佐藤雅彦「属性」(求龍堂)という本に収録されている太田光との対談のなかで、太田が発言していることが非常に興味深い。対談収録は8月3日。「マボロシの鳥」を執筆中か、すでに書きあげていたか。少々長くなりますが、以下引用を。
2010-11-16 00:14:15佐藤「私は今の若い人を見てると、やっぱり自分の存在に対して、上っ面だけで証拠を残したいような感じを受けます。携帯メールやツイッターなんかを見ていても、人との関係性だけでこの世に自分を存在させているようにも見えます。」
2010-11-16 00:16:54佐藤「実際の字を見ても、字体や書き方に癖をつけたり、携帯メールでも絵文字に凝ったり、携帯電話自体を装飾したり、そこだけで存在している。本当はそこから離れていないといけない。」
2010-11-16 00:18:27佐藤「そして自分とは全く離れたところで新しいものを作ればいいと思うのに、目の前の字体自体で見せかけの「自分」を作っている気がします。」
2010-11-16 00:19:08太田「それはある意味、僕にとってもずっとテーマとしてあります。例えば漫才をやる時に、爆笑問題の漫才、あるいは太田がやってる漫才、だから面白いっていうことも思われたいんですが、同時に、「誰がやっても面白い漫才」っていうのを作りたいっていう気持ちがあるんです。」
2010-11-16 00:21:03太田「じゃあそれには、自分を出せば良いのか、引っ込めればよいのか、ってことですよね。落語なんかは、例えば立川談志師匠の落語は「あぁ談志だ」って思うんですが、同時にやっぱり本当にすごい時っていうのは、談志が引っ込んでいる時なんですよ。」
2010-11-16 00:23:22太田「それはそのキャラクターになるために、自分を消している。いい役者についても恐らくそうで、誰がやっていたか分からないけどこの話っていう、話が残る。小説なんかもそうだと思うんですよね。「詠み人知らず」みたいな物語っていうのがやはり残っていくものなんだと思います。」
2010-11-16 00:24:23太田「例えば太宰治の小説って「太宰だな」と思う訳ですけど、宮沢賢治の童話なんかを読んでいると、あれは別に宮沢賢治じゃなくても、もちろん圧倒的に宮沢賢治なのですが、ただ語り伝えられてきたものとしても残っていくものだと思います。」
2010-11-16 00:25:27太田「本当は、僕はそっちに行きたいんですが、僕たちは立川談志を見ている時に、立川談志の生き方を含めて見たいし、この人普段どうしてるんだろう、というのも見たい。どっちも要求されているし、どっちも表現したい。だから自分を出したいし、消したい。」
2010-11-16 00:26:43太田「それが両方あるから、どっちに行けばいいのかなっていうのはあります。でも、理想は自分が消えることだと思うんですが。作品を作っている限りは、なるべくそこに自分を感じさせないで、物語のみがあるだけで、誰がやってくれても面白いというものを作り手としては作りたい。」
2010-11-16 00:27:41