アオ

上原恵(@kei00521)によるSS連作その7
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アオ

上原 恵 @Uehara_Kei

【アオ】ぱしゃり、ぱしゃん。水飛沫が跳ねて、また還っていくのをぼんやりと眺める。夜は存在をあやふやにさせる。頼りなくて、怖くて、全部をその濃い色で消してしまいそうで。線引きがひどく曖昧だ、と前にこぼしたら不思議そうにされた。 #ss_07

2013-12-28 22:49:20
上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei ぼんやりとした照明に照らし出された夏の夜のプールに、こうして通うのが日課になってしまった。「ほんっと、飽きないのな」「ああ」短く返されて、ぷかりと漂っていた八雲は空を仰ぐ姿勢そのままで泳ぎ出した。#SS_07

2013-12-28 22:50:56
上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 腕で、脚で、水面に切れ目を作って身体を滑り込ませていく。無駄のないフォームは素人目で見ても綺麗で釘付けになってしまう。乏しい表情のまま泳ぎ続ける八雲を横目に、小さく息をこぼす。口数も少ない八雲だが、しばらく一緒にいて分かった。#SS_07

2013-12-28 22:51:58
上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei ――コイツ、目だけは饒舌なんだよな。深い色を宿した双眸で何でも表現する。ただのクラスメイトのままだったら気付けなかった発見だ。もう自分達はただのクラスメイトではない。「浅羽」抑揚のない声で顔を上げると、八雲がジッとこちらを見ていた。#SS_07

2013-12-28 22:54:02
上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 相変わらず言葉は発しないが、でも正しく理解してしまった。彼の言いたいことに。フッと笑みを乗せて、浸していた足を勢いよく振り上げた。水面が暴れて、飛び散っていく飛沫が視界を埋め尽くす。八雲が僅かに目を丸くしたのがおかしくて、満足そうに言った。 #SS_07

2013-12-28 22:55:10
上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 「俺は泳がねーよ」ぱしゃり、ぱしゃん。揺らめいた波に生まれた波紋は、静かな旋律は。【Fin】#SS_07

2013-12-28 22:56:37

あとがき

上原 恵 @Uehara_Kei

24歳最後の日にはどんな言葉が出てくるかなーと思ったら、だいぶぶつ切りなのが出てきましたよーという。昔、とある企画で考えた話の設定をお借りしました。

2013-12-28 22:59:27
上原 恵 @Uehara_Kei

頑なに泳がない少年と背泳ぎしか泳げない少年のお話でした。

2013-12-28 23:01:13