らしき男性に、洋子はたたっと駆け寄った。「これ、お願いできますか?白鴉で!」張り紙を指してはしゃぐ彼女に僕も歩き寄った。…ぶんぶん振られた尻尾が見える気がする。 #空想の街 #街商 #黒山春樹の氷涼祭 @rullino_s

2014-07-05 11:27:02
すなお@創作 @rullino_s

「なるほど、白鴉かぁ…」以外に無い注文だったな、と思いつつ白い風船を手に取る。 止まり木に見立てた持ち手もぐるりとつけて、嬉しそうに見守る女性に渡してから、「はい、兄さんにも」 @hrsrh_a #空想の街 #街商 #黒山春樹の氷涼祭 pic.twitter.com/VxVcmePi7B

2014-07-05 12:09:46
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ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

無骨な手がくるくると風船を作るのを、彼女はわくわくと見つめていた。と、2つ出来たうちの一つを僕にも渡してくれる。「あ、ありがとうございます」2羽の白鴉を慌てて受け取る。「すごい、器用ねえ」彼女が感心した声をあげた。 #空想の街 #街商 #黒山春樹の氷涼祭 @rullino_s

2014-07-05 12:13:32
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

すっかりご機嫌になった彼女と通りを歩く。「これからどうする?」「んー」ちろり、と流し目が僕を撫でて「おなかすかない?」「もうお昼か。どこか入る?」「そうね」 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-05 11:52:17
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

厳選なる審議の結果、中央区のCafe32でランチを食べることになった。少し距離があるから、ということでマルケーを利用する。「マルケーも久しぶり」隣で電車内を眺めながら彼女が嬉しそうに言う。「僕も久しぶりだ」「住民なのに?」「普段は歩きが多いんだよ」 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-05 12:17:24
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「私・イン・中央区!」「なんだそれ」「時計塔、少し背が伸びた?」「伸びる訳あるか」随分テンションの高い彼女の背中を苦笑して追いかける。「そっちじゃないって」手を掴めば、少しひんやりとしていて。ぎゅ、と力を込めた。 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-05 12:35:51
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

これまた久しぶりのCafe32で、夏らしいパスタのランチを食べる。キノコとじゃこのパスタ、夏野菜のペペロンチーノ。「ねえ、一口ちょうだい」「あ、」「はい、一口あげる」「せめて返事を聞いてから取れよな…あ、旨い」「でしょう」「なんで君が自慢するの」 #空想の街 #黒山春樹の氷涼祭

2014-07-05 12:43:54
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

Cafe32を出て、ふと同時に僕らは一人の人に気が付いた。和装ばかりの人混みの中でぽつんと帽子を被って立っている。透明な風船と雰囲気からして、何か仕事屋だろうか。「こんにちは」ひょい、と覗き込むようにして彼女が声をかけた。 #空想の街 #色売り #黒山春樹の氷涼祭 @hmoegi

2014-07-05 13:04:20
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