ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10100209:デス・オブ・アキレス #1
彼の胸元には骨伝導インカムが隠されており、状況が伝えられる。マジェスティとブラックロータスの死は極めて重大なインシデントだ。何かが起ころうとしている。しかしアガメムノンがこの儀式の中で直接陣頭指揮を取る事は不可能だ。彼は強固なシステムを構築した。システムが敵を排除するだろう。25
2014-07-19 00:56:32(((貴様なりに周到な計画を立てたか、ニンジャスレイヤー=サン)))アガメムノンはゆっくりとチャを嚥下した。(((この私を試した代償はひたすらに高くつくぞ)))『01001001スパルタカス=サンが既に動いています001001001』アルゴスからの通信はタイムリーだ。 26
2014-07-19 01:08:25「コヨイ=サンのことは本当に残念でした」「……」アガメムノンは瞬きして、ユケダ内閣官房長官を見た。「?」ユケダ内閣官房長官は、やや怪訝そうにした。アガメムノンは微かな表情の変化によって、哀しみにとらわれた為にやや放心したのだと、雄弁に伝えた。彼は頷いた。「……はい。試練です」27
2014-07-19 01:10:23ダイザキ・トウゴの邸宅は、カネモチ・ディストリクトには無い。彼ほどの資産家にとってみれば、カネモチ・ディストリクトすらも不快な大衆のノイズ源と大差ない。彼の邸宅はネオサイタマ郊外を臨む丘の上の古い屋敷にある。この丘まるまる一つが彼の所有物であり、侵入者は無条件に射殺される。 29
2014-07-19 01:17:58装飾ガラス窓に叩き付ける重金属酸性雨。ときおり雷光が窓を白く染める。「復讐は何も生みません」「無益の極み」「彼は直ちに自首した上でセプクし数々の罪を」「それが天国にいるご家族の為でもあり」「すぐ通報」無人の居間。暖炉の炎。埋込型大型TVから漏れる、NSTV社ニュースの音声。30
2014-07-19 01:20:23人の気配は廊下を挟んだ別室にあった。「……テック……高揚……宇宙……当初感じた喜びを否定はすまい。だが、今は、ただ……恐ろしい……」窓のない一室から漏れる男の声は悲痛だった。「恐ろしいのだ……おお、我がメフィストフェレスよ……」 31
2014-07-19 01:27:15二人の佇まいは対照的であった。震え声の男は脂ぎった髪と野暮ったいネルシャツにジーンズだ。もう一方の男は彼よりも年老いているが、彼よりも何倍も長生きするに違いない。古めかしいベルベットのスーツに身を包み、山羊じみた顎鬚は挑戦的であり、その顔色は内に滾る精力に赤々と燃えるようだ。32
2014-07-19 01:31:55「落ち着きたまえ、フクトシン博士」メフィストフェレスと呼ばれた年配の男が返す。彼がダイザキ・トウゴ。この丘の主だ。「君は妄想に駆られつつある。失墜するのかね。栄光という太陽に近づきすぎたイカラスのように」彼はクリスタル・グラスにブランデーを注いだ。「数万年の氷が融ける音だ」33
2014-07-19 01:37:13「私は……。……宇宙、それは夢だった」フクトシン博士は己の手を見た。「電子戦争が人類から翼を奪った。私は翼を取り戻したかった。人の可能性を。私はそれを……」「そうとも。素晴らしい夢ではないか」ダイザキは彼の手を取り、グラスを握らせた。「何を恐れるというのか」 34
2014-07-19 01:43:34「君は、否、君たちは、彼はその先に何を見ているのだ」フクトシン博士は震える手でグラスを支えたが、飲まなかった。彼は怯えた目でダイザキを見た。「何を」「なぜ、知っていることをわざわざ訊く」「何が目的で」「すべて知っているだろう」「つまり、その先の……」「どうも話にならんな」 35
2014-07-19 01:50:05「恐ろしいのだ……」博士の声には嗚咽が混じった。ダイザキはため息をつき、博士の手からグラスを取ると、一口飲んだ。「君は、私が守る」一切の動揺を見せぬ彼の声は、年代物の分厚い絨毯に吸い込まれる。「計画の中止を……今ならばまだ」博士がパトロンの肩に縋るように手を伸ばした。 36
2014-07-19 01:54:17「中止だと?もはや止まらぬ」ダイザキは博士の手を払いのけた。「君を逃がしはしない」パトロンの声が変わった。その顔はいつの間にか邪悪なニンジャ覆面に覆われている!メフィストフェレス!彼は……ニンジャなのだ!「アイエエエエ」博士は失禁し、上等な木製椅子に力無く座った。37
2014-07-19 01:56:23ニンジャ覆面の奥で、メフィストフェレスの邪悪な目が燃えた。アマクダリ・セクトのニンジャを前にしてもほぼ無関心を保っていたフクトシン博士であったが、メフィストフェレスの邪悪な凝視に耐えるすべはなかった。彼は一瞬にして極度に緊張し、失禁しながら、人生を悔いるプロセスを開始した。 38
2014-07-19 02:00:18「恐ろしいのだ……」博士の声には嗚咽が混じった。ダイザキはため息をつき、博士の手からグラスを取ると、一口飲んだ。「君は、私が守る」一切の動揺を見せぬ彼の声は、年代物の分厚い絨毯に吸い込まれる。「計画の中止を……今ならばまだ」博士がパトロンの肩に縋るように手を伸ばした。 36
2014-07-20 22:15:06「中止だと?もはや止まらぬ」ダイザキは博士の手を払いのけた。「君を逃がしはしない」パトロンの声が変わった。その顔はいつの間にか邪悪なニンジャ覆面に覆われている!メフィストフェレス!彼は……ニンジャなのだ!「アイエエエエ」博士は失禁し、上等な木製椅子に力無く座った。37
2014-07-20 22:15:20ニンジャ覆面の奥で、メフィストフェレスの邪悪な目が燃えた。アマクダリ・セクトのニンジャを前にしてもほぼ無関心を保っていたフクトシン博士であったが、メフィストフェレスの邪悪な凝視に耐えるすべはなかった。彼は一瞬にして極度に緊張し、失禁しながら、人生を悔いるプロセスを開始した。 38
2014-07-20 22:15:38暑い夏だった。少なくとも冬ではなかっただろう。あの夜、タケル・フクトシン少年は裏山の観測小屋にいた。観測。そういう意味では、最適な場所に居た。彼が見たのは凄まじい流星群だった。魂が震えた。伯父がくれた天体望遠鏡から目を離し、息を切らし、梯子で小屋の屋上へ。肉眼で充分だった。 39
2014-07-20 22:22:44まるでそれは光の矢が放たれたようだった。タケル少年は息をするのも忘れた。夜空を洗う光の軌跡を、彼はただ見守るしかなかった。あまりにそれは美しい光景だった。涙すら流れなかった。なんという贈り物を、神は彼にもたらしたのだろう。彼は伯父の事を思った。 40
2014-07-20 22:29:06伯父もこの流星群を見ていることだろう。電子メールで写真を送ってくれた、あの白く誇らしく美しい建物で、きっと仲間達と興奮しながら、同じ光景を見守っていることだろう。……感慨は、やがて懸念に変わる。流星群は降り止まなかった。何かおかしいな。彼はだんだん空恐ろしくなった。 41
2014-07-20 22:35:13タケルは梯子を滑るように降り、UNIXデッキからニュースサイトを確認しようとした。0100薤010擥11……モニタは無意味な文字列を流し続けていた。「なに?」タケルはデッキを離れ、リュックサックの中身をひろげようとした。……瞬きすると、彼は同じ場所で仰向けに倒れていた。 42
2014-07-20 22:40:41起き上がろうとしたが、息が吸えなかった。それに、とても眠いのだ。視界は黒かった。火が見える。UNIXデッキのあったところだ。焼けた木材がタケルのすぐそばに落ちてきた。彼は悲鳴を上げた。カジバチカラ……逃走するための少しだけの力を、彼の身体は残していた。 43
2014-07-20 22:43:51