#空想の街 【氷涼祭】 #たまご屋 #たまご屋not　まとめ

空想の街公式アカウント @humptyhumtpy

白鴉が街の海岸にわたりはじめました。海の方を見れば、雲の下に白い鳥の影が見えるはずです。白鴉は神聖なものとして言い伝えられています。くれぐれも、害を与えることのないように気を付けて。（情報窓口:佐々木類）　#空想の街

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今年もワタリが終わり、氷涼祭が始まりました。風船の準備はできましたか？明日は一日晴れ、夕方に銀氷が降る予定です。銀氷で濡れることはないですが、空を飛ぶ方は気を付けてくださいね。（情報窓口：堂坂みかこ）　#空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

「ふーせん！」 「ふーせん！」 「こら、よぞら、たんぽぽ。走り回らないのー」 二羽のニワトリが足元ではしゃぐ。ぷっくりと膨らんだ五つの風船は、天井でふわふわ漂って。そのうちの一つを掴まえて、私はうんうんと頷いた。 #たまご屋 #空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

「よしよし。いい感じじゃない？んふふ、可愛いたまご形！」 風船をつんつん、と突つけば、ぽよんぽよんと逃げる。細い糸を結んで、踏み台に乗って、それから店の玄関口に引っかける。踊るように踏み台から降りようとしたとき、視界の端に入ってきたのは、夜明け色のオレンジ。#たまご屋 #空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

「やっほー！つっきー」 「…おう」 「………あら？」 「つっきーって誰だよ！」と突っ込んでくれると思っていた私は、見事に肩透かし。一体どうしてしまったのか、ザ・上の空…いや、この場合ジ・上の空？え？どっちでもいい？とにかく、あかつきはそういった顔をしている。#たまご屋#空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

「鶏舎にちゃんと風船結んでくれた？」 「…おー」 「うちの可愛いめんどりたち喜んでた？」 「…おー」 「今朝あかつきの寝室にたまご落ちてたけど産んだの？」 「…おー」 お、おかしい。全く突っ込んでくれない。#たまご屋 空想の街

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その異様さはさっきまで「ふーせん！」「ふーせん！」と騒いでいたよぞらとたんぽぽにも伝わってしまったようで。瞬間、部屋に訪れた静寂。 「たまこ」 「へ？！あっ、はい！」#たまご屋 #空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

「おれ、明日、でかけてくるから」 「あ、うん、ど、どうぞ」 「何どもってんだよ」 びくびくしながら返事をすれば、あかつきは少し、笑った。目を細めて、遠くを見るように、私のことを見ている。 #たまご屋 #空想の街

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何？その顔。まるで、出会ったときみたいじゃない。死のうとしてた、あの時みたいじゃない。 止まらない胸騒ぎ。でも、それが何を意味するのかは分からなくて。私は風船の糸を、きゅっと握った。 #たまご屋 #空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

たまご屋、明日も開店してます。(中の人は不在かもしれませんがご自由にお使いください。)たまごの事なら何でも承ります。たまごに関するご用命は、御庭たまこのたまご屋へぜひどうぞ☆ #たまご屋 #空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

「ぎゃ！」 「きゃあ！たまこ！」 「…よぞら、たんぽぽ…頭がんがんするから叫ばないで…」 やってしまった。昨晩は禁じ得ない胸騒ぎを振り切るように、がんがんお酒を煽ってしまった。空になったルグッグの雫の瓶を片づけながら、私はこめかみを押さえる。 #たまご屋 #空想の街

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「あれ、あかつきは？」 「出かけたー」 「いそいそ出かけたー」 「…さいですか」 いそいそ、ね。それじゃあまるで、女に会いにいくみたいじゃない。まさか。不老不死の彼は、人との関わりをできるだけ避けてきたはずだし、誰かに会いたいなんて話は聞いたことがない。#たまご屋 #空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

「…ん？」 しんでしまった、ひと？ ああ、今日は、氷涼祭じゃないの。 「そういうことかあ」 本当は、中央区のサルビア花壇を、一緒に見に行きたかったけれど。 そんなのもう、勝てっこないわよ。 #たまご屋　#空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

酔い覚ましの水を一杯飲み干して、深く深く息を吐く。そうして、大きく息を吸って、 「あー！仕事する仕事！」 鼻の奥がつんとするのも、目頭が熱いのも、全部全部二日酔いだから。大丈夫、二日酔いなんだから。 #たまご屋　#空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

お昼過ぎまでに配達を完了させて、夕方には、時計塔広場で店を出す。たまご屋特製プリンを初お披露目するんだから、たかが男の一挙手一投足にへこたれている場合じゃないのだ。私は、御庭たまこという女である前にまず、たまご屋なのだから。 「さー準備準備！」 #たまご屋　#空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

なんだか不穏なたまご屋ですが、仕事はいつもどおりこなしますのでご安心ください。夕方には時計塔ひろばの出店で、たまご屋の特製プリンを販売します。この機会にぜひぜひうちのたまごをお召し上がりくださいませ。#たまご屋 #空想の街

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おはようございます。よく晴れた朝です。中央区の花壇のサルビアが満開になりました。このお天気は銀氷のときをのぞき１日続きそうです。本日は氷涼祭、夕方より時計塔広場に出店が並びます。会いたい人に会えますように。それでは、いってらっしゃい。（情報窓口：佐々木類） #空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

中央区。サルビアが満開に咲き誇る花壇前。晴れ渡った空に同化してしまいそうなブルーの風船を連れて、おれはただ待っていた。おれの願いが届いて、帰ってきてくれるとしたならば。それはきっと、最後に会ったこの場所しかない。 #たまご屋not　#空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

すれ違う人の中に、目を凝らして。そうして朝から待っていたが、とうにお昼を過ぎてしまった。諦めかけていたそのときに、目についた風船。腰をかがめた老婆が、ゆっくりゆっくりと歩いてくる。 ああ、きみは。#たまご屋not #空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

「ひさしぶり」 「ええ、もう、50年」 皺だらけの目尻に、更に皺を浮かべて彼女は微笑んだ。 「最初、誰が呼んでくれたのか、わからなかったわ。私を知る人はもう、皆この世にはいないはずだもの。50年は、人には長すぎる」 #たまご屋not #空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

風船の紐を握る皺皺の手に、きゅっと力がこもる。 50年。恋人だったおれが不老不死の魔法をかけられて、逃げるように街から離れたあとの、50年。きみにとってそれは、一体どういうものだったのだろう。 おれは、きみに謝らなくてはいけない。#たまご屋not #空想の街

黒胡椒すず @spice_100g

「おれ、」 「謝らないで。私は私で、幸せに年を取ったの」 遮るように彼女は言った。そりゃあ最初は、泣いたわ。でも、やさしい人と結婚して、お店を開いて。子どもを育てて、孫だって、生まれて。彼女は続ける。「幸せな人生だった」 #たまご屋not #空想の街