彼女たちの戦後 鳳翔の場合3、4

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MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「まあ、ようないのはわかっちょるんじゃがのう」 「……そうですね」 立派だったあの人が、どうして根腐れするように、と思うところがあるのは、鳳翔も同じではあったが、その「なぜ」がよくわからない。自分の話はしない人だったからである。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 22:50:16
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

あの時、顔を合わせた時にもうちょっとマシな対応をしていれば変わったのかもしれない、とは思うが、どうにも『許せなかった』のである。 「はあ、まあ別の下宿を探してもろうた方がええかもねえ。紹介するよ?」 そう、ぽつりと老婆はつぶやく。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 22:55:04
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「別の下宿、ですか」 「いや、あれが帰ってくるとは思わんかったけえねえ。男がおるところはいかんじゃろう。こっちの都合で移ってもらうことになるわけじゃけえ、お金は出すし」 「……一度だけ、話をさせてもらっても良いですか」 #彼女たちの戦後

2014-08-17 22:58:08
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「……やめときんさい」 むしろ、やめろ、と老婆は言っている。根腐れする男にかかわって不幸になる必要はない、と目は語っている。 「話をさせてください」 #彼女たちの戦後

2014-08-17 22:59:58
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

渋る老婆をなだめすかして、何とか居間に入る。外には箒をもった老婆が居て、何かあったらひっぱたいてでも助けるけぇね。と言っているのを見て、苦笑した。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:02:49
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

部屋に入って、うっそりとこちらを男が向くのを見るまでは。そう思えた。 ただ、酒を飲んで泣いているだけ。だが、貼ってあったF-15のポスターが乱暴に破り捨てられているのを見たその時。ぞくり、としたものを、鳳翔は背に覚えた。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:06:56
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「どうした。鳳翔」 ひっく、としゃくりながら、男は『提督だった時』と同じ口調で言う。 「……どうして、ポスターを破ったのですか?」 はっ、と笑いながら、酒をどくどくとそそいで、溢れそうなそれを震える指で、提督が干すのを見た。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:09:02
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「俺の部隊歴、知ってるか? ああ、話してなかったっけか」 「……ええ、聞いたことはなかったと思います」 「お前さんらの指揮を執る前な、俺は601飛行隊に居たんだ。母艦も守れなかった戦闘機乗りだよ」 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:14:07
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「601……」 「おまけに俺はな、エンジンに敵機を吸い込んで落ちたのよ。一発も弾丸を撃たないうちに落ちたんだ」 「あの……」 「そんなことを思い出してたらさ。破っちまったわ」 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:15:37
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「ダメになった。ダメになったんだ 全部」 再び、酒を注ぎ、飲み干す。 「……なあ、なんでこんなにうめえんだろうな、酒が」 まずくなきゃいけないのにな。とつぶやく提督の顔を見ると、まだ泣いている。ぐずぐずと。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:17:37
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「それ以降、もう駄目だったよ。本当に。コクピットに乗って、ヘルメットをかぶると気分が悪くなってな。P免」 P免とは、パイロットでなくなる、と言う事だった。ポスターの黄ばみ具合から言って、本当に昔から好きだったのだろう。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:21:23
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「……なあ、なんでさ」 顔を背けて、ぽつり、と提督はつぶやいた。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:22:53
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「……提督は、そんなことを思いながら私たちの指揮を執っていたのですか?」 ショックではない、といえば、鳳翔とて嘘になる。なぜそんなことを言われたのか、と言うことだ。怒るでもなく、ただ、つぶやくように言われたことが、ただ、ひどく胸に刺さった。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:26:05
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「違う。なんといえばいいのかな……深海棲艦が居た頃は、考えなくてよかったんだ。そんなことは。忙しかったし、敵は居たし……わからない。勝ってから、そう、勝ってからなんだ」 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:28:19
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「勝ったことが、間違いだったとでも?」 思わず、詰問のような口調になってしまう。むら、と怒りがわいてくるのもわかった。私はこんな人の指揮下で死なせるために、教え子を送り出していたわけではない。そう、思ったからだ。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:30:15
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「よかったに決まってる」 そう、提督は断言した。 「では、なぜ?」 「何もないことに気づいたんだ」 ぐい、と再び酒をあおり、振り向いた。 「何もないことに、気づいたんだ」 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:31:31
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「勝った後。憎む敵が居なくなって……何もなくなったんだ」 それを聞いて、ふ、と考え付いて、鳳翔は窓を開けた。 「空はまだあるじゃないですか」 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:33:03
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「アル中のパイロットなんてどこに居る」 それを聞いて、鳳翔は、コップを取り上げて、言った。 「もう、お酒はやめましょう。わかっているなら」 そう言った瞬間、泣き笑いのような表情を浮かべて、提督は目元をこすった。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:37:33
MIB@C103土曜日(1日目) 東ユ61a @MIBkai

「そうか。そうか……そうかな?」 「そうですよ」 「……そうだよな」 そう言って、提督は寝息を立て始めた。起きた時に覚えているかどうかはわからない。わからないが、多分、次に会うときは飲んではいないだろう。という確信はあった。 #彼女たちの戦後

2014-08-17 23:40:32