バック・イン・ブラック #5

(メガロ電脳都市ネオサイタマの闇を牛耳る邪悪な支配者、それはニンジャ。クリスマスイブに引き起こされたマルノウチ・スゴイタカイビルの爆発炎上事件も、ニンジャの仕業だ。しかしその悲劇の直後、ニンジャを殺す謎のニンジャが現れる。#1 togetter.com/li/702450 )
2014-08-17 16:42:44
(ニンジャを殺すニンジャ、すなわちニンジャスレイヤー。彼の殺忍行為は、やがて悪のニンジャ組織「ソウカイヤ」の知るところになった。差し向けられるニンジャ・エージェントに、ニンジャスレイヤーは無慈悲なカラテをふるう。 #2 togetter.com/li/702803 )
2014-08-17 16:45:09
(ニンジャスレイヤーの殺戮行為はエスカレートし、ソウカイヤのニンジャばかりか無辜の市民をも巻き込むに至る。炎の中、彼の前に立ちはだかったのは、ソウカイヤのエージェントではなく、ドラゴン・ドージョーのローシ・ニンジャであった。 #3 togetter.com/li/704032 )
2014-08-17 16:49:08
(ローシ・ニンジャはニンジャスレイヤーをジュー・ジツで打ち負かし、彼の力の源であるナラク・ニンジャの邪悪な魂を封印した。残されたのは力失せた一人の男。「イクサから離れよ」。ローシの言葉が重くのしかかる。彼の生きる道とは!? #4 togetter.com/li/707053 )
2014-08-17 16:53:15
(さあ、Twitter大気にカラテが満ちてきた。そろそろ当アカウントにて開始される #5 更新!ニンジャスレイヤーに何が起こる!?途中に一度の休憩を挟みつつ、今夜それは語られるだろう!バック・イン・ブラック!せよ!)
2014-08-17 16:58:56
「今年も、ここに来れて良かったわ」フユコが静かに笑う。その隣では、「ニンジャだぞー!ニンジャだぞー!」玩具のヌンチャクを持って騒ぐ、幼いトチノキ。「やれやれ、トチノキはニンジャが大好きだな」フジキド・ケンジは苦笑した。「一体何処で、ニンジャなんて覚えた?」 1
2014-08-17 17:29:50
そして、にこやかな会話を離人症めいて後ろから見つめる、もう一人の彼自身が居た。ここはどこだったか。フジキドは周囲の白い霧を見渡した。妻子以外の光景がおぼつかない。ここはどこだったか。いつの事だったか。思い出そうとするが、霧は濃くなるばかりだ。やがて妻と子の笑顔も霞み、隠れる。2
2014-08-17 17:32:43
「トチノキ。ニンジャってのはな」フジキドは呟き、己の手を見た。禍々しい手甲を。見つめるうちに、その表面に白い亀裂が生じ、広がり、砂めいて崩れ去った。彼は訝しんだ。「ニンジャってのは……」彼は瞬きした。家族の姿はもはや無い。明滅する廃ボンボリが薄汚いガレージに淡い光を投げた。 3
2014-08-17 17:38:56
「ニンジャ……」フジキドはアグラを解いて立ち上がった。眠ってしまったか。ウカツだ。彼は時計を見る。経過時間は30分程であろうか。彼は安堵する。今いる場所は町工場地域の廃ガレージだ。誰の所有とも知れぬ。メガコーポの進出により、この区画自体が廃業し、遺棄された。 4
2014-08-17 17:42:47
出入り口付近の壁の釘にはトレンチコートとハンチング帽が掛けられ、その下の床に、替えの衣類が折り畳まれている。フジキドは立ち上がった。ブレーサー(手甲)は無い。レガース(脚甲)も無い。メンポ(面頬)も無い。それらは失われた。彼は朽ちかかった作業台に向かった。 5
2014-08-17 17:48:37
鋼板。砂鉄。ハンマー……金床……グラインダー……旋盤……どれも急ごしらえの調達物。道具の状態も悪く、なによりフジキドは鍛冶屋でもない。彼はバッテリーを作動させ、騒音の中で、黙々と作業を再開する。背後の壁には大小様々な紙が釘で張り付けられている。びっしりと文字が書かれている。 6
2014-08-17 17:55:12
メモに書かれているのは、記憶だ。「パラポネラ。右手打撃。銃弾回避。攻撃を誘う。噛みつきの接近に合わせ、宙返りしながらの蹴り上げる。サマーソルトキック」「ヘルディーラー。連続の打撃からの回し蹴り、爆発物に巻き込み、トドメを刺す」「ウィールダー。立ち会い、チョップ回避、左へ潜る」 7
2014-08-17 18:04:28
「ラウンダーズ。トテキ・ジツ。肩筋肉の緊張と視線からマルチプル・クナイの投擲角度を読み取り回避」「アゴニィ。イタミ・ニンジャ・クラン。苦痛を力に。四肢を封じ、焼くことで殺害」「シャープトゥース。メイアルーア・ジ・コンパッソの回避」……時には人体図や建物図を交えた記録の数々。 8
2014-08-17 18:14:07
邪悪なナラク・ニンジャが思う存分にカラテを振るうさなか、フジキドの意識は無限の苦悶の渦に吞まれていた。だが、ナラク・ニンジャの目を通した殺戮の光景は、彼の記憶としてニューロンに焼きつけられていた。彼はその記憶に縋った。アグラ・メディテーションを通してそれらを拾い、書き記した。 9
2014-08-17 18:19:13
ナラク・ニンジャのソウルを封じたドラゴン・ゲンドーソーにより、フジキドは一命を取り留めた。彼が去ったのち、フジキドは真っ先に己の無力と直面させられた。ナラクは封じられ、もはやフジキドを害する事はない。だが同時に、その悪魔的なまでのカラテの秘儀やニンジャ第六感も失われたのだ。 10
2014-08-17 18:24:46
これまでの彼のイクサは、まさに暴走と呼ぶに相応しかった。アグラ・メディテーションを行うことで、戦闘の記憶断片はかろうじてサルベージできる。それらも書き記さねば、ニューロンの自衛機構めいて、すぐにまた失われてしまう。作り替えられたニンジャの肉体は残った。それだけは、残った。 11
2014-08-17 18:29:08
「イクサから離れ、堅実に、日々を生きるのだ。それがお前の最善の選択だ」ドラゴン・ゲンドーソーの去り際の言葉は、悪あがきじみた鍛錬を行うフジキドの脳裏に常に存在し続けた。それは全くの正論。反論の余地は無い。ソウカイヤの手の届かぬ遥か遠方へ逃れ、世捨て人として暮らす……。 12
2014-08-17 18:36:36
その選択肢を採る余地は、彼には一切無い。「スミマセン」思わず謝罪の言葉が口をついて出た。彼はドラゴン・ゲンドーソーの処置を恨んだだろうか?否。ゲンドーソーは自身の正義を為した。カラテのぶつかり合いを通して、彼はそれを理解していた。だがフジキドの意志とゲンドーソーの正義は違う。13
2014-08-17 18:49:27
フジキドは感謝めいた気持ちすら抱いていた。少なくとも命が、肉体がある。これでまだ続けられる。グラインダーが火花を散らす。ボンボリの光に赤黒の装束布が照らされる。彼は合成ダイヤ刃の彫刻刀とハンマーを手に取る。メンポに刻む。恐怖を煽る字体を。より恐ろしく。ニンジャが恐れるように。14
2014-08-17 18:59:33
あの後、彼は放置されたままになっていた己の住居に戻り、全ての資産の処分を済ませた。ささやかではあるが、まとまったカネが手に入った。当面は十分にもつ。壁際に小さな台が置かれている。そこには一枚の写真がある。家族の写真だ。それがフジキド家の宝なのだ。彼は刃を打ち込み続ける。 15
2014-08-17 19:07:17
ブレーサー。レガース。失敗した製作物が幾つか積まれている。やがて彼はメンポに刻み終えた。二文字の漢字を。「忍」「殺」。ニンジャを。殺す。 16
2014-08-17 19:11:24