怪談BASARA #kaidan_bsr 第四夏目第三回　まとめ。

かぎろひ @youkagiroi

「知ってるよ。まつ姉ちゃんから昔聞いたよ。男が天女から羽衣取っていっちゃうヤツだろ？ひでぇ話だよな」「そうだ。それは三保の松原のものだ。だがそれだけが羽衣伝説ではない」「そうなの」「羽衣伝説は各地に沢山ある。無論この地にも、だ」「それってこれと関係あんの」　#kaidan_bsr

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「大いにある――昔、この地にも天女が水浴びに来た。そこにある老夫婦が差しかかった。老夫婦は魔が差したのか、天女の衣服を一つ隠したそうな。すると服のない天女が裸のまま残された。天女は羽衣がなければ天に帰れぬ。嘆いていると老夫婦がうちの娘にならないかと言った。　#kaidan_bsr

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天女は仕方なく首を縦に振った。天女は老夫婦に実の親のように孝行した。誰よりも働いた。特に天女の作る酒は万病に効くと評判になり、老夫婦は豊かになった。だが、それまでだ。老夫婦はある日天女にこう言った。「お前は我らの娘ではない。何処へでも行くがいい」とな。　#kaidan_bsr

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天女は泣きながらここに留まりたいと訴えたが叶わず空しく追い出された。天女は長く地上に居すぎたせいで一生天に帰れぬ身となった。天女はこの辺りを彷徨った。そして息絶える前にようやくこの地に辿り着いたのだ」「それがこの祠って訳？」「その通りだ」　#kaidan_bsr

数寄屋＠鈍色スイッチ @suquiya

ひどい話や…。 #kaidan_bsr

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「でも何で……」「話は最期まで聞け。その後天女のいなくなった老夫婦の家は一気に落ちぶれ、二人は病に倒れた。更にその年、大地震が起きた。家は潰れ、死者も多く出た。その地震の後、とある村人が廃墟となった老夫婦の家から羽衣と思わしきものを見つけた」　#kaidan_bsr

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「……」「で、その村の神主がそれを燃やしあの天女を祀ったのよ。それこそこの神社ぐらいにな」「へぇ」「だが時の権力者によってその神社は潰れた。名残はこの祠のみよ」「すごく勉強になった」「嫌そうな顔で言うな」俺は毛利の兄さんの話を聞きふとあることが気になった。　#kaidan_bsr

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「で、毛利の兄さん」「何だ？」「天女さんはどんな気持ちだったんだろうな」「我にも分からぬわ。ただ……」「ただ？」「天女は良き物と悪しき物を残した」「へっ？」「何だか分かるか？」「うん、わかんない」「そう言うと思うたわ。教えてやる、良き物は先程の酒だ」　#kaidan_bsr

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「じゃあ悪いものは？」「貴様に教えても仕方ないが……悪しき物とは呪いのことよ」「え……？」「天女はさぞかし老夫婦を恨んだのだろう。いや或いは自分が老夫婦から追い出されても救いの手を差し伸べなかった村人を憎んだのか。厄介な呪いをかけたのよ」「何だよそれ」　#kaidan_bsr

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「前田、黒淵の沼を知っておるな」「あ、ああ」知るも何もあそこは――。「あそこはな、天女が水浴びをしていたところだ。天女が死んでから奇妙なことが起こった」毛利の兄さんの顔を見てたら何だが胸騒ぎがしていた。「あの沼でな、ある日ある条件の元で水を飲むと――」　#kaidan_bsr

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携帯電話の音。「もしもし？元親？」『もしもしじゃねぇよ!!鶴の字はどうした？お前一緒だっただろ？』「ん？ああ、確かお手洗いに――」ん？変だな。あれからもう三時間も経ってる――？『鶴の字が帰ってこねぇって親御さんが泣き付いているんだよぉ』「ええっ？」 　#kaidan_bsr

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『今、総出で探しているからテメェもさっさと鶴の字を見つけやがれ!!』「うんうん、分かった。ありがとう」そう言って俺は切った。「何かあったか？」「ごめん、毛利の兄さん。今大変なことになっているんだ」「だからどうした？」「鶴ちゃんが見つからないんだ」　#kaidan_bsr

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「あの小娘か……」「どうかしたのかい？」「いや、まさか……いや、何でもない」そう言って毛利の兄さんは何処かへ行ってしまった。「キィ……」「絶対何か言いかけたよな、あの人」しかし毛利の兄さんに構っている場合ではない。俺はその場をすぐに立ち去った。　#kaidan_bsr

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鶴ちゃんは何処をいても見つからなかった。俺はあの時意地でも一緒に行けばよかったと拳を強く握り締めた。自分が本当に情けない。俺はとにかく心当たりがありそうな場所をくまなく探した。そうしてお月様もいつの間にか天高く空を輝いていた。　#kaidan_bsr

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俺はあの沼に来ていた。来たのはおそらく子供の時以来だ。沼は恐ろしいほど静かだった。波紋の一つもない。辺りはただ虫が静かに鳴いているだけだった。「はぁ……はぁ……何処にいるんだよ、鶴ちゃん」せめて事故や事件に巻き込まれなければいい。俺は強く願った。　#kaidan_bsr

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沼を一周しかけた時、俺は小さな人影を見つけた。「――――鶴ちゃん？」間違いない、鶴ちゃんだ。人影は名前を呼ばれるとびくっとして振り向いた。「慶次、さん……？」「心配したよ。おじさんもおばさんも探してるよ」「ごめんなさい……」「いいって、無事なんだし」　#kaidan_bsr

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「ありがとうございます」「それにしてもどうしたんだよ、こんなとこに来て……」「……これを見てください」鶴ちゃんは抱えていたものを俺に見せた。それはねねの腕時計だった。靴以外は見つからなかったというのにどうしてこれが……？「実はこれ、そこで見つけたんです」　#kaidan_bsr

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鶴ちゃんが指差した先は沼から目と鼻ほどしか離れていない叢だった。「私、ずっと気になっていたんです。お姉ちゃんは死んだものだと思っていました。でも、海賊さんからお姉ちゃん見たって言った時からずっとずっとここに来て探していました。ええ……」「鶴ちゃん……」　#kaidan_bsr

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「でも、慶次さん。お姉ちゃんはまだ見つかっていないんですよ？五年経った今でも！だったら、生きているかもしれないじゃないですか！」「落ち着いて、分かったよ。俺にも分かるよ、その気持ち」そう言うと鶴ちゃんは気の抜けたようにその場に座り込んだ。　#kaidan_bsr

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その時だった。「ん?!」「え?!」叢がざわめく。恐かったのか鶴ちゃんは思わず退いた。何かがいる――俺も夢吉も彼女もそう思った。　#kaidan_bsr

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それはやがてのっそりと姿を現した。その姿に俺達は絶句した。「嘘……!?」「マジかよ……」「キキッ」確かにそれは人と言われれば人だったかもしれない。けど乱れた髪に薄汚れた四肢、こちらを見つける目の異様な光を見たらやっぱり普通じゃないと思った。逃げなきゃ。　#kaidan_bsr

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でも逃げられなかった。「お姉ちゃん……」鶴ちゃんが小さく呟いた。　#kaidan_bsr

かぎろひ @youkagiroi

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハ」突然響く高い声。それは嬉しそうにも悲しそうにも聞こえた。俺はその時毛利の兄さんの話を思い出していた。『あの沼でな、ある日ある条件の元で水を飲むとな、不老不死になるのだ』『不老不死？嘘だろ？』　#kaidan_bsr

かぎろひ @youkagiroi

『嘘ではない。あの沼では新月の日に女子が沼の水を飲むと本当に老いも死もない身体になるのだ』『そんなの誰が信じるんだよ』『信じられなければそれでいい。だが先祖の遺した書には確かにそのような者達がいたと書かれていた。だがな、』『んっ？』　#kaidan_bsr

かぎろひ @youkagiroi

『だが、それは同時に人でなくなるのだ』『人でなくなる？』『不老不死――即ちそれが天女が残した呪いよ』毛利の兄さんが言っていたのはもしかしてこのことだったのかもしれない。「ねね……」あれは確かにねねだ。でも俺の記憶にあるねねでも夢に出たねねでもない。　#kaidan_bsr