【水溜りの中の世界】

イビル時雨概念との対決とか、そんな感じ。
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シャル819 @char819

(これから流すのは、一応艦これ二次創作SSでございます。が、色々と人を選ぶ内容なので適当にスルーするなりしていただければと思います。タグは #cr819_ss があります)

2014-07-22 01:32:52
シャル819 @char819

「時雨、また雨を見てるの?」鎮守府の窓辺で雨を見ていた僕に、白露がそう笑う。「雨を見ていると、何かを思い出しそうになるんだ。遠い記憶、あの戦いの記憶なのかな……」「さあ」「白露にはそういったことはないのかい?」「あまり考えたことはないなぁ。きっと辛い記憶だし」「そうだね……」 1

2014-07-22 01:33:17
シャル819 @char819

【水溜りの中の世界】

2014-07-22 01:33:42
シャル819 @char819

「白露、ここにいたんだね」教室の隅で佇む白露に、彼女はそう語りかける。優しい微笑みと、それとは対照的になんの感情も持っていないような言葉。「村雨のことかい?」その言葉に促されるように、白露は言葉を絞り出す。「うん……私、村雨のこと、何も気が付いていなかったんだなって……」 2

2014-07-22 01:34:40
シャル819 @char819

「それは、僕も同じだよ。僕から見ても、白露は誰よりも村雨のことを考えているさ」それを聞いた白露がゆっくりと顔を上げたのを見て、彼女はさらに続ける。「そこに気が付けなかったのは、むしろ、村雨が……」だがそこで彼女は言葉を切る。白露の視線が何かを訴えたからか、それより前だったか。 3

2014-07-22 01:36:12
シャル819 @char819

「……ごめん、ちょっと軽率だった」ただ静かに、彼女はそう謝罪する。「ううん、時雨の言おうとしてくれたことも、わかる」それを見て白露は、自分の視線と彼女の言葉の意味を考え、ゆっくりと彼女の言葉を受け入れる。「でも、白露もあまり考えすぎないで欲しいんだ。これは……、僕の本心だよ」 4

2014-07-22 01:37:27
シャル819 @char819

そして彼女は白露から視線を外し、窓辺から外に目をやった。外は雨。「雨降って地固まる、という言葉もあるね」白露は何も答えず、同じように外の雨を見る。だから白露は気が付かない。そうつぶやいた彼女が、歪んだ笑みを浮かべていたことを。「行こう、次の授業が始まる。村雨も待っているよ」 5

2014-07-22 01:38:42
シャル819 @char819

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2014-07-22 01:38:52
シャル819 @char819

「ねえ白露、僕たちは以前、一体何をしていたのかな」雨を見つめたまま、僕はただ漠然とそう尋ねた。「何って……あの戦い、じゃないの?」「それとは別に、だよ。もしかしたら、僕たちはもっと他の……」そう言いかけて、僕は言葉を切った。言葉にしてはいけない言葉もある。僕はそう感じたのだ。 7

2014-07-22 01:39:58
シャル819 @char819

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2014-07-22 01:40:10
シャル819 @char819

「ようするに、いつも村雨の側にいながら、君は一番大切なものを見落としていたんだ」彼女の言葉は、静かで、なんの感情も感じさせず、遠い世界から聞こえてくるようだった。「確かに、君はたくさんの言葉を村雨にかけていたね。でも、それは本当に、村雨にとって必要な言葉だったのかな」 9

2014-07-22 01:41:03
シャル819 @char819

一転して、その言葉は白露の奥深くへと突き刺すように、鋭く冷たい。「時雨だって、私が村雨のことを考えていたって……」「考えていたね」彼女は白露の言葉を否定はしない。「でも、それが村雨にどう聞こえるかまでは、考えていたのかな。問題はそこだよ」彼女は無情に、白露そのものを問う。 10

2014-07-22 01:42:14
シャル819 @char819

「全てはもう、終わったことさ」再び、彼女の言葉から感情が消える。「君がいくら後悔してみせたところで、村雨は戻ってこない。それはわかるだろう」白露は何も答えない。それを見て、彼女はさらに言葉を続ける。「なら、考えるべきじゃないかな。どうすれば村雨に誠意を示すことができるのか」 11

2014-07-22 01:43:25
シャル819 @char819

「誠意……」「村雨の死んだこの世界で、君がどういった心境で生きていくのか、と言ったほうがいいかな」重い言葉を、彼女はためらうこともなく口にしていく。その軽さが、返って一つ一つの言葉を重く感じさせる。「君は村雨に対して、何ができるのか、何をすべきなのか。どう責任を取るのか」 12

2014-07-22 01:44:36
シャル819 @char819

村雨の後を追うように、白露が自らの死を選んだのは、その日の夜だった。 13

2014-07-22 01:45:47
シャル819 @char819

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2014-07-22 01:45:59
シャル819 @char819

教室のような家具で揃えられた鎮守府の一室を、僕は一人、外から見ていた。いつの間にか雨は上がり、地面には幾つもの水溜りができている。不意に、その一つに映った教室に人影が見えた。だが、顔を上げても鎮守府には誰も居ない。もう一度水溜りに目を落とす。そこで笑っていたのは……彼女だ。 15

2014-07-22 01:46:57
シャル819 @char819

『どうしたんだい、浮かない顔をして』水溜りの中の彼女がそう声をかけてくる。『そんなに睨むことはないじゃないか。僕は、そう僕自身なんだ』僕は逃げるように顔を上げる。だがいつの間にか、鎮守府の教室に彼女はいた。『僕にもわかっているだろう。僕のしたことは、僕のしたかったことさ』 16

2014-07-22 01:48:09
シャル819 @char819

彼女はこれまでと同じように、感情の緩急を平坦に保ちながら言葉を続ける。『一人生き残ることが辛いから、先に何処かへ行ってもらう。それが僕の望んだことじゃないか』それに僕は答えられない。『僕は、どうしてるんだい?』「僕は、誰も消したりなんかしない」『あくまで、まだ、だろう』 17

2014-07-22 01:49:20
シャル819 @char819

否定しようと思っても、僕は言葉を見つけられない。『今はまだ、深海棲艦もいる。僕には戦う理由がある。まあ、僕自身が動く必要は、薄いだろうね』僕の心中を汲み取って、彼女は優しい笑みを作りながらそう言った。『だがいつか、僕は耐えられなくなるはずさ。僕が、皆が生き残っていることに』 18

2014-07-22 01:50:30
シャル819 @char819

僕の視界から、彼女の笑みが消えない。『僕も見ただろう。僕の姿を、僕の言葉を、僕の世界を』僕の視界を、あの教室が支配する。『あれは僕の、そして僕の姿だよ』「違う」『確かに今は違うかもしれない。でも、いずれ僕はたどり着くさ』必死に僕は否定の言葉を探す。言葉は無いが答えはあった。 19

2014-07-22 01:51:42
シャル819 @char819

「……でも、たどり着かない手は無いわけでもないよ」そして僕は、手に持っていた砲を自分の胸に押し当てる。この密着した状態なら、僕一人吹き飛ばすくらいたやすいことだろう。『撃てるのかい?君に』僕の心理を見越してか、彼女はそう言った。だが、それこそが、僕の待っていた言葉だった。 20

2014-07-22 01:52:53
シャル819 @char819

「……やっと、『君』って言ったね」その言葉を聞いて、僕は砲を放して静かに笑う。『それを待っていたのかい……』「そうさ、君は僕じゃない」僕がそう宣告すると、彼女の顔は少しずつ歪んでいく。「だから僕は、君と戦う」そして今度は、砲を彼女へと突きつけた。『僕を撃つのかい』「撃つさ」 21

2014-07-22 01:54:04
シャル819 @char819

『まあいいさ。それでも、いずれは僕にたどり着くよ……』それだけ言い残し、彼女の姿は僕の前から消えた。水溜りの中にも、ただ僕自身の姿が映るだけ。消えて、あらためて僕は考える。彼女へとたどり着く僕の姿を。その道すじを。心を。そして、そこへと至る可能性の多さをあらためて思い知る。 22

2014-07-22 01:55:15
シャル819 @char819

「僕は、僕に出来る事をしていくしかないか……」怖さはある。でも、彼女と出会わなければ、きっと僕はこの怖ささえ知ることはできなかったのだろう。そんな風に考えられるようになったのは、多分、ここに来てからだ。「時雨ー!どうしたの、ボーっとして」やってきた白露がそう声をかけてくる。 23

2014-07-22 01:56:26