概念探偵A 第一夜【○○は無慈悲な夜の女王 其の一】
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左脚から、赤い何かが滲み出している。 じわり、とした痛みがぼくを襲う それが血で、ぼくが撃たれたのだと理解するのには暫くの時間を要した。 26
2014-07-18 01:59:08![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
乾いた音が再び響く。呆然とするぼくの肉体を何かが掠めてゆく。 身体が力なく傾く。登って来た傾斜を、その時とは比にもならない速さで転がり落ちる。 27
2014-07-18 02:00:18![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ぐるぐると回る中で、視界が白と橙に明滅する。 下り坂の先、地の底で、白い女が待ち構えている。 高台の彼女は翳りのある笑みを浮かべ、崖の先へと落ちていく。 待って。行かないで。叫んで止めようとしたが、喉から出たのは苦痛による呻き声だった。 28
2014-07-18 02:02:37![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
呻きが漏れると、それまで彼女への想いで麻痺していた、撃たれた痛みが急激に身体を苛む。 転がりながら、撃たれた脚を見ようともがくが、うまくいくはずもなく。 ズキリとした痛みと、傷口から尾を引く赤い線とが辛うじて視界に収まるだけだった。 29
2014-07-18 02:05:25![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
転がる。地の底へ。 堕ちる。桃源郷から地獄へと。 背中全体を打擲するかのような激しい痛みと共に、回転が止まる。 肺の中の空気が口をついて吐き出される。 30
2014-07-18 02:08:15![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
痛みにもうろうとする意識と明滅する視界の中で、無理やりに撃たれた脚を見る。 青いズボンを血が赤く染め上げ、とめどなく流れ出ているように見える。 死ぬのか。ぼくはここで。わけもわからないまま。 甘い夢心地に蕩けていた思考が、恐怖により凍りつく。 ただただ嗚咽だけが溢れた。 31
2014-07-18 02:17:35![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
その時だった。 「なにメソメソしてるんですか。死にませんよ、その程度で」 すぐ後ろから、女の声がした。 彼女の少女らしさを帯びた甘い声とはまた違う、凛とした声だ。 32
2014-07-18 02:21:18![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
おそらくは、ぼくを撃った女だろう。 先程回転する視界の中で何度かみた、白い女だ。 ……死ぬにしても、このままワケもわからず嬲り殺されるのは御免だ。 その時のぼくは、確かにうっすらとながらそんなことを考えていた。 33
2014-07-18 02:25:17![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
いや、単に後ろから声を掛けられた反射だったのかもしれない。 とにかく、ぼくは必死に首を後ろに回して、女の姿を少しでも視界に収めようとした。 滲む視界の端で、チラチラと白い外套らしきものと、スラックスらしきものが目に映った。 34
2014-07-18 02:27:15![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
くすり、と女の嗤う声が耳に入った。 それから何事か二、三言呟く声が聞こえた。或いは、ぼくに問いかけていたのかも知れない。 声は音としてしか認識できず、ぼくは只々女を見ようとしていた。 そんな醜態を見兼ねてか、女の両手がぼくの首へと伸びた。 女の顔が、ぼくを覗き込む。 35
2014-07-18 02:31:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ぼくの霞んだ瞳に、女の瞳が浮かび上がる。 海の底の底、深い地の果てのような、一切の光が差さない昏い瞳が、ぼくを見た。 36
2014-07-18 02:32:46![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
登場人物紹介 其の一【概念探偵A】 ・シニカルな笑みと深海めいた瞳が特徴的な、自称美少女名探偵。 何者かにより存在を捻じ曲げられた艦娘たちが引き起こす事件を時と場合により金で解決する、「その道のプロ」。 古い友人から譲り受けたという中折れ式回転拳銃が武器。
2014-07-18 02:40:52