我々は家に帰って性交した。性交ということばが僕はとても好きだ。それは何かしら限定された可能性を連想させてくれる。 「今日流れてきた桃から子供が生まれたりとか?」 「あるいは」 #春樹力の高い童話
2014-08-21 21:48:08「僕は何とかそれを乗り越えたと思う」 狼は少し考えてからそう言った。そしてナイフとフォークを下に置いて、ナプキンで口を拭った。 #春樹力の高い童話
2014-08-21 21:49:54空へ引き寄せられているのか、はたまた空が近づいてきたのか、僕には解らなかった。ただ足下で鬱憤を晴らすかのように青空に緑のヒビを入れてゆく豆の木を、期待と少しばかりの恐怖と共に見守っていた。 #春樹力の高い童話
2014-08-21 22:17:14鏡に映る姿を眺めていた。 そのうち、鏡に映る相手の動きにこちらが合わせているような感覚になってくる。 相手の口の動きに合わせてこう尋ねさせられた。 「この世で一番美しいのは」 「それは君かもしれないし、君じゃないかもしれない」 やれやれ。こうして旅は始まる。 #春樹力の高い童話
2014-08-21 23:19:54「おばあさんの口は、どうしてそんなに大きいの?」私は訊ねた。 やわらかなベッドに沈んだ老婆が笑った。笑い声は、全力疾走した狼が牙の外側に長い舌を垂らして必死に呼吸する音に似ていた。 この時、私は気付くべきだったんだろう。 「今に分かるさ」と言った彼女の意図に。 #春樹力の高い童話
2014-08-22 01:28:45私は泡になった。折角姉たちから貰ったナイフも、役目を果たせないままどこかへとやってしまった。もしも彼女らの言うとおりに王子を殺していたら、一体どうなっていただろう? 少なくとも私はまだ地に両足を付けていられただろう。ただ、それが正しいのかどうかは判らない。 #春樹力の高い童話
2014-08-22 01:38:31「僕は山へしばかりに。君は川へ洗濯に。自分の仕事をそつなくこなすんだ」 「それから?」 「家に帰って、コルトレーンでも聞きながらワインでも飲んで二人の疲れをねぎらう。それから僕たちはセックスをするんだ」 「それ、とっても素敵」 そう言っておばあさんは笑った。 #春樹力の高い童話
2014-08-25 08:16:46「大きくて、重い蕪があり、それを引く抜こうとして抜けない卵達がいるとしたら、 私は常に卵側に立つ」ということです。 #春樹力の高い童話
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