♮2 間奏曲 ♪ 反逆のアフタヌーン前編 1/2(1~41まで)

エバー・ラスティング・アロー・ミストルティン編まとめ http://togetter.com/li/439782 ⇔人物目録⇔ http://togetter.com/li/446022 第十八話 壊縁♪~ホワイトのショータイム~インディヴィジュアリスツ・エイム~ 続きを読む
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Astal_jukebox @astral_jukebox

「つまり…貴方の意志で通わせていない? 「それがどうした。不登校児でも学歴にはなる筈だぞ」 「それが未菜途ちゃんの意志ならそうですね」 「…何を言っている?」 夕里は溜息を飲み込んだ。 「いいですか?未菜途ちゃんが自分の意志で通っていないのなら今仰った通りです」 15

2014-09-01 00:45:15
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「だからそう言っている」 「いや言ってませんよ…」 軽く溜息が漏れる。公的な場でもないので、まあいいやと言う気分だった。 「貴様…私を馬鹿にしているのか?」 「まさか」 これ以上「馬鹿にする」には百回くらい頭を殴ればいいだろうか?夕里は本気で悩んだ。 16

2014-09-01 00:59:05
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一拍置いて夕里は続けた。 「親には子供に教育を受けさせる義務があります。それが義務教育です」 まさか『子供の義務』と勘違いしてはいないだろうが、念の為そこから説明する。 「だから受けさせているだろうが!」 「学校に通っていないのは、未菜途ちゃんの意志ですか?彼女が嫌だと?」 17

2014-09-01 01:09:00
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「ああそうだ」 「では彼女に会わせて下さい」 途端、托馬が血相を変え立ち上がった。 「ふざけるな!弁護士如きが何の権限があってそんなことを!児童相談所や民生委員には話はついている!」 確かに無関係の弁護士の出る幕では無い。が、それは最初に言うべきことだ。遅い。 18

2014-09-01 01:13:11
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「確かにここのお役所の方々とは定期的に面会しているようですね」 夕里は暗記済みの手元の資料をぱらぱらと捲る。 「そうだ…何故貴様がそんな物を持って」 「何故か毎回似たり寄ったりの文面ですが」 具体的に言うと、未菜途本人に会って書いたのかが疑わしい内容だった。 19

2014-09-01 01:27:29
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「っ…役所の仕事などそんな物だろう」 「まあ…まともに仕事をしているとは言い難いですね」 托馬は地元ではそれなりの権力者である。役所を黙らせたり、多少の捏造をさせるくらいは容易い。 「だったらどうした!」 「どうしても会わせて頂けない?」 20

2014-09-01 01:35:06
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「だからどうしてそんな必要がある!貴様にそんな権限は無い筈だ!」 「…じゃあ、帰っちゃってもいいんですね?」 「…?…あ、ああ帰れ!」 「その足で、週刊誌か貴方の対立会派の事務所に伺うかも知れませんが…宜しいですね?」 「!?」 21

2014-09-01 01:45:14
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→→→→→【中断・明日夜再開予定】→→→→→

2014-09-01 01:52:04
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→→→→→【再開:1時間前後の予定です】→→→→→→→

2014-09-02 02:12:06
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夕里は3つの透明袋を取り出し、片手で持った。良く見るとそれぞれ数本の毛髪が入っている。 「これのDNA鑑定結果をリークしたら…面白いでしょうねぇ?」「ぬ…」「ご存知ですか?親子の一致率は50%ですが、それより濃くなる場合もありますよねぇ。どんな場合だったかなぁ?」 22

2014-09-02 02:12:26
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夕里はまともな交渉を諦めた。そもそも交渉とは、情のある相手には情に訴え、道理の通じる相手には法に基づいてするのが基本である。しかし人間性と知性、その両方に欠ける相手にまともな交渉など通用しない。となれば後はもう脅迫か暴力くらいしかない。正直、最初からそのつもりだった。 23

2014-09-02 02:18:08
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「貴様…私は県議だぞ!」 「そうですね?」 托馬が怒鳴りつけるが、夕里はきょとんとしてみせた。 「…あ。もしかして脅してらっしゃいます?」 夕里が脅し返されたことに気付くのには、5秒もの長時間を要した。だがこれは彼女のせいでは無い。 24

2014-09-02 02:25:06
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彼女が運営する『浅空法律相談所』は大企業の役員や県知事、国会議員、閣僚や大臣とも取引がある。「権力で」脅すには県議のそれでは不足過ぎる。これは少なくとも関東圏で弁護士を雇う人間、特に政治家なら、彼女らと直接の取引が無くとも知っているべき知識である。 25

2014-09-02 02:30:12
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例えるなら、『地元のスーパーしか使わない人間でも全国チェーンのスーパーの名を知っている』ようなものだ。もっとも彼女を知らない相手は初めてでは無い。一般人は勿論、政治家でも部下に法律関連を任せていれば、ままあることだ。だが托馬には昨日の今日とは言え、アポを取っているのだ。 26

2014-09-02 02:35:11
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得体の知れない弁護士と秘書抜きで相対するというのに、素性を調べておかない。これ自体が夕里には考え難いことだった。 準備不足にも程がある。いくら彼の秘書が昨日付で、彼の知らぬうちに無断で退職しているとはいえ。 「ふん」 托馬は呆れと見下しの表情を見せる。 27

2014-09-02 02:43:16
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これは『勿論脅しているが、素直に言う訳がないだろう。馬鹿女が』という意味である。夕里は無視して、紅茶を飲むふりをする。これを供したメイドはもう屋敷にいない筈だが、念の為、口はつけない。何分この家には客に飲ませる睡眠薬は店を開ける程にあるので用心に越したことはない。 28

2014-09-02 02:55:45
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「それで…どうなさるおつもりです?」 「どうもこうも無い…貴様が大人しくしていれば良いだけだ小娘が。大人しく帰れ!」 托馬は虚勢を張ってみせるが、心中は穏やかでは無い。彼と娘の未菜途、息子の星護…その血縁関係を暴かれるのは非常にまずい。失職どころか逮捕もあり得る。 29

2014-09-02 03:08:00
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彼にも自分の権力の限界が分かるだけの知能は一応有る。地元警察や役所、地方紙程度は抑え込めるが、全国紙までは無理だ。当然、地元でも他所の政党に圧力は及ばない。彼の手の届かないところに夕里が情報をリークすれば、押さえつけようがない。 30

2014-09-02 03:17:10
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政治家にとっては白黒問わず疑惑が表沙汰になった時点で痛手である。「同意のないDNA鑑定など無効だ!」という正論も「別人のものだ!」という詭弁も関係ない。増して実際に黒であり、未菜途達という生きた物証がいる以上、いずれ致命傷は避けられない。どうにかこの女を黙らせる必要があった。31

2014-09-02 03:22:31
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「しかし私としては、お子さん達の顔を見るまでは」 「黙れと言っているだろう!帰れ!」 「いや私としても(一秒でも早く)帰りたいところなんですけどね…今帰るとどうしてもその足で行かなければならないところが~」 「貴様ぁ……いくらだ」 「え?」 「いくら欲しい?」 32

2014-09-02 03:37:30
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「…今は忙しいので弁護の依頼はお受け出来ませんが?」 「ふざけているのか!」 いえいえとんでもない。夕里は思った。ふざけていたら『貴方如きにに私の弁護士費用が払えますかねぇ?』とでも煽っている。 「まさか私の体が目当て!?やん、困ります!私には主人と息子が!」 33

2014-09-02 03:50:26
Astal_jukebox @astral_jukebox

くねくねと艶めかしく体を捻る夕里。ちなみに彼女は「若手」弁護士とは言え三十近い。充分に若々しく美人の範疇ではあるが、流石にこれはキツい。 「やめろ気色悪い!」 鳥肌を立てながら托馬が怒鳴る。この日一番の怒声だった。 「あン?……ま、冗談はさておき」 34

2014-09-02 03:50:40
Astal_jukebox @astral_jukebox

「分かってますよぉ…口止め料の話ですね?」 弁護士らしからぬ葉に着せぬ物言いに、托馬は数秒言葉に詰まった。『はい』と言ったら諸々を認める様なモノだし『いいえ』と言ったらそこで交渉は終わる。なので別の返しが必要だ。 「私の個人資産は3千万はある」 「そうですか」 35

2014-09-02 03:55:28
Astal_jukebox @astral_jukebox

夕里にはそうとしか言いようがない。仮に総資産全額を貰ったとしても、そんな端金で共犯になるのはご免被る。 「…それでいくらで穏便にお帰り頂けるのかな?」 「イクラですか、ご飯と醤油にネギトロも欲しいですよね」 「おい!…だからふざけているのか!何がしたいんだ貴様は!」 36

2014-09-02 03:58:46
Astal_jukebox @astral_jukebox

激昂する托馬を、夕里は檻の中の珍獣でも眺める気分で見ていた。いや、これは珍獣に失礼か。彼女は別にふざけてはいない。限りなく殺意に近い怒りを、分厚い作り笑いの仮面で抑え込んでいるだけである。仮にも子を持つ親として、目の前の外道、いや汚物の所業は生かしておき難いものがあった。 37

2014-09-02 04:08:00