ツイッター小説 お気に入りセレクト 2010/11/17
#twnovel 「百まで生きれば呪いが解けるの」祖母の言葉は痴呆によるものだと思っていた。結局、百の齢を迎える直前に祖母は逝った。火葬した遺灰に大腿骨はなく、代わりに出てきたのは魚に似た大きな尾骨。私は遺灰を故郷の海に撒いて願った。私が還るそのときは、せめて自らの意思と足でと。
2010-11-17 00:48:07もう要らないや、と思って自分をゴミの日に出した。夜のうちに雨に降られた。寒い。朝方カラスにそっぽをむかれた。つつかれなくて良かった。爽やかな音楽を鳴らしながら業者がやってきた。「違う日にしてくれ」「生ゴミじゃないのか」「粗大ゴミか産業廃棄物だ」ち、金かかるのか。 #twnovel
2010-11-17 01:55:47#twnovel 月を裏返せば太陽になると信じていた子供の頃の夜を思い出した。太陽を裏返すわけじゃない。太陽は眩しくて見えないから、あくまで月が基準だった。今はどうなのだと内心に問うてみる。――きっと地平線の向こうでお月様は急いで着替えているんじゃないか、なんて思ってみたいのだ。
2010-11-17 03:15:19スズメがお米をつついた途端に世界が爆発したんだよ。爆発したあとに小さな小さなリスが生まれてね、小さな小さなリスは地面にひまわりの種を埋めたんだ。ひまわりは輝くように咲き乱れてね、そのうちの一輪が落とした種からにょきにょきと生えてきたのが地球なんだよ #twnovel
2010-11-17 06:30:02第11のビールの税率が上がったとき、あわせて第8の煙草と、第7の珈琲と紅茶と緑茶と、第6のチョコレートとケーキと、第5の合法麻薬と、第4の米とパンも増税になった。それでも計画したほどには税収が増えなかったので、政府は票田の第3の日本人も年金に加入させはじめた。 #twnovel
2010-11-17 06:55:16#twnovel 瓶に封じ込められた魔神は、自身がもう三万年近くも呼び出されていないことを不審に思った。その気になればいつだって瓶から出られるのだが、己に課したルールを守り通す意地があった。地球が砕け散ったことに気付くのはさらに一万年後なのだが、もちろん瓶の外には誰もいない。
2010-11-17 09:06:38いきなり冬がやってきたものだから、実家からコートを送ってもらう時間すらなくて、深夜帯のアルバイト。家に帰ると熱っぽかった。気分はサイアク。頭がふらふらする。ほら、あなたの幻覚まで見えてきた。「大丈夫か?」こんな優しいことば、私にかけてくれるわけないもの。 #twnovel
2010-11-17 09:30:47#twnovel 僕らは四人だったけど今は三人だ。僕らは小さな武器で、言葉で、世界に反抗した。革命なんて大層なものじゃなく、誰かに僕らの存在を知らしめたいと思っていただけだ。僕らの言葉は大きくならず、むしろ発表するごとに縮まっていって。絶望した一人ほど僕らは現実を認められなくて。
2010-11-17 11:00:39「渦巻き」朝、ごおっという音で目を覚ますと、キッチンのまんなかに渦巻きができていた。渦巻きはしだいに大きくなりテーブルやフライパンや扉を吸いこみ、ついに自分も猫も吸いこまれてしまった。気がつくと、キッチンであったが左手と右手があべこべで料理がうまくできなかった。 #twnovel
2010-11-17 11:29:02もうこんな生活はまっぴらだ! この女とは一秒たりともいたくない。俺は別れさせ屋に離婚工作を依頼することにした。別れさせ屋が妻に近づき不貞の事実を作るのだ。「奥さんの写真はありますか?」。俺は妻の写真を差し出す。 #twnovel 「……料金は三倍増しになりますがよろしいですか」。
2010-11-17 12:35:01絡繰娘は今日もお茶汲み。カタカタカタと軋む身で、いつもと変わらぬ茶を淹れる。外は寒いと呟く主人、絡繰娘は声を持たない。身体が勝手に茶を淹れて、主人の前に運ぶだけ。主人は一口茶を啜り、美味しいなぁと呟いた。絡繰娘の微笑みに、主人も彼女も未だ気付かない。 #twnovel
2010-11-17 13:24:29#twnovel 2048年、すべての個人は強制的にネットに接続させられている。さて、有希は、今日も未来の作家を目指して執筆中。しかし、どうもワードがおかしい「あなたの表現は美しい日本語に相応しくありません。10秒以内に修正しなさい。さもないと言語警察があなたの家に向かいます」
2010-11-17 14:16:45昔は「五七五七七」の、たった31字で愛だの恋だのを伝えていたわけだよ。そう考えればすごく進歩したよね、今は上限が140字にも増えたんだから。ま、字余りは認められないんだけれど。とりあえず、君が好きだって言いたかったわけです。 #twnovel
2010-11-17 14:59:59#twnovel 或る男が下手な詩を書いた。その瞬間、世界は終了した。神は詩を丁寧に書写すと、詩を好む神々に「我々神々の間の全ての文脈から最も自由な詩」として発表した。残念ながら、手法の前衛的過ぎた所為か、わざわざ詩の為に世界を一つ創造した割に、あまり評価されなかったそうである。
2010-11-17 16:19:10#twnovel 個人でやっている事務所が忙しくなってきたので、学生のバイトをひとり雇い入れた。とりあえず電話番から始めて貰ったが、これが使えない。電話が鳴っても取ろうともしない。文句を言ったら「えっ、これ電話なんですか!?」だとよ。最近の若いのはアレか。赤電話見たことないのか?
2010-11-17 17:51:57裕子さんはたびたび嘘を吐いた。「おんなっていうのはね、性別じゃないの、ブランド。上等なラベルよ。これ、ほんとよ。」熱帯魚のように、過剰装飾ぎみな長い尾を靡かせて、つまらない小宇宙を彷徨う。彼女の悪意のない嘘にも、おんなのラベルがべったりと張り付いている。 #twnovel
2010-11-17 18:10:57社内恋愛がご法度の我が社。秘密の取引きのように、こっそり手渡すお弁当。営業の彼は車の中で食べている。「課長に怪しまれない?」「お袋が作ったことになってる」「おぬしもワルよのう」悪代官のように言ってみた。わたしたち、共犯者みたいね。裏切ったら…わかってるわよね? #twnovel
2010-11-17 18:15:43#twnovel 開発した空間転移機で、時間移動が可能と解った。かつて目の前で事故死した彼女を救うため、私は過去へ跳んだ。チャンスは一度。交差点で、彼女のお尻に触った。「ジジイ何すんだ」若い私が彼女を守る。その横を、暴走車は過ぎた。全て計算通り。突き飛ばされた私が轢かれた以外は。
2010-11-17 18:25:58#twnovel 虫歯の原因の多くが糖分にあることは有名だが、甘味が精神の疼痛にも作用する事はあまり知られていない。漢方では甘に偏った食は意志薄弱を招くとされ、多くのMURDERはチョコレートを常食していたというデータもある。何より、忌まわしき記憶は虫歯のように頭蓋に響いている。
2010-11-17 18:26:11人間豹は飢えていた。今宵の獲物は大きなキャリーケースを引きずりながら歩いていた。ケースの中にはバラバラになった男の死体が入っていた。「こうするしかなかったのよ」と女は泣いた。殺された男の顔が、一瞬自分の顔に見えた人間豹は、何も言わずケースを閉じた。 #twnovel
2010-11-17 18:27:27庭の植え込みから顔を出す。「いた?」「いない」「どこいったんだろ」君はため息をついて、また茂みに隠れてしまう。好きにしていいなら、僕も猫みたいに庭に逃げようか。月明かりの中、猫を探す手が触れる。 #twnovel
2010-11-17 18:40:462年ほど一緒に暮らした彼女と別れた。律儀にも自分の荷物を全部持って出ていった。狭い部屋だと思っていたのに、今はどうにもガランとして見える。案外ショックだったのが、服はともかく本棚もCDラックも、ほぼ空になっていたことだ。2年前の自分が僅かにそこに残っていた。 #twnovel
2010-11-17 19:00:39「なぜ僕だけが不幸なんですか」「あなたがクズだからです」「死にたいです」「それでは今から5日間何も口にせず、寝ることもやめなさい」「はい」「5日後にふっかふかの布団と暖かいスープを用意してあげます。それを断ってでも死にたければ死になさい。はい、次の人どうぞ」 #twnovel
2010-11-17 19:04:18父が肺がんと申告されもう一年になるのだろうか、思えば去年はもう少し髪の毛があった気がする。思えばもっと太っていた気がする、そういえば料理が下手になった。薬が父の髪を脂肪を抜き味覚を奪った、私の知ってる父を薬が奪い薬が父の命を伸ばしていると思うと誰を憎めばと悩む。 #twnovel
2010-11-17 19:37:22星が降るのを見るために夜更かしする君のために温かいココアを準備しよう。君の好みに合わせて甘さ控えめ。君の願いが少しでも叶いますように。毛布も準備しよう。揃って風邪をひいてしまわぬように。雨男の君のために一緒に起きてるつもりの晴れ男より。 #twnovel
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