【第二部-拾九】龍鳳、着任 #見つめる時雨

時雨×龍鳳
4
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

提督は今朝から出張に出ていた。間近に迫った大規模作戦に関する会議が横須賀で行われるとのことで、提督はそれに参加するため、夕立・比叡の二人を連れて今朝出発した。今は扶桑が提督の代理として鎮守府を預かっている。僕も扶桑の秘書艦として、今も書類にペンを走らせていた。

2014-08-03 20:00:19
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

扶桑は提督の日常業務の他に、もう一つ仕事を預かっていた。それは新たに着任する鑑娘の受け入れ対応。間近に迫っている大規模作戦に向けて、僕達の鎮守府の空母機動部隊の増強を目的としたものだった。そして、どうやらもうすぐ到着予定時刻らしい。扶桑は先程から、少し時計を気にしていた。

2014-08-03 20:05:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

電話の呼び鈴が提督室に鳴る。扶桑は受話器に手を伸ばし、しっとりして落ち着いた声をそれに注いだ。 「はい、舞鶴鎮守府提督室です」 …会話の内容を察するに、電話の主は例の新任さんみたい。可愛らしい声が受話器の向こうから聞こえてくる。空母だって聞いてるけど、どんなコなんだろう。

2014-08-03 20:10:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「もうすぐ到着ですって。時雨、正門へお迎えに行ってくれないかしら」 「うん、任せて」 僕は書類に走らせていたペンを置いて立ち上がった。あ、そういえば新任さんの名前を聞いてないや。 「扶桑、そのコの名前は?」 「まだ教えてなかったわね。航空母艦――」

2014-08-03 20:15:08
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

舞鶴鎮守府の正門へ向かう。歩きながら空を眺めると、綺麗な星々が空に浮いているのが見えた。夕刻にあった夕立が嘘のように、空は澄み渡っている。とっても、いい天気。僕は夏の夜空に両手を伸ばしながら、大きく息を吸い込んだ。 「ん…」 背筋が伸び、心地よい感覚が身体を通り抜けた。

2014-08-03 20:20:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

門の外に出るとガラガラとキャリーケースを引く音が聞こえてきた。もしかして、あのコかな。そう思って音の方向に視線を向けると、その音はキャリーケースを引く音ではなく…。 「きゃああああ!?止まって!止まってぇー!!」 キャリーケースが物凄い勢いで僕に向かって走ってくる音だった。

2014-08-03 20:25:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「うわぁ!?」 突然のことに驚かされたが、僕はキャリーケースを受け止めることができた。ふぅ…。 「ごごごごめんなさい!石につまずいて、思いっきり押しちゃって…」 キャリーケースの持ち主らしきセーラー服の少女が何度も頭を下げる。 「気にしないで、僕は何ともないから」

2014-08-03 20:30:11
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

少女が顔をあげる。そのコは直立すると僕が視線を持ち上げるくらいの背の高さがあった。山城より少し低いくらいだろうか。 「…あれ?もしかして、時雨…?」 「え?」 このコ、僕のことを知ってるの?…僕は、その少女の顔をじっと見つめた。あ…。 「…龍鳳?」

2014-08-03 20:35:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「きゃー!!時雨!!久しぶり!!」 「むぎゅ…」 僕は龍鳳に勢いよく抱きしめられた。身長差もあって、僕は龍鳳の胸に顔を埋める形になっている。結構真面目に息ができない。く、くるしい…。

2014-08-03 20:40:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「そっかぁ、時雨、舞鶴所属だったんだ…!よかった…ここに転属になって。また時雨にこうして会えるなんて…私、嬉しい…!」 龍鳳が何やら喜んでいるみたいだけど、僕はそろそろ限界だった。山城、最後はキミの顔を見ながら、眠りたかったな…。 「って、あれ?し、時雨!?」

2014-08-03 20:45:08
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「時雨!時雨!しっかりして!」 頬を叩かれ、その感触で僕は現実へと戻ってきた。 「龍鳳…」 「よかった…。時雨、気づいたらぐったりしちゃってるんだもの…どうしようかと…」 うん、大体キミのせいじゃないかな…。

2014-08-03 20:50:08
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

龍鳳と二人で鎮守府の玄関へと向かう。折角迎えに来たので僕がキャリーケースを持とうとしたら、断られた。 「物資輸送は私の仕事。時雨はその護衛でしょ?」 そう言いながら、龍鳳は冗談っぽく微笑んだ。ふふ、そうだったね。 「じゃあ、僕の後ろに付いてきて」

2014-08-03 20:55:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「聞いてるかもしれないけど、提督は今横須賀に行ってるんだ。だから挨拶はできないけど、代わりにここの艦隊旗艦の扶桑を紹介するよ」 「あ、さっきの電話に出た…とっても綺麗な声だった」 「ふふ、それは皆の間でも評判だよ」 何でだろう、扶桑のことを褒められて、僕がちょっと嬉しい。

2014-08-03 21:00:12
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「―ようこそ、舞鶴鎮守府へ。ここの艦隊旗艦を任されている戦艦、扶桑です。これからよろしくお願いしますね」 「は、はい!空母龍鳳です!よろしくお願いします!」 柔らかな物腰で挨拶をする扶桑とは対照的に、龍鳳は緊張で固くなってしまっていた。 「ふふ、龍鳳ってば」 「うう…」

2014-08-03 21:05:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「お疲れのところ申し訳ないけれど、こちらの書類にサインをお願いしますね」 龍鳳は書類を受け取り、僕の使っていた席に座った。サラサラと、彼女の細い指が「龍鳳」の文字を綴る。 「…あの、時雨…?そんなに見ないでください…」 「うん?気にしないで。綺麗な字だなって見てただけだよ」

2014-08-03 21:10:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「時雨、貴女には龍鳳さんがここに馴れるまで、色々見てあげて欲しいの。よろしく頼むわね。龍鳳さん、何かわからないことがあったら遠慮なく時雨を頼ってくださいね。勿論、私も協力いたします」 「は、はい!」 龍鳳の遠慮がちな視線が僕の方に届く。僕はそんな龍鳳に、笑顔を送った。

2014-08-03 21:15:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「またよろしくね、龍鳳」 不安そうだった龍鳳の表情が明るくなる。ふふ、よかった。 「じゃあ、これからキミの部屋に案内するよ。扶桑、他にやることってないよね?」 扶桑が頷くのを確認してから、龍鳳の前に手を伸ばした。 「行こう」 龍鳳が僕の掌を目をぱちぱちさせながら見る。

2014-08-03 21:20:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「う、うん」 龍鳳が僕の手を握る。さっきまでキャリーケースを握っていたせいかな、龍鳳の手は温かかった。 「あ…」 「うん?どうかしたの?龍鳳」 「え!?…ううん、何でもない…!」 どうしたんだろう?変な龍鳳。 「じゃあ、扶桑、また後で。行ってくるね」

2014-08-03 21:25:08
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

空母寮の一室に龍鳳を案内する。隣の部屋の祥鳳と瑞鳳は今遠征中だから会えないことを伝えたら残念そうにしていた。 「ここを一人で使っていいの?」 龍鳳が部屋を見渡す。確かに一人で使うには広いかもしれない。 「今はね。また新しく艦娘が着任したら、相部屋になるかもしれないけど」

2014-08-03 21:30:11
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「そうだ、着替えようっと」 龍鳳がキャリーケースを倒し、中を開いた。 「僕、外で待ってるね」 「え?いいってば。上に羽織るだけだよ」 龍鳳はそう言いながらキャリーケースの中から桜色の着物を取り出した。 「今日は取りあえずこれに…」 そして制服の上にそれを羽織った。

2014-08-03 21:35:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「空母龍鳳、推して参ります。ふふ」 龍鳳が僕の前で、ひらりと回って見せる。季節外れの桜の花弁が、部屋に舞った。 「…綺麗」 思わず口から本音が零れてしまった。…龍鳳は少し照れた様子で微笑んだ。 「ふふ、ありがと。嬉しい」

2014-08-03 21:40:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…私ね、時雨にまた会えて、本当に嬉しかったんだよ。…これからよろしくね」 柔らかく微笑む龍鳳。彼女の頬は、ほんのりと桜色に染まっていた。…ふふ、また思っちゃったよ。綺麗って。 「…時雨?そんなに見られると、ちょっと恥ずかしいかな…」 「え?いいじゃない。見てるだけだよ」

2014-08-03 21:45:09