座敷鎮守府◆艦これSS◆その3

座敷犬さん @undershafterによる艦隊これくしょん~艦これ二次創作作品です。 《それでも髭を剃り、身だしなみをそれなりに整える余裕は忘れてはならない。出来れば紅茶を飲んでブラック・ジョークを言えると良い。そんな事を誰かが、言っていた。》 ◆座敷鎮守府その1◆ http://togetter.com/li/697670 続きを読む
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座敷犬 @zash_dog

散歩と称した鎮守府の見回りだ。現場を自分の目で確認する、なんて名目だが自他共に暇潰しである事は理解している。最初は汚れた雰囲気だと思っていたが鉄骨とコンクリート、樹脂で出来た床、油くささを感じるここも悪くはないと思えてきた。住めば都とはこの事だ。 #座敷鎮守府

2014-07-31 22:31:50
座敷犬 @zash_dog

僕とは違い皆は忙しいのか、と思ったがそうではない。廊下を歩いて回るとすれ違う人々には余裕がある。出撃や大規模な演習を有ればもっと忙しくなるのは分かっているが、鎮守府全体がここまで忙しくないのは久しぶりだ。広いホール。バスケットボールに興じるスタッフ達を見つける。 #座敷鎮守府

2014-07-31 22:40:56
座敷犬 @zash_dog

「混じらないのか?」悪戯めいて聞いてくる木曾。「言ってるだろ、僕はスポーツはやるより見る方が好きだ」手を振ってくる何人かに返し、何時ものルートを進んでいく。次にやってきたのは最上層の船着場。一種の港湾とも言える場所だ。ここは何時も通り忙しいようだ。 #座敷鎮守府

2014-07-31 22:49:37
座敷犬 @zash_dog

床に書かれたAGVの誘導ラインを踏み越え、置かれたコンテナの間を歩いて行く。「――なぁ」気付いてるよ、深海棲艦のニオイがするんだろ。顔を顰めて言う木曾。艦娘程では無いが、この微かに臭う人の体液と潮、それとアンモニアを混ぜたニオイには心あたりがある。 #座敷鎮守府

2014-07-31 22:56:45
座敷犬 @zash_dog

どのコンテナだろう。「分からない、色んな所からする」もしかして何処かに隠れてる、とか。「無いな。これは死体のニオイだ」フム。制服の下のホルスターが胴と擦れるのが意識されるが、これが必要になる事は恐らく無いだろう。白い肌、蛍光緑ないし赤、金の瞳。目の前の彼女の鏡写し。 #座敷鎮守府

2014-07-31 23:04:39
座敷犬 @zash_dog

向こうに見知った顔が居た。鎮守府の人間ではない。輸送船の船長、普段は原油を運んでいる人だ。歩み寄り、声を掛けてみる。「お久しぶりです」「おぉ、一ヶ月ぶりだな」「調子はどうですか」「中々だよ。この一ヶ月の損害はほぼゼロだ、君たち海軍のお陰だな」 #座敷鎮守府

2014-07-31 23:10:16
座敷犬 @zash_dog

この一年で輸送船団の被害は大きく減少した。17箇所に存在する防衛基地「鎮守府」近海を通過するシーレーンが確保でき、日本以外の各国でも艦娘の運用が始まったのが大きな要因だ。お陰で大分制限されてきた他国とのやり取りも復活し、地球人類は少しずつ活力を取り戻しつつある。 #座敷鎮守府

2014-07-31 23:15:23
座敷犬 @zash_dog

「――少々耳を」頷き、此方に耳を傾ける。(今回は何を運んでいるんですか)「……言えんな」何時もは何を運んでいる、何処へ運ぶ等と聞いても居ないのに教えてくれる人だが、今回はそうではないようだ。(何故です)「……ニード・トゥ・ノウだ。君の上からのお達しもある」 #座敷鎮守府

2014-07-31 23:20:00
座敷犬 @zash_dog

(では、何処へ運ぶかは?)「それは表向き通りだよ、横須賀へだ」横須賀。日本海軍の今や数少ない拠点の一つ。あそこの護衛の為に鎮守府が一つ置いてある。後は――思い出した。日本海軍特別技術工廠。世界初の艦娘を開発した「研究所」だ。僕もその実情は殆ど知らない。 #座敷鎮守府

2014-07-31 23:26:39
座敷犬 @zash_dog

深海棲艦の死体。海軍特別技術工廠。簡単な事だ。(ありがとうございます)それだけ言って、木曾の手を引く。「――どういう事なんだ」「内緒だ」自身が深海棲艦の死体から作られた事を彼女は知っているが、こればかりは余り聞かせて良い事ではないだろう。 #座敷鎮守府

2014-07-31 23:31:24
座敷犬 @zash_dog

第五世代艦娘は、姫・鬼級深海棲艦の死骸を「改修」したものに過ぎない事を。 #座敷鎮守府

2014-07-31 23:33:28
座敷犬 @zash_dog

戦艦娘はその正の面の抽出が難しいから、艦娘関連技術の発展と共に第n世代とカテゴライズされている。金剛型は第1世代。扶桑型は第2世代。伊勢型は第3、長門型は第4、と言った具合だ。第5世代にカテゴライズされるのは史上最大の戦艦、大和型だ。 #座敷鎮守府

2014-08-02 16:33:30
座敷犬 @zash_dog

同じ聯合艦隊旗艦たる長門型と比べ、大和型の「信仰」は極めて小さく、「正の面」を抽出するのが極めて難しい。だが、その圧倒的な能力はこの先激化していく深海棲艦戦線に於いて必須となるだろう。海軍のお偉方はここ1年程その力に非常に執心していたと聞く。 #座敷鎮守府

2014-08-02 16:36:45
座敷犬 @zash_dog

そして現れたのが南方棲戦鬼や戦艦棲姫といった「鬼・姫」級深海棲艦。圧倒的物量に押し潰されて散っていった艦と将兵の負の念の塊。激戦の末これ等を撃破し、残骸を持ち帰った呉の特務艦隊。一ヶ月後、彼らとの演習で僕が見たのは46cm三連装砲塔を三基搭載した艦娘の姿だった。 #座敷鎮守府

2014-08-02 16:42:20
座敷犬 @zash_dog

尤も、彼女等が深海棲艦の残骸を修復したものという情報は、オフレコという条件で何時もとんでもない情報を耳打ちしてくれる同期からだったが。――この事は忘れる事にしよう。僕達が首を突っ込める件ではないし、突っ込みたくもない。僕と木曾は何時もの散歩のコースに戻っていた。 #座敷鎮守府

2014-08-02 16:48:09
座敷犬 @zash_dog

次に来たのは艤装格納庫。当初ロッカー室程度のものだった部屋は、今や鎮守府屈指の規模を誇る施設となっていた。嘗て露天駐機・繋留されていたヘリや徴用漁船等も今ではここで整備される事になっている。何時も程ではないが、作業する人も居たし、艦娘も居た。 #座敷鎮守府

2014-08-02 16:53:30
座敷犬 @zash_dog

「提督、ちょうど良い所に。 明石さーん!」僕を呼び止めたのは軽巡洋艦、夕張。嘗て兵装試験艦だった彼女は、今は整備班で数少ない艦娘として、明石と共にエンジニアとして従事している。「良かった良かった、渡したい物が有って」奥の工廠から走ってきた明石が言う。 #座敷鎮守府

2014-08-02 16:58:41
座敷犬 @zash_dog

彼女が渡してきたのは奇妙な二つのリングだった。見覚えのあるサイズ――指輪か。ただ僕が今左薬指に嵌めているそれよりは少々小さい。「それに関係のある物です」明石が僕の目線に気付いて言う。「夕張ちゃん、説明を」「はい。 ――シンクロナイズ・レギュレータ。それの名前です」 #座敷鎮守府

2014-08-02 17:01:56
座敷犬 @zash_dog

……シンクロナイズ関連の何かか。「はい。これは提督と木曾ちゃん、二人の指輪に付ける物です」使い方は?「シンクロナイズの時にそれが付いていれば良いです。それがシンクロナイズで生じる提督への負荷を軽減してくれる……筈です」筈って。 #座敷鎮守府

2014-08-02 17:05:21
座敷犬 @zash_dog

「しょうがないじゃないですかぁ、試作品ですよ試作品、二人の為だけの」夕張が頬を膨らませ抗議する。僕と木曾は本物のレアケースらしい。成程オレンジ色なのも試作品だからか。片方を木曾が差し出した左薬指に嵌めてやる。銀の指輪に押し込むと、食い込むようにして指輪に嵌まった。 #座敷鎮守府

2014-08-02 17:10:53
座敷犬 @zash_dog

僕の薬指にも橙色のそれが嵌まるのを見れば二人は頷き「どうですか」と聞く。「どうも何も……何も無いぞ」僕も同じだ。「あら……それならそれで良いんですが」……?兎に角シンクロナイズして試してみる事にする。アグリメント・モード。「承諾(アクセプション)」 シンクロナイズ。 #座敷鎮守府

2014-08-02 17:15:34
座敷犬 @zash_dog

左薬指から奔る痛み――は大分マシになった。視界が暗転し、激しい吐き気。刺すような痛みが体を突き抜け――視界が飛ぶ。横を見やれば倒れる俺の体。握り、開く手は華奢な女の物だ。眼帯を外す。蒼い炎が右半分の視界に広がる。「――やっぱり深海棲艦のとは」「違うわね」二人が言う。 #座敷鎮守府

2014-08-02 17:20:07
座敷犬 @zash_dog

「――戻してみて下さい」アグリメント・リリース。視界が飛び、倒れ伏す僕の体に戻った。倦怠感と重さ――前回よりはマシだ。木曾に手を借り、ゆっくりと立ち上がる。「大丈夫ですか」大丈夫じゃないが、大分マシになった。この程度なら指揮を続けられる。 #座敷鎮守府

2014-08-02 17:25:14
座敷犬 @zash_dog

「試算だと」明石がタブレットを叩き、見せる。「レギュレータを付けた状態でのシンクロナイズの提督への負荷値は4割程軽減されている筈です」そうか――おっと。「大丈夫か」フラつく僕の腕を木曾が取る。不甲斐ない。右脚で踏ん張り、意識を保とうと努力する。 #座敷鎮守府

2014-08-02 17:30:16