【創作】中途半端に終わってるもの【まとめ】

創作長文アカで書き散らして、とにかく途中で飽きたもの。
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臨界迷宮で小話。
不可思議で、奇妙で、ちょっぴり切なく古めかしい。まったり浪漫ちっく。


燦月夜宵 @iolite_N

夜明の店に行くとどこからか鳴き声がした。「郭公か?」舶来品や骨董、怪しい品々扱う雑貨店には不釣り合いな澄んだ声で鳴いていた。湖畔や避暑地で聞いたほうが互いを引き立てるに違いない。「郭公?よく聞いてみろ」店主は笑いを堪えながら促す。よくよく耳を澄ませば、カッコウとは鳴いていない。

2012-02-04 00:15:42
燦月夜宵 @iolite_N

かんこぅ、かんこぅ、と奇妙な抑揚で鳴き続けている。「ただの郭公じゃない、閑古鳥が鳴いているんだ」閑古鳥が鳴く。人が全くおらず閑散している様を表した慣用句の一つであり、実際そんな場所で鳴くものはいない。だが、夜明はその「閑古鳥」そのものが此処にいると言っているのだ。

2012-02-04 00:22:36
燦月夜宵 @iolite_N

辺りを見渡し、声の持ち主を探すが影も形も見当たらない。「気になるか?」当たり前だ、誰も聞けないものを聞いたのだ。気にならないわけがなかった。夜明は鼻息の荒いこちらを笑いながら、机の下から30cmほどの鳥籠を出してきた。奇妙な声を持つ生き物は、これまた奇妙な身なりをしていた。

2012-02-07 13:15:34
燦月夜宵 @iolite_N

鳥の形はしている。鳩と同じくらいの大きさで、きちんと羽もあった。ただ色は変わっている。全身は白、陰のかかる部分はごくうっすらとした菫色になり、柔らかな印象を与えている。それだけなら鳩の変種としても疑えたはずだが、出来なかった。どう見ても、翼の先や身体の端が透けているのだ。

2012-02-07 13:26:29

燦月夜宵 @iolite_N

境界迷宮で、飽きるまで七夕話。

2012-07-07 23:39:13
燦月夜宵 @iolite_N

猫睛堂の軒下にも、今日にちなんで笹が飾られていた。意外にもまめな夜明とムジナは、笹飾りも短冊も作り上げていた。あまり女子供の来ない店にしては、短冊に書かれている願い事は稚拙なものが多い。夜の食事に誘われていた面々もそこに食い付いた。

2012-07-07 23:42:55
燦月夜宵 @iolite_N

夜明によると、近所でムジナが噂を流して短冊を渡し歩いたのが原因らしい。「そういや、巷で変な噂たってたな」池窯が思い出したように、話を続ける。「奇妙ななりした男が、笹を背負って魔法使いに願い事をー!って叫びながら短冊集めてたっていう」「ムジナじゃない!」「ムジナだな」

2012-07-07 23:46:18
燦月夜宵 @iolite_N

「いや、だって本当の事だろ?此処には夜明魔法使い大先生がいるんだから」冗談めかしつつ、ムジナが用意したそうめんを啜った。星を模したオクラの輪切りや、星型に刳り抜いた野菜が皿の上のそうめんを彩っている。七夕らしい、天の川のような盛り付けだ。夜明のしそうなことだ。

2012-07-07 23:49:53
燦月夜宵 @iolite_N

「嘘付くのも大概にしろよ。ま、こっちは記事が埋まって上々だ」今度は宇佐見がその横の胡瓜を手にして、豪快にかぶりつく。「こいつの力が便利なもんじゃねえってことは、テメェが一番知ってるだろうがよ」「だから、楽しむ為の一種のイベントってやつさ。魔法って単語で誰もが魔法にかかる!」

2012-07-07 23:54:24
燦月夜宵 @iolite_N

いいねえ、楽しいねえ!一人騒ぐムジナに誰も付いて行けない。「実際叶えてもらえるのは、彦星と織姫のお零れを貰える人だけさ。皆も書いてみるかい?」「いいんですか!」「特に夕月君の顔が一番そう言っているよ」

2012-07-07 23:58:17
燦月夜宵 @iolite_N

……飽きた!もう飽きた!! この後、皆で短冊を書いてから、天の川を見上げて思いをはせます。夜明さんは依頼で天の川のサンプルを作らなくてはいけない為、空に偽カササギをとばすこととなります。しかし、そのカササギが持ってきたのは「引っ越したい!」と切実に語る二人の文でした。

2012-07-08 00:00:58
燦月夜宵 @iolite_N

そもそも織姫と彦星は四六時中イチャイチャするのを怒られて、川を挟んで仕事させられる羽目になって、あんまりにもふさぎこんでるもんだから「年に1回なら逢瀬を許す」とかで、カササギに橋をかけてもらって会うって認識してる。つまり、どれだけイチャコラがウザかったって話だよね。

2012-07-08 00:04:07
燦月夜宵 @iolite_N

仕事も板についてきて、年に1回の再会にもなれて。もうあの頃のような情熱は無いけども、二人でずっと落ち着いてゆっくり時間を過ごせるようにしたいとか思って。今年再会した時に、一緒に頼みに行ったら「パパだけほっといて、そんな、地上にいくとか許さん!!」ってめっちゃ怒られて。

2012-07-08 00:06:41
燦月夜宵 @iolite_N

そんな時に偽カササギを発見して二人は地上の魔法使いに「引っ越しを手伝っていただけませんか!!」と、嘆願書をぶつけてくる。夜明さんも「天の川を自宅に作りたい」とかいう無茶ぶりと、自分のコレクションと商品の為に受けた依頼で、まさかこんなことに巻き込まれるとか思ってなかっただろうに。

2012-07-08 00:08:45

単眼魔人とメイドさん。
無料配布で配ったものの、メイド視点のお話。
仮の内容だったから、内容も随分変わってる。


燦月夜宵 @iolite_N

「それが終わったらでいい。2、3冊面白そうな本を持ってきてくれないか?」一服用の紅茶を片付けていた私に、アディーン様はそう言った。手元の本はもう読み終えていたのか、小さく音を起てて閉じられた。顔の半分を占める一つだけの目はまっすぐこちらを見ている。「もうお読みになったんですか?」

2013-02-11 23:11:30
燦月夜宵 @iolite_N

「いや、少し飽きてしまったんだ。だから、手が空いたらでいい」安心させるように、その目が縦にきゅっと少し細められた。優しい表情にさせようとしているのは分かるんですが、多分、私以外には恐怖を与えると思います。「分かりました。カップを洗いましたらお持ちしますね」「よろしく頼むよ」

2013-02-11 23:15:33
燦月夜宵 @iolite_N

「本当に、なんでもいいんですか?」「ああ、なんでも」顔を半分に切ったように大きな口が、尖った歯を見せながら笑っていた。なんて凶悪な表情。絶対、何か企んでいるわ。それは彼の子どもじみた悪戯心がさせていることで、性悪なことをしないことはよく知っている。多少不安ながらも、私は退室した。

2013-02-11 23:25:55
燦月夜宵 @iolite_N

手早く食器を洗い、駆け足で書庫へと向かう。ああは言われていても、早く持って行くことに越したことはないわ。冒険小説が2つ。それから、喜劇作家の書いたエッセイ。これは語るように書かれた文章が紡ぐ、コミカルな日常話の本で、私も大好きな一冊だ。

2013-02-11 23:32:42
燦月夜宵 @iolite_N

小難しい本ばかり選ぶよりかは、楽しいほうが息抜きにもなるはず。私が好きに選んでいいんだもの。選んだ本たちを両手に抱え、もう一度アーディン様の部屋の扉をノックする。「失礼します。本をお持ちしました」ノブを回して一番最初に目に飛び込んできたのは、さっきまで彼が読んでいた本だった。

2013-02-11 23:37:35
燦月夜宵 @iolite_N

ええ、本当に文字通り飛び込んできたんです。空を飛んで。背表紙から半透明の翅を生やし、猛スピードで。本は声の出ない私の前で急旋回して、奥で座るアーディン様の元へと戻っていく。それを彼は満足そうににやにやと笑って見ていて。唖然として動けないでいる私を、細く長い手で手招いていました。

2013-02-11 23:43:26
燦月夜宵 @iolite_N

「凄いだろう。裏町で面白いものを売っていてね」傍に来た私に、彼は自慢げにとある小瓶を見せました。深いブルーのガラスの中では、透明な液体が揺れています。いつ準備をされたのか、学生の頃にしか見なかったスポイトでその液体を吸い上げ、視線で分かりやすく、本を置くように伝えてきます。

2013-02-11 23:49:13
燦月夜宵 @iolite_N

私は一旦、本の束をテーブルの奥に置いて、緑の表紙のものを彼の前に移動させました。アーディン様は躊躇いなく、その表紙にぽたぽたとスポイトの中身を垂らしていきます。あっという間でした。沸騰した湯のように表紙が泡立つと、そこから3つ、虫の足が生えて。反対側からも同じ様に3つ。

2013-02-11 23:56:07